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自立(と調教)への一歩は王子から

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それから静が運転の人に行き先を告げ、車で五分ほど走った。 到着したのは丸の内の商社ビルの前だった。
門の社札を見ると普通に名前の通った会社だということが分かる。
敷地内に行き交う人を見ている横で、静が誰かと通話をしていた。

「ああ、西条。  以前に人を探してると言ってただろう?  いや、そっちじゃなく海外向けの。 降りてきてくれ」

「ここは静さんのお知り合いの会社ですか?」

「そうだな。  ロビーに行こう」

静が車を降り、そのあとに続いた。
ややあって、長めの黒髪を後ろに流した、静とは違うタイプの長身ラテン系の目立つ男性が両手を広げて二人の方へと大股で歩いてくる。

「やあ、静。  相変わらずきみは麗しいな。  こちらが?」

相乗効果の眩しさに目をしばたたかせ、透子が慌てて頭を下げた。

「は、初めまして。 白井透子です」

視界の中に男性の広げられた手が見えたので、それを取るとブンブン大きく手を振り握手をしてくる。

「初めまして。  俺は西条誠。  静とは同学で、今は取引先の関係でもある。  でも、ふうん……随分と若そうな子だけど……これなら秘書課の方が向いてるんじゃないか?」

「フッ……透子はかわいいからな」

得意げに目を閉じ顎に手をやる静に、西条がやや困惑して返答をする。

「ま、まあそうだね。  確かに男女の別や年功序列とは無縁の部署だけど、うちの社風は能力主義だから」

「だからここに来た。  中途扱いのOJTから育ててやってくれ。  俺の名前は出さないように」

「きみがそう言うんなら。  白井さん、履歴書とかの書類はここに送ってといてくれる?  条件やなんかはその後のやり取りで。 そうだな、ええと。 月初の再来週からは来れるかな」

二人の慌ただしいやり取りに目が回る。
手渡された名刺に目を滑らせ頷いた。

「は、はい」

西条が意味ありげに静に目配せをする。

「しかしねえ、随分と大事にするんだねえ。 どういう関係?」

「どうということはない。  ただ言っとくがセクハラなんかあれば俺が個人的に潰すからな」

「ふふ……怖い怖い。  静、せっかくだから親父に会ってってよ」

フムと頷いた静がエレベーターホールへと視線を向ける。

「分かった。  透子、そこに掛けて少し待っててくれ」

「はい」

ソファに促され、西条と隣り合って腰をかけた。
往く社員らしき人が西条に会釈をしていき、どうやらこの人も偉い立場の人なのだと思った。
静より縦も幅も一回り大きく、身長はゆうに190センチを超えるだろう。 だが人懐っこそうな彼の表情は不思議と威圧を感じさせない。

「さ…西条…さん。 良いんでしょうか。  突然見ず知らずの私が、こんな立派な所で働かせていただけるなんて」

「静は見る目はあるから。  自分の会社と切り離して俺に頼んだのは彼なりの配慮だよ。  腰掛けで勤まる仕事じゃないからね」

「それは、もちろん頑張ります。 でも、静さんとは随分と親しいんですね」

「まあ、親しくなったのは、どちらかというと日本へ帰ってきてからだけど。  俺は彼ほど優秀じゃないし。 本来なら歳も俺と同じ27とか、その辺りのはずなんだけどさ。  なのに昔っから生意気なんだよねえ」

「ふふっ……たしかにそうですね」

西条のオープンな気質は向こうで培ったものなんだろう。
静とは少しばかり違う……うーんと考え、西条に訊いてみた。

「静さんはずっとイギリスに居たんですか」

「うん、彼はプレップ…って、小学校からね。  そうそう、あとは嗜好は違うけど彼とは趣味が合ったり」

なにかに似てると思ったら、静さんって王子様っぽいんだ。 キラキラしてるし偉そうだし。 透子が深く納得する。

「そうなんですね」

趣味。
イギリスの男性だったら、テニスとかサッカーとか。
ビリヤードとかも似合いそうな。  自分とはまるで別世界の静と西条に思いを馳せた。
ニコニコと透子を眺めていた西条が口を開く。

「それにしても、彼って普段は滅多に頼みごとなんかしないんだけど……こういうのは嬉しいものだね」

言葉や態度の端々から、静に対する好感のようなものが見て取れる。

(西条さんって、なんだかほっこりするなあ)

そんな風に穏やかに彼と微笑みあっていたとき、静がホールに戻ってきた。

「待たせたか……うん?  なにを二人でニヤニヤしている」

「何でもないよ」
「何でもありません」



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