2 / 4
婚約
しおりを挟む
一月前、帰宅した親父はベロンベロンに酔い潰れて顔も真っ赤だった。
「おい聞け! お前に令嬢との縁談を持ってきてやったぞぉ!」
親父は開口一番、そうオレに告げた。
驚くオレに、彼は飲み屋での出来事をまくしたてた。飲み屋で親父はレーバー家の当主(ブブン・イ・レーバー氏、百八歳)と同席したらしい。
はじめ、当主はカウンター席の端でチビチビとグラスを舐めていたそうだ。そんな彼に親父は声をかけた。
「もしかしてあんた、レーバー家のご主人じゃないですかい? どうしました? お供も連れずお一人で、こんな庶民の飲み屋に」
「ワシもたまには一人になりたいんじゃ。連れの者は撒いてきた」
「というと、何か悩みでも?」
「あぁ……しかしワシは五百年続くレーバー家の当主、身内の恥を簡単に晒すわけにはいかんのじゃ……」
「なんかよくわからんが、飲んで忘れましょうよ。さ、さ、まぁ一杯!」
「ありがたく頂くよ」
一時間後。
「そんでェェ、フルコースのオードブルが来た瞬間、うちの娘が放屁してェェ、八十三回目の見合いも台無しになっちゃってェェ~」
「うんうん、わかるわかるゥ」
「もう、爆発みたいな屁だったのよォ。シャンデリアは落下するし、花瓶は割れるしで、一瞬みんな、『テロか?!』みたいになっちゃってェ~。ワシ、どんな顔すれば良かったんだろ」
「リアルへっぴり嫁ごみたいな話ですなぁ。さ、さ、飲みましょ、飲みましょ」
二時間後。
「グスン、グスン……もうワシは……オーエェヒック……ご先祖様に顔向けができないよォォォ~~グスン、グスン……」
「まぁまぁ、そう早まらないで……実はうちにも不良債権みたいな息子が一人おりましてな。ふつつか者ではありますが、差し上げますよ」
「ホ、ホント……?! ヒック、ヒック……」
「男に二言はないのです!」
「ヤッタ~!」
「「ウェーーーーーイ!!!!」」
ハイタッチする二人。
「……と、いうわけなのさ!!」と、話し終えた親父はドヤ顔でのたもうた。
オレは呆れた。いくら酔っていたとはいえ、息子を生贄に差し出すとは……。
「レーバー家って聞いたことあるぞ! 娘はかなりの年なんじゃないか? 今さら結婚しても、跡取りを産めないじゃないか!」
「もう養子が決まってるんだ。お前がよく行ってた隣町の駅前の床屋の親父だよ。実はレーバー家の遠縁らしい。今年四十五とか言ってたな」
「それ、養子というより養父じゃね?」
「まぁ聞け。実はな、レーバー家はオレたちにゆかりのある家柄なんだぞ。レーバーの館の使用人の一人の姉の旦那の妹の元彼の別れた妻の従兄弟の家で飼ってるポチを譲ってくれた人が毎月通ってる整形外科に薬を卸している問屋の社宅の清掃員として働いているのがお前の母さんだ!」
「一言でいうと他人だな!!!」
「まぁまぁ、結婚も離婚も人生経験の一つだ。若いからいくらでもやり直しがきくだろ」
「離婚を前提にするなよ! まったく、猫の子を貰うんじゃないんだからさぁ……」
親父は言い出したら聞かないのを知っているオレは、力なく言った。
「ハァ?! お前、猫に失礼だぞ! 謝れ! 今すぐ猫に謝れ!」
猫派の親父がキレ始めたのをキッカケに、この会話はいったん終了した。
クソッ、絶対に破談にしてやる……!
「おい聞け! お前に令嬢との縁談を持ってきてやったぞぉ!」
親父は開口一番、そうオレに告げた。
驚くオレに、彼は飲み屋での出来事をまくしたてた。飲み屋で親父はレーバー家の当主(ブブン・イ・レーバー氏、百八歳)と同席したらしい。
はじめ、当主はカウンター席の端でチビチビとグラスを舐めていたそうだ。そんな彼に親父は声をかけた。
「もしかしてあんた、レーバー家のご主人じゃないですかい? どうしました? お供も連れずお一人で、こんな庶民の飲み屋に」
「ワシもたまには一人になりたいんじゃ。連れの者は撒いてきた」
「というと、何か悩みでも?」
「あぁ……しかしワシは五百年続くレーバー家の当主、身内の恥を簡単に晒すわけにはいかんのじゃ……」
「なんかよくわからんが、飲んで忘れましょうよ。さ、さ、まぁ一杯!」
「ありがたく頂くよ」
一時間後。
「そんでェェ、フルコースのオードブルが来た瞬間、うちの娘が放屁してェェ、八十三回目の見合いも台無しになっちゃってェェ~」
「うんうん、わかるわかるゥ」
「もう、爆発みたいな屁だったのよォ。シャンデリアは落下するし、花瓶は割れるしで、一瞬みんな、『テロか?!』みたいになっちゃってェ~。ワシ、どんな顔すれば良かったんだろ」
「リアルへっぴり嫁ごみたいな話ですなぁ。さ、さ、飲みましょ、飲みましょ」
二時間後。
「グスン、グスン……もうワシは……オーエェヒック……ご先祖様に顔向けができないよォォォ~~グスン、グスン……」
「まぁまぁ、そう早まらないで……実はうちにも不良債権みたいな息子が一人おりましてな。ふつつか者ではありますが、差し上げますよ」
「ホ、ホント……?! ヒック、ヒック……」
「男に二言はないのです!」
「ヤッタ~!」
「「ウェーーーーーイ!!!!」」
ハイタッチする二人。
「……と、いうわけなのさ!!」と、話し終えた親父はドヤ顔でのたもうた。
オレは呆れた。いくら酔っていたとはいえ、息子を生贄に差し出すとは……。
「レーバー家って聞いたことあるぞ! 娘はかなりの年なんじゃないか? 今さら結婚しても、跡取りを産めないじゃないか!」
「もう養子が決まってるんだ。お前がよく行ってた隣町の駅前の床屋の親父だよ。実はレーバー家の遠縁らしい。今年四十五とか言ってたな」
「それ、養子というより養父じゃね?」
「まぁ聞け。実はな、レーバー家はオレたちにゆかりのある家柄なんだぞ。レーバーの館の使用人の一人の姉の旦那の妹の元彼の別れた妻の従兄弟の家で飼ってるポチを譲ってくれた人が毎月通ってる整形外科に薬を卸している問屋の社宅の清掃員として働いているのがお前の母さんだ!」
「一言でいうと他人だな!!!」
「まぁまぁ、結婚も離婚も人生経験の一つだ。若いからいくらでもやり直しがきくだろ」
「離婚を前提にするなよ! まったく、猫の子を貰うんじゃないんだからさぁ……」
親父は言い出したら聞かないのを知っているオレは、力なく言った。
「ハァ?! お前、猫に失礼だぞ! 謝れ! 今すぐ猫に謝れ!」
猫派の親父がキレ始めたのをキッカケに、この会話はいったん終了した。
クソッ、絶対に破談にしてやる……!
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約破棄されたので、契約不履行により、秘密を明かします
tartan321
恋愛
婚約はある種の口止めだった。
だが、その婚約が破棄されてしまった以上、効力はない。しかも、婚約者は、悪役令嬢のスーザンだったのだ。
「へへへ、全部話しちゃいますか!!!」
悪役令嬢っぷりを発揮します!!!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
完結)余りもの同士、仲よくしましょう
オリハルコン陸
恋愛
婚約者に振られた。
「運命の人」に出会ってしまったのだと。
正式な書状により婚約は解消された…。
婚約者に振られた女が、同じく婚約者に振られた男と婚約して幸せになるお話。
◇ ◇ ◇
(ほとんど本編に出てこない)登場人物名
ミシュリア(ミシュ): 主人公
ジェイソン・オーキッド(ジェイ): 主人公の新しい婚約者
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
異世界の神は毎回思う。なんで悪役令嬢の身体に聖女級の良い子ちゃんの魂入れてんのに誰も気付かないの?
下菊みこと
恋愛
理不尽に身体を奪われた悪役令嬢が、その分他の身体をもらって好きにするお話。
異世界の神は思う。悪役令嬢に聖女級の魂入れたら普通に気づけよと。身体をなくした悪役令嬢は言う。貴族なんて相手のうわべしか見てないよと。よくある悪役令嬢転生モノで、ヒロインになるんだろう女の子に身体を奪われた(神が勝手に与えちゃった)悪役令嬢はその後他の身体をもらってなんだかんだ好きにする。
小説家になろう様でも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約破棄させようと王子の婚約者を罠に嵌めるのに失敗した男爵令嬢のその後
春野こもも
恋愛
王子に婚約破棄をしてもらおうと、婚約者の侯爵令嬢を罠に嵌めようとして失敗し、実家から勘当されたうえに追放された、とある男爵令嬢のその後のお話です。
『婚約破棄でみんな幸せ!~嫌われ令嬢の円満婚約解消術~』(全2話)の男爵令嬢のその後のお話……かもしれません。ですがこの短編のみでお読みいただいてもまったく問題ありません。
コメディ色が強いので、上記短編の世界観を壊したくない方はご覧にならないほうが賢明です(>_<)
なろうラジオ大賞用に1000文字以内のルールで執筆したものです。
ふわりとお読みください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
魅了アイテムを使ったヒロインの末路
クラッベ
恋愛
乙女ゲームの世界に主人公として転生したのはいいものの、何故か問題を起こさない悪役令嬢にヤキモキする日々を送っているヒロイン。
何をやっても振り向いてくれない攻略対象達に、ついにヒロインは課金アイテムである「魅惑のコロン」に手を出して…
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
お約束の異世界転生。計画通りに婚約破棄されたので去ります──って、なぜ付いてくる!?
リオール
恋愛
ご都合主義設定。細かい事を気にしない方向けのお話です。
5話完結。
念押ししときますが、細かい事は気にしないで下さい。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約破棄された令嬢の父親は最強?
岡暁舟
恋愛
婚約破棄された公爵令嬢マリアの父親であるフレンツェルは世界最強と謳われた兵士だった。そんな彼が、不義理である婚約破棄に激怒して元婚約者である第一王子スミスに復讐する物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる