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結局林は残りの入院期間中、毎日由衣子につきまとった。
もう薬に関する質問があるなどの口実は無しに、朝は薬局前で待ち伏せして話しかけ、ロビーから監視し、時々窓口で彼女を冷やかした。
当直の日は夜遅くに窓口のベルを鳴らし仮眠を妨げたりもした。リハビリや処置の時間なのに部屋にいないので看護師も困っているようだった。
由衣子は患者に対して無下にも出来ず、短時間だがいちいち相手をした。電話番号やアドレスを何度も尋ねられたが、頑として教えなかった。
1週間少しで林は退院した。退院時の薬は薬剤室長が渡した。林が薬局に取りに来た時、由衣子は昼休憩に入っていて不在だったからだ。
しかし林は由衣子がいないと聞き、わざと自分を避けたのだと思った。そしてもう使い方は知っているからと林は室長の手から薬袋を奪い取った。
休憩が終わり由衣子は林の薬が無くなっているのを確認し、これで彼から解放されたとホッとした。
しばらく彼は通院する事になるだろうが、少なくとも毎日毎時間付きまとわれる事は無くなる。
ところがその日の午後3時頃、林から薬剤室に電話が掛かってきた。出たのは由衣子である。
「あぁ、由衣子せんせ? 痛み止めの数が足りないんだけど」
彼は名乗りもせずに単刀直入に言った。その処方箋は後輩の薬剤師が調剤し、由衣子自身が監査していたので内容は良く覚えていた。ダブルチェックをすり抜けたのだろうか。
「……申し訳ございません、5つ入っていませんでしたか?」
「4個しか無い。今から持ってきてくれない? 無いと困るから」
今日だけで5つも使用する訳はないので急がないはずだ。仕事が終わる目処が立っていないので、由衣子は明日では駄目かと聞いた。
しかし林は譲らない。他の者でなく由衣子が、今すぐでなくても良いから必ず今日中に来いと息巻くのだ。
由衣子は折れ、再び謝罪し電話を切った。薬を渡した室長に本人と数を確認したかを聞いたが、室長は良く覚えていなかった。
もう薬に関する質問があるなどの口実は無しに、朝は薬局前で待ち伏せして話しかけ、ロビーから監視し、時々窓口で彼女を冷やかした。
当直の日は夜遅くに窓口のベルを鳴らし仮眠を妨げたりもした。リハビリや処置の時間なのに部屋にいないので看護師も困っているようだった。
由衣子は患者に対して無下にも出来ず、短時間だがいちいち相手をした。電話番号やアドレスを何度も尋ねられたが、頑として教えなかった。
1週間少しで林は退院した。退院時の薬は薬剤室長が渡した。林が薬局に取りに来た時、由衣子は昼休憩に入っていて不在だったからだ。
しかし林は由衣子がいないと聞き、わざと自分を避けたのだと思った。そしてもう使い方は知っているからと林は室長の手から薬袋を奪い取った。
休憩が終わり由衣子は林の薬が無くなっているのを確認し、これで彼から解放されたとホッとした。
しばらく彼は通院する事になるだろうが、少なくとも毎日毎時間付きまとわれる事は無くなる。
ところがその日の午後3時頃、林から薬剤室に電話が掛かってきた。出たのは由衣子である。
「あぁ、由衣子せんせ? 痛み止めの数が足りないんだけど」
彼は名乗りもせずに単刀直入に言った。その処方箋は後輩の薬剤師が調剤し、由衣子自身が監査していたので内容は良く覚えていた。ダブルチェックをすり抜けたのだろうか。
「……申し訳ございません、5つ入っていませんでしたか?」
「4個しか無い。今から持ってきてくれない? 無いと困るから」
今日だけで5つも使用する訳はないので急がないはずだ。仕事が終わる目処が立っていないので、由衣子は明日では駄目かと聞いた。
しかし林は譲らない。他の者でなく由衣子が、今すぐでなくても良いから必ず今日中に来いと息巻くのだ。
由衣子は折れ、再び謝罪し電話を切った。薬を渡した室長に本人と数を確認したかを聞いたが、室長は良く覚えていなかった。
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