花屋の息子

きの

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13 誘拐と同じだよ

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タシュケテ…。

窓の外には高速で流れる草原の風景。
前方から聞こえる蹄の音。
たまに車輪が何かを踏み、浮かび上がる車体と俺の尻。

俺は、生まれて初めての馬車に乗っているのだった。



事の経緯は以下の通り。
イケメンから謎の告白を受け思考停止俺。
それに慌てふためくイケメン。
そこにたまたま様子を見に来たナラさん。
軍人の目の前で俺が立ち呆けていてびっくり。
そこから軍人の口車に乗せられてナラさんが説得されてしまい、俺は今城に向かっている馬車に乗っている。



……いや、意味がわからない。
誰も納得してないしこれ誘拐と同じだよ。

ため息をついて車内に視線を戻すと、隣に座ったイケメンと目が合ってしまう。
微笑まれ気まずい、俺はまだイケメンへの警戒心を解いてない。


軍人がナラさんを言いくるめた文言はこうだ。
この世界には黒髪黒目なんていない。これは由々しき事態だ。一旦城まで報告しに行き、軽く検査をさせてもらいたい。
…ので、連れて行く!


許可制じゃなくて、もう断言。
ナラさんも困惑していたが、なんならすんなり分かったと言ってくれて良かったと思う。軍人さんとはいえ、ここで断ったら国への反逆か!とかなりそう。
それなら俺は喜んで身を差し出しに行くよ…。






しばらくイケメンと目を合わせていたが、先に目を逸らしたのは彼だった。


「…すまない」

「何がですか」

「強引に連れてくることになってしまった。君にも大きな負担をかけてさせていることだろう」

「まぁ…」


しゅん、となるイケメン。
眉を寄せて、ちらちらこちらを伺う様子はかわいさも感じる。
なるほどイケメンは得だな、とちょっとひねくれてしまうのも許して欲しい。
俺がこんなことしても「は?」だろう。


「君は珍しい容姿だからね、城では俺のそばを離れないで欲しい」

「……分かりました」


俺も変な目で見られるのは避けたい。守ってもらえるのなら全然守ってもらう。

イケメンさんは見た目と声のイメージからちょっと強めなオラオラ系かと思ってたんだけど、ちょっと違ったみたい。口調はそんなに柔らかくはないものの、声色がとても優しい。
これあれだ、「いい子だ」と小さい子に言っちゃう系のイケメンだきっと。漫画ではそうだった。

ここまできたら、もう楽しもうかな。
こんなThe二次元イケメンと一緒にいることもそうそうないだろ。イケメンムーブだけ勉強させてもらおう。



「自己紹介がまだだったな。俺はノエルという。魔術師塔の副所長をしている」

「…まじゅつしとう」

「なんだ、知らないのか?魔術を扱って城を守る、警備隊のようなやつらが駐在している建物だ」


魔術。魔法じゃなくて?
ちょっと気になるけど、いよいよ異世界みが帯びてきてこんな状況でも胸が高鳴ってきてしまった。


「えっと、俺は橘伊織です」

「イオリと呼んでも?」

「お好きなように。俺はなんて呼べば?」

「なんと呼ばれても嬉しいよ。でも、そうだな、ノエルと呼んで」

「えっ、名前呼び!?」


ちょっと大きな声を出してしまって急いで口を抑える。そんな俺を見てイケメン…ノエルが笑った。
いや、急に初対面のイケメンを名前呼びは難しいだろ…でも、うーん。
確かに、外国には日本のように○○さんとか、○○くんとか呼び方はそんなに多様じゃなかったよな。
この世界の感覚も日本寄りより西洋寄りなら、俺もそれに従った方がいいのかな?

と、ここまで考えたけどやっぱり勇気がわかず、「ノエルさん、は?」と聞いたら満足そうに頷いてくれた。
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