野生のチューリップ

たんぽぽ。

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【ユキと白羽と妖刀「隼」】

その女、地球外生命体につき

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 白羽しらはがアメリカ出張から帰った翌週。

 白羽は防具入りの重い袋を抱え、妖滅官養成学校の玄関を出て駐車場へと向かった。
 今日はここに剣道の講義のために来たのである。

 彼はユキのことを考えていた。今年の彼の受け持ちの生徒達の中でも、今のところ彼女以上の実力者はいないようだった。

 約二年前、白羽は学校入学のための実技試験で剣道の試験官を務めた時、ユキに初めて会った、と思い込んでいた。というのも実はそれ以前にも彼女とは一度会っていたのだが、白羽は覚えていなかったからだ。

 彼がユキに目を掛けるのには理由がある。

 最初に彼女を見た時、こんな小柄な子が妖物と戦えるのかと首をひねった。
 ユキの身長は「女子は身長百五十センチ以上」という、受験資格ギリギリであったからだ。

 試験は試合形式で行われる。

 白羽は女性と戦う時は大抵の場合、相手の動きが超スローモーションに見える。男性に比べるとやはり力と瞬発力の差があった。
 さらにユキは小柄なためリーチも短いし、面を打たれやすい。

 白羽は正直言って、彼女を舐めてかかっていた。

 しかし、勝負が始まり考えを改めた。

 白羽は動かず相手の攻撃を待って隙を狙い、面を打とうとしていた。何人も相手をしてきたので、さっさと終わらせて帰りたかったのだ。

 するとユキは白羽の竹刀を払い、いきなり突きを打ってきた。実技試験の試験官に対して突き技を使う受験生は他にいなかった。失礼な奴だと思われ、下手したら落とされかねないからだろう。

 しかしユキは何を思ってか、いきなり喉を突こうとしてきた。白羽がユキを甘く見ていることが分かったのだろうか。
 舐めるな本気を出せ、ということか。

 白羽は素早く左にかわし、そのまま面を打とうとした。突きの直後は隙が出来る、ユキは即座に下がって間合いを取り白羽の打突をかわし、逆に面を狙って一本取ろうとしてきた。
 高等技術だった。

 白羽は完全に本気になった。

 ユキの剣道は、圧倒的なスピードと瞬発力が武器だ。
 技自体は単純であったが、技から技から技から技、と連続で仕掛けてくる。力では押されるので、とにかくスピードで勝負ということなのだろう。そして連続技から大胆な一撃に繋げてくる。

 対する白羽はスピードもさることながら、技の多彩さと相手の動きを読み翻弄することが持ち味の剣道だった。大変器用な戦い方である。

 しかしユキの攻撃は単純でありながらも、読みづらかった。
 彼女の動きは地球外生命体の思考のごとく読めなかった。もういっそ地球外生命体なんじゃないのと思った。

 小手を打たせようと誘っても、何でか知らんけど面を打とうとしてくる。え、なんでそこで面を打とうとしてくるの、やっぱり地球外生命体なんじゃないのと思った。

 それをさばいて胴を打とうとすると、何故か明後日の方向へくるりくるりと高速回転したりする。
 動きが完全に地球外生命体のそれであった。

 翻弄するつもりが翻弄されていた。白羽の頭には雑念が溢れた。

 星へ帰れ、ここはお前のいるべき場所ではない、そう叫びたかった。

 審判達も、地球外生命体を見る目でユキを見ていた。

 それでいて、決してふざけている訳では無いのである。彼女からは地球外生命体のような、ただならぬ気迫が感じられた。

 白羽のこれまでの試合での読みの的中率は実に八十五パーセント。これは明日の天気予報が当たる確率とほぼ同等である。
 しかし彼が行なったユキの動きの予測の的中率はわずか二パーセント。これは、坊主頭のキャラクターがパッケージに描かれた某ソーダ味のアイスキャンディの当たりが出る確率とほぼ同等である。

 白羽はどっと疲れていた。うさぎ跳びをしながら広辞苑を丸々一冊読み切った後みたいだった。体もだったが頭もヘトヘトだった。

 結局は白羽が二本先取し勝った。
 まずは鍔迫り合いに持ち込み、力で打ち勝ったのだ。力の面ではやはりユキは不利なようだった。

 そして最後には彼女は竹刀を振り上げ、大きく踏み込んで向かってきた。隙だらけである。
 白羽は訳がわからなかった。

 当然白羽の技が決まり、ユキは負けた。

 決着の直前、こいつは受からなければ何をするか分からない、俺の手元に置いておかなければならないと白羽は直感した。

 ユキが最後に飛びかかって来る瞬間、面の奥からの楽しそうな笑い声を確かに聞いたからだ。

 礼が終わり試験終了となった後、ユキはニコニコ笑って言った。
「今までのどの試合よりも楽しかったです。私、不合格ですか?」

 実技試験はそれだけで受験生を落とすための試験ではない。面接もそうなのだが、その人物が妖滅官としてやっていけそうかを見る。面接で妙ちきりんな応答をすると落とされるように、現場で使い物にならないほど極端に運動神経が悪い場合のみ落とす。後は筆記と面接と実技とを総合的に見て順位を判定し、上からとっていく。

 ほとんどの受験生はそれを知っているので、勝負に負けたからといってひどく落胆する者はいない。実際、白羽は試験官として受験生と戦って負けた経験がなかった。

 ユキは試験を受けるというよりも、白羽との勝負を楽しんでいるように見えた。
 しかも負けると不合格になると思っていたようだ。彼女は圧倒的な情報弱者でもあった。



 白羽はその夜、インターネットで「森田幸  剣道」と検索をかけてみた。あれだけの実力ならば、過去の試合で好成績を残しているだろうと思ったからだ。

 しかし本人らしき人物を見つけることは出来なかった。

 ユキはめでたく合格し、入学後、選択科目で白羽の剣道の講義を取ることとなる。
 そこでもまた白羽はユキの地球外生命体的動きに翻弄されるのであったが、一度も負けることはなかった。

 彼は卒業後もユキと時々勝負をしたり、彼女に稽古をつけたりして今に至る。

 ユキは白羽によく懐き、白羽も彼女を可愛がった。
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