上 下
9 / 13

9

しおりを挟む
1ヶ月後。

由衣子は整形外科病棟のナースステーションで、これから服薬指導を行う患者たちのカルテを閲覧している。この病院は電子カルテを導入しておらず紙カルテだ。医師の難解な暗号みたいな文字を読むのにも由衣子はとっくに慣れていた。

そばで看護師たちが雑談をしている。今日は「鬼軍曹」というあだ名の師長が非番らしく、また珍しい事に退院が先日重なって患者の数が減ったらしく、いつも殺伐としているナースステーション内は和やかな雰囲気だ。

「前にいた林さんって患者覚えてる? 前腕骨骨折の、ぽっちゃりしたおっさん」

古株の看護師が言う。

「よくセクハラしてた人?」

もう1人の看護師が答える。

「そう! 私、坐薬入れる時あの人にすごい事言われた……。生々しすぎてここじゃ言えないけど」

「その人がどうしたのよ」

「変死したんだって」

「は? 何で?」

側でパソコンを打っていた整形外科医が興味津々で会話に加わる。

「海で溺死したらしいですよ、変死って解剖するじゃないですか。睡眠薬の成分が出たんですって。結局自殺として処理されたらしいけど」

「実は殺されたんだったりして?」

整形外科医はどこか楽しそうだ。

「東2階のナースの鈴木さん、その人とマンションが一緒なんです。彼女から聞いたんですけど、林さんって非正規を転々としてて無職期間も長くて、親も持て余してたらしいですよ。よく親子ゲンカが聞こえてきたって」

古株の看護師はイキイキと話す。

「今流行りの『子供部屋おじさん』ってヤツ?」

もう1人の看護師が言う。

「多分そうなんじゃない? で、親も高齢だし、将来を悲観して死んだんじゃないかって噂」

「世も末だな」

整形外科医がまとめる様に言ったその時、ナースコールが鳴り響き雑談は中断した。いつもの慌ただしい空気が戻ってくる。

由衣子はカルテを熱心に読む振りをして、カルテに隠れて右の口角だけを上げるやり方で笑った。

――彼は自殺なんかではない、私は知っている、何故なら私が殺したからだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

山縣藍子のくすぐりシリーズ

藍子
大衆娯楽
くすぐり掲示板したらばの【君の考えたくすぐりシーン】スレで連載していた大人気?(笑)シリーズの藍子のくすぐり小説です。

入れ替わり家族

廣瀬純一
大衆娯楽
家族の体が毎日入れ替わる話

少しエッチなストーリー集

切島すえ彦
大衆娯楽
少しエッチなストーリー集です。

作ろう! 女の子だけの町 ~未来の技術で少女に生まれ変わり、女の子達と楽園暮らし~

白井よもぎ
キャラ文芸
地元の企業に勤める会社員・安藤優也は、林の中で瀕死の未来人と遭遇した。 その未来人は絶滅の危機に瀕した未来を変える為、タイムマシンで現代にやってきたと言う。 しかし時間跳躍の事故により、彼は瀕死の重傷を負ってしまっていた。 自分の命が助からないと悟った未来人は、その場に居合わせた優也に、使命と未来の技術が全て詰まったロボットを託して息絶える。 奇しくも、人類の未来を委ねられた優也。 だが、優也は少女をこよなく愛する変態だった。 未来の技術を手に入れた優也は、その技術を用いて自らを少女へと生まれ変わらせ、不幸な環境で苦しんでいる少女達を勧誘しながら、女の子だけの楽園を作る。

【ショートショート】雨のおはなし

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
青春
◆こちらは声劇、朗読用台本になりますが普通に読んで頂ける作品になっています。 声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

バスト105cm巨乳チアガール”妙子” 地獄の学園生活

アダルト小説家 迎夕紀
青春
 バスト105cmの美少女、妙子はチアリーディング部に所属する女の子。  彼女の通う聖マリエンヌ女学院では女の子達に売春を強要することで多額の利益を得ていた。  ダイエットのために部活でシゴかれ、いやらしい衣装を着てコンパニオンをさせられ、そしてボロボロの身体に鞭打って下半身接待もさせられる妙子の地獄の学園生活。  ---  主人公の女の子  名前:妙子  職業:女子学生  身長:163cm  体重:56kg  パスト:105cm  ウェスト:60cm  ヒップ:95cm  ---  ----  *こちらは表現を抑えた少ない話数の一般公開版です。大幅に加筆し、より過激な表現を含む全編32話(プロローグ1話、本編31話)を読みたい方は以下のURLをご参照下さい。  https://note.com/adult_mukaiyuki/m/m05341b80803d  ---

処理中です...