瑠璃色灰かぶり姫の尽きない悩み

妓夫 件

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誰より優しく奪う

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なぜかドヤ顔で見下ろしてくる静が大股で今までいた客間を通り過ぎる。
そこから隣接する部屋の中央にでんと鎮座していたのは……やたらと大きなベッドだった。

「ゲストルームとまではいかないが、仕事の合間に休むのに使っている」

「ちょっ…待っあ!」

とさりと体を落とされ柔らかな寝台に沈んだ。
端に片膝をかけた静がベストを脱ぎ捨て、シャツの襟元を邪魔そうに緩める。

「最初があれだったから誤解のないように言っておくが。  俺は女性と無理矢理セックスするのは好きではない。 ましてや初めての相手に」

「せ……世間体とか、地位のある人は大変ですね」

その嫌味は透子の精一杯の虚勢だった。
次々に身に降りかかる出来事に頭が付いてこない。
が、次の瞬間にまた顔を赤くして言葉を失ってしまう。
静が躊躇なく外していくシャツのボタンの布地の隙間から、男らしく鍛えられた胸や腹部を割る筋肉の境界線が覗いたからだ。

「それは問題じゃない。  女性関係に対する……矜恃を言っている」

透子の両端に腕をつき、上体を被せてきた静の肩や胸が肌を滑る。

着衣で離れて見ていたときは、細身に見えた静の体だった。
それでも以前車内で感じたのと同様、距離を狭めると自分とは全く異なることに改めて気付く。
その大きさや硬さ、それから熱さを間近で見て触れた透子が身を竦ませる。
ほんの少し躊躇いの表情をみせた静の、穏やかな声が耳元を掠めた。

「だから無理だと思ったら言いなさい」

「……っあ」

脇から移動し、肩を包む静の手が正面を向かせた。
───無理といえば無理。 というかもう、ずっと無理。

肩口から鎖骨に繋がる関節の窪みまで、薄い肌に降るのはキスの雨。

(でもこんなの、息が詰まって)

密やかな戯れを思わせた先程と違い、今の行為は性急で生々し過ぎる。  何より理屈や嫌悪よりも、呑まれそうになっている自分に惑う。

「あっ…やあ!」

再び胸先を咥えられて、ビリッと電気を通されたような刺激が走り大きく喘いだ。

「ああっ…な、にっ……これ」

さっきよりも強い。
尖りをゆるゆると食まれ、腿の外側を撫でる手のひらの感触までも腰が浮きそうになる。

「あんなにたっぷりと前戯に時間をかけたんだから当然だろう」

「そん……うっうそ…ぁあ」

「それはこちらも同じだ。 腹を空かせてるときに、散々雌の声と匂いを振り撒かれては堪らん」

ピン。  唾液で濡れて光る乳頭を、静が指で冷たく弾く。

「!っやん」

「乳輪までこんなに膨らんで……キミは感度がいい。  俺の好みだ」

そんなことを耳の入り口で囁かれ、足先がシーツの上を忙しなく彷徨う。
大したボリュームも無い、ささやかな胸だ。 こんな所にちゅくちゅく音を立てて吸われる先が焦げそうに感じる。

胸からお腹へと手のひらの温もりが移動し、唯一まともに身につけていたショーツへと伸びていく。
彼が触れている箇所の内側が熱く疼いている気がした。

静の手を止めようと、彼の手首をつかんだ力は弱々しい。

「やっ…む、無…無理…」

動きが止み、その代わりに下腹を優しくさすってくる。
温かく大きな手からは透子への労りを感じる。

「あ……」

すると不思議と疼きが治まっていった。
こうして触れられるのは……心地好い。
湿る瞼を薄らと開けると、そんな自分を見守る静の瞳に出会う。

「前みたいに乱暴にはしない」

「………」

つかんでいた静の手首に回っていた自身の指を、そろそろと外していく。  一本、また一本と───そのたびに、下の方へと温かさが移っていった。
やがてショーツに潜り込んだ指が恥骨を梳き、自らの性器に届いたときに「はあ」と深い息を吐く。

「ぁあ…あっ…でもっ、だめ…」

愛撫を加えようと動こうとする静の手を、両腿が挟んで阻む。
透子の耳朶に唇をつけた静が普段よりも小さく低い声を落とした。

「恥ずかしがらなくていい。  こんなに濡れてるのは気持ちいい証拠なのだから」

「でも…そこ、はっ…っ」

「自分で触れたことはないのか」

「あ…あり…ますけど……こん、な」

「触れて悦くなったことは……?」

無いことは無いと思う。
それでも何年か前に、興味本位に触ってみたあれが良かったかといわれると微妙な気がする。
赤面したままで、真面目な顔で考え込もうとすると静がクスリと笑いをこぼした。



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