瑠璃色灰かぶり姫の尽きない悩み

妓夫 件

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恋人の定義と認識その一

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静と別れて夜に家に着き、義母たちがいるダイニングに顔を出した。 
就職先が決まったことなどを話すためだ。

「透子さん、どうしたの?  改まって」

室内を見回すと、義父はまだ仕事のようだった。
義父は従姉の咲希よりも更に疎遠なので、それは構わないだろう。
コーヒーを手にした咲希も興味深げにテーブルの席につく。

「まあ、あんな大企業の!?」

「昨日の今日で?   普通、採用通知送ってくるもんじゃないの?」

思ったとおりの二人の反応だった。
透子があらかじめ準備していた報告を続ける。

「八神さんが口添えしてくれたんです。  咲希さんも助けてくれてありがとうございました」

「そんなのいいわよ」と咲希がヒラヒラ片手を振ってくる。
ここの所、咲希は協力的だった。
義母を説き伏せてくれ、都会の地理に疎い自分に色々と教えてくれていた。

「事務かなにかでしょ?  それでもラッキーよね。  あんなとこ、高卒じゃ無理だから」

「それにしてもねえ、今からお嫁にいくのに。  八神さんとのお話は進んでるの?」

「だからママは古いのよお。  八神さんが誰かに透子ちゃんを紹介したとするでしょ。  家事手伝いですなんて、今どき恥ずかしいことよ」

そんな咲希の考え方はさすが院生というか、と思うも次の発言には少しばかり首を捻った。

「とりあえず腰掛けで働いて、結婚したら辞めれば済む話。  そうよね?  先方に余裕はあるんだし」

「それは……おいおいと。  それで、来月から会社の寮に入ることになると思います」
 
これについては帰り際に静に言われたからだ。

『キミの家には一時的にしろ、俺の家に住むことは伏せておいて欲しい。  西条には社員寮に入ると話をつけておくから』

正式にお付き合いしてる訳ではないし要らない誤解を招くのは避けたい。 透子も彼に同意した。
お茶菓子のおせんべいをパリ、と指で割った咲希が透子に理解を示す。

「へえ……そっか。 ここから丸の内だと確かに。 バスから駅に乗り継いで、往復四時間はかかるもんね」

「そしたらその前に八神さんがご挨拶に来られるのよね?」

目を合わせた二人が頷き合う。

「それが筋よね。  実質、透子ちゃんを預けることになるんだし」

「ではその件は静さんに話してみます」

そう断り腰をあげた。


「コネ、かあ。  大人しそうに見えて上手くやったわね。  羨まし」

そんな会話を背中で聞きながら、自室へ戻る階段に足をかける。
義母が一瞬声をひそめた。

「そりゃ、元は白井の恩恵に預かろうとアッサリこの家に養女に入った子だもの。  姉さんたちも災難よねえ……あんな目に遭って、お墓まで放っておかれるなんて」

「ママのそれ、ホントなの?  ま、あたしには関係ないし。 あーあ、あたしも就活してみたいな」

 「咲希ちゃんはお父さんの会社を継ぐんだから、ちゃんとしたお婿さんを探さないと。  お嫁なら八神さんぐらいに、余程格上のお家じゃなきゃ駄目よ」

「ハイハーイ」


結局、義母の心は変わらなかった。  義母が機嫌よさげに接してくれると自分も許されるような気がしていた。
そんなことを思うたび、あの時の静の言葉が頭に浮かぶ。


────お前は一体誰なんだ?

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