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ガチャリとドアが開く音がして、男が一人部屋に入ってくる。
私は仕事から帰って来て、途中で買い物した物を冷蔵庫にしまっている所だった。
「おかえり孝一、早かったね」
「誰が孝一だよ」
彼はニヤニヤした顔で私を見ている。
「……晶君?」
「恋人と他の男の区別くらいしろよ」
「だって、ぱっと見じゃ分からないし……。でもどうしたの? こんな時間に会うのは初めてよね」
「あんたら婚約したんだろ。お祝いに来たんだよ」
晶君はポケットに挿していたカーネーションを私にくれた。
「何だか母の日みたい」
「有り難く思えよ美紀。せっかくそこの花屋から盗って来たんだから」
「盗んだ花なんか要らない。孝一に怒られるよ。それにいつも言うけど、呼び捨てにしないで」
私は花を彼に突っ返した。
「あんたも俺の事呼び捨てにすればいい。それならおあいこだろ」
「そういう問題じゃないでしょ。そんな風だとろくな死に方しないよ」
「まぁ、その分孝一が真面目だから問題ないし、食う分にも困らないしな」
「それはそうだけど……」
「花が嫌なら別のモンを盗って来てやるよ」
「だから、盗って来ないでって言ってるのよ!」
✳︎
「さっき、晶君が来てたよ」
ちゃぶ台に食器を置きながら孝一に言う。いつもより早い夕食だ。
「知ってるよ。俺達が結婚したら、多分あいつはますます出て来られなくなるだろ。今だけ好きにさせてるんだ」
「ふうん。夜遅くにしか会った事なかったから、ちょっとびっくりした」
「あいつ完全に夜型だからな。何話したの?」
「婚約おめでとうって、これくれた」
私はちゃぶ台の真ん中を指差す。カーネーションは結局ここにある。花瓶がないからコップに挿して、ちゃぶ台に飾った。
「母の日みたいだな」
孝一は私と同じ事を言った。
「ねぇ、孝一……」
「何?」
「いや、……食べようか」
私は晶君の万引きの事を、告げ口するみたいで言えなかった。
夕食後、カピカピのご飯粒がこびり付いた弁当箱を、私は苦労して洗い上げた。
私は仕事から帰って来て、途中で買い物した物を冷蔵庫にしまっている所だった。
「おかえり孝一、早かったね」
「誰が孝一だよ」
彼はニヤニヤした顔で私を見ている。
「……晶君?」
「恋人と他の男の区別くらいしろよ」
「だって、ぱっと見じゃ分からないし……。でもどうしたの? こんな時間に会うのは初めてよね」
「あんたら婚約したんだろ。お祝いに来たんだよ」
晶君はポケットに挿していたカーネーションを私にくれた。
「何だか母の日みたい」
「有り難く思えよ美紀。せっかくそこの花屋から盗って来たんだから」
「盗んだ花なんか要らない。孝一に怒られるよ。それにいつも言うけど、呼び捨てにしないで」
私は花を彼に突っ返した。
「あんたも俺の事呼び捨てにすればいい。それならおあいこだろ」
「そういう問題じゃないでしょ。そんな風だとろくな死に方しないよ」
「まぁ、その分孝一が真面目だから問題ないし、食う分にも困らないしな」
「それはそうだけど……」
「花が嫌なら別のモンを盗って来てやるよ」
「だから、盗って来ないでって言ってるのよ!」
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「さっき、晶君が来てたよ」
ちゃぶ台に食器を置きながら孝一に言う。いつもより早い夕食だ。
「知ってるよ。俺達が結婚したら、多分あいつはますます出て来られなくなるだろ。今だけ好きにさせてるんだ」
「ふうん。夜遅くにしか会った事なかったから、ちょっとびっくりした」
「あいつ完全に夜型だからな。何話したの?」
「婚約おめでとうって、これくれた」
私はちゃぶ台の真ん中を指差す。カーネーションは結局ここにある。花瓶がないからコップに挿して、ちゃぶ台に飾った。
「母の日みたいだな」
孝一は私と同じ事を言った。
「ねぇ、孝一……」
「何?」
「いや、……食べようか」
私は晶君の万引きの事を、告げ口するみたいで言えなかった。
夕食後、カピカピのご飯粒がこびり付いた弁当箱を、私は苦労して洗い上げた。
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