瑠璃色灰かぶり姫の尽きない悩み

妓夫 件

文字の大きさ
上 下
18 / 20
恋人の定義と認識その一

4

しおりを挟む
「受け取るものがあるから国立の家に寄っていく。  通り道だから」

「構いませんが……静さん。  咲希さんかなり怒ってましたけど、私が来る前、何をどういう風に話したんですか」

「見合いの行き違いについて。  俺は長期の海外出張に行ってた。  で、うちの親が勝手に遠縁の親戚をあの席に出していた。  それで帰国してから誤解を解こうとした俺が、見合い当日にキミたちの元へ駆け付けたって話をだな」

よくもペラペラと嘘を。 参った、とでも言いたげに被害者ぶって額に指をあてて喋る静を、半ば呆れ顔で見た。
透子の脳内を察したのか静が悪びれずに言う。

「白井の家のやり方を真似ただけ。 大方、夫人の方は自分の虚偽を追求されたらしらばっくれるつもりだったんだろうが。 それは構わないが、俺が間抜けな人間だと思われたままでも困る」

「静さんに他人のことは言えないでしょう」

傍からみるとどんぐりの背比べにしか見えない。
静が組んだ腿の上に肘をつく。

「そう。  最初からキミが正しい。 あんな見合い自体、馬鹿馬鹿しい茶番に過ぎない。 ま、向こうからすると八神と縁が有りさえすれば構わんのだろうし」

それでも見合い写真の時点で静本人と知らされていれば、咲希はきっとそれを受けただろう。

本当は無かったはずのお見合い。
本来は静と咲希のためのお見合い。

膝の上でキュッと拳を握る。

「そうかもしれませんけど、少し言い方がキツかったんじゃないですか」

「最初キミと会った時の態度よりはマシだろう?  惚れられたりすると面倒だ」

「自信過剰ですね」

「そうかね」

片頬を手のひらに乗せた透子に向かい静が整った顔を傾けた。 くっ。 そうです、と言えない所が癪だ。 
今日は静の雰囲気がなにか違うと思っていたら。 いつものスーツ姿ではなく私服だった。  薄手のセーターと細身のパンツといったシンプルさが、元々の静の素材の良さを殊更に際立たせている。

「深く考える必要はない。 あの娘も仮に跡継ぎならば馬鹿な真似はすまい───ところで、今朝のキミの指先は、まさに桜の花貝のように美しい」

手を取り、まるで口を付けるかのように顔を寄せてくる。
そんな静にひっと驚き、思わず手を引っ込めそうになった。 引き気味の反応をした透子を、不思議そうな目で静が見上げた。

「俺のために装ってくれたんじゃないのか」

「ここここは、21世紀の日本ですから」

「なにを当たり前のことを」

微笑の後指先に軽くキスをし、どことなく機嫌がよさげな静に赤面する。


いつもの自分らしくなく上品に彩られた爪を眺めた───せっかく咲希と仲良くなれそうな気がした。 そう思った透子の胸がチクリと痛む。

「……あの、静さん」

透子が顔を俯き加減にして切り出すと静が視線を返した。

「私、もらわれっ子なんです」

「知っている」

「いえ…そうではなく。  元々、北陸の……白井の実家にも元々養女として引き取られたんです。  六歳までは施設で」

「知っている」

透子の言葉を再び静が遮った。 
静の髪が日中の陽光に透けて黄金に縁取られている。 そんな彼に見蕩れそうになる。

「俺の目黒の自宅には仕事の資料が山のようにある。  おいそれと素性の分からない人間を入れるわけにはいかないからな」

「詭弁ですよね。  なんでもかんでも相手を調べるのは、ただの悪趣味だと思います」

それは心外、とでも言いたげにムッとする静。

「せめて性癖といってくれ」

「性………」

「半分は冗談だが。 暴くだけならただの自己完結の趣味に過ぎない。 実際、それで解決出来る問題など山ほどあるものだし、真実に裏付けられていない思想や行動とは、時に重大な過ちを犯す。  なにかあれば俺を頼りなさい」

最もらしいことを……それでもややのちに透子がふふ、と口元を綻ばせた。
他人の身なりなどでは判断しない。  生い立ちだとかも丸きり問題にしない、こんな静に自分はどこかで気付いたのかもしれない、と。

「どうかしたか」

「今の私たちの関係ってなんでしょう?   お見合いが嘘なら」  

静が透子を見詰める。

「キミはそれに対する答えを持っているとでも?」

「え?」

「例えば恋人になって欲しいと俺が伝えて、キミはYesとは言わないだろう」

「言えます」

「そうだろう。  自分でも不確かなものに対して、他人に意見を委ねるような真似は」

「待ってください。  だから、言えますってば」

「────……??」

頬から手を外した静は琥珀色の目を瞬かせた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

処理中です...