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1ヶ月後。
由衣子は整形外科病棟のナースステーションで、これから服薬指導を行う患者たちのカルテを閲覧している。この病院は電子カルテを導入しておらず紙カルテだ。医師の難解な暗号みたいな文字を読むのにも由衣子はとっくに慣れていた。
そばで看護師たちが雑談をしている。今日は「鬼軍曹」というあだ名の師長が非番らしく、また珍しい事に退院が先日重なって患者の数が減ったらしく、いつも殺伐としているナースステーション内は和やかな雰囲気だ。
「前にいた林さんって患者覚えてる? 前腕骨骨折の、ぽっちゃりしたおっさん」
古株の看護師が言う。
「よくセクハラしてた人?」
もう1人の看護師が答える。
「そう! 私、坐薬入れる時あの人にすごい事言われた……。生々しすぎてここじゃ言えないけど」
「その人がどうしたのよ」
「変死したんだって」
「は? 何で?」
側でパソコンを打っていた整形外科医が興味津々で会話に加わる。
「海で溺死したらしいですよ、変死って解剖するじゃないですか。睡眠薬の成分が出たんですって。結局自殺として処理されたらしいけど」
「実は殺されたんだったりして?」
整形外科医はどこか楽しそうだ。
「東2階のナースの鈴木さん、その人とマンションが一緒なんです。彼女から聞いたんですけど、林さんって非正規を転々としてて無職期間も長くて、親も持て余してたらしいですよ。よく親子ゲンカが聞こえてきたって」
古株の看護師はイキイキと話す。
「今流行りの『子供部屋おじさん』ってヤツ?」
もう1人の看護師が言う。
「多分そうなんじゃない? で、親も高齢だし、将来を悲観して死んだんじゃないかって噂」
「世も末だな」
整形外科医がまとめる様に言ったその時、ナースコールが鳴り響き雑談は中断した。いつもの慌ただしい空気が戻ってくる。
由衣子はカルテを熱心に読む振りをして、カルテに隠れて右の口角だけを上げるやり方で笑った。
――彼は自殺なんかではない、私は知っている、何故なら私が殺したからだ。
由衣子は整形外科病棟のナースステーションで、これから服薬指導を行う患者たちのカルテを閲覧している。この病院は電子カルテを導入しておらず紙カルテだ。医師の難解な暗号みたいな文字を読むのにも由衣子はとっくに慣れていた。
そばで看護師たちが雑談をしている。今日は「鬼軍曹」というあだ名の師長が非番らしく、また珍しい事に退院が先日重なって患者の数が減ったらしく、いつも殺伐としているナースステーション内は和やかな雰囲気だ。
「前にいた林さんって患者覚えてる? 前腕骨骨折の、ぽっちゃりしたおっさん」
古株の看護師が言う。
「よくセクハラしてた人?」
もう1人の看護師が答える。
「そう! 私、坐薬入れる時あの人にすごい事言われた……。生々しすぎてここじゃ言えないけど」
「その人がどうしたのよ」
「変死したんだって」
「は? 何で?」
側でパソコンを打っていた整形外科医が興味津々で会話に加わる。
「海で溺死したらしいですよ、変死って解剖するじゃないですか。睡眠薬の成分が出たんですって。結局自殺として処理されたらしいけど」
「実は殺されたんだったりして?」
整形外科医はどこか楽しそうだ。
「東2階のナースの鈴木さん、その人とマンションが一緒なんです。彼女から聞いたんですけど、林さんって非正規を転々としてて無職期間も長くて、親も持て余してたらしいですよ。よく親子ゲンカが聞こえてきたって」
古株の看護師はイキイキと話す。
「今流行りの『子供部屋おじさん』ってヤツ?」
もう1人の看護師が言う。
「多分そうなんじゃない? で、親も高齢だし、将来を悲観して死んだんじゃないかって噂」
「世も末だな」
整形外科医がまとめる様に言ったその時、ナースコールが鳴り響き雑談は中断した。いつもの慌ただしい空気が戻ってくる。
由衣子はカルテを熱心に読む振りをして、カルテに隠れて右の口角だけを上げるやり方で笑った。
――彼は自殺なんかではない、私は知っている、何故なら私が殺したからだ。
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