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【イケメン俳優似の男】
喪失のマユミ
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翌日。
仕事に取り掛かる前、水沢はちょうど空いていた会議室にユキと村尾を呼んだ。
「今回は森田さんが囮ということで、台本書いてきました」
そう言うと紙の束を机の上に置いた。
表紙には几帳面そうな字で『喪失~既婚者にもて遊ばれたOLマユミ~』とある。
村尾は嫌な予感しかしない。読むよう促され、ユキが手に取る。村尾も横から覗き込んだ。
『登場人物:
・マユミ(OL、25歳)
・田中(取引先の男、33歳実は既婚者)
・サチエ(田中の妻、30歳)
・及川(マユミの上司、45歳)
あらすじ:
物流の会社で事務の仕事をしているマユミは、職場に出入りする取引先の会社員である田中に交際を迫られ体の関係を持った。しかし実は田中には妻子があったのである』
村尾が「なんだこりゃ」と当然の疑問をさしはさんだ。
「タイトルがダサい。それ以上にサブタイトルがダサい」
水沢は無視して、
「森田さんにはこのマユミになりきってもらいます」
「偽名はいいとして、普通に会話するだけじゃだめ?」
「森田さんが妖滅官で囮だとバレたら危険です。話を振られたら、傷心のOLとして振舞って下さい」
「なるほどね」とユキ。
そして「私はマユミ、私はマユミ」と呟いている。
「森田ちゃんは真面目だな」
村尾はやれやれと言った風だ。
二人は本文を読み始めた。
要約すると、マユミは既婚者と知らずに田中と付き合う。が、ある日自宅の郵便受けに『この泥棒猫』というメモと共に彼の誕生日に送ったネクタイがズタズタに切り裂かれ入っていたことから彼が既婚者と知る。
田中は完全に遊びのつもりだった。妻の第二子出産のための里帰り中に好き放題やっていたのだ。ただでさえ赤ん坊への頻回授乳、イヤイヤ期の上の子の世話、度重なる姑の襲撃で産後うつ寸前だった妻は怒り心頭に発し、マユミの会社にも匿名で苦情の手紙を出す。
あらぬ噂を立てられ居場所をなくしたマユミはとうとう退職に追い込まれ全てを失くす。
そして彼女は自暴自棄となり、人恋しさから駅前のナンパスポットに座りつづけるのだ、という昼ドラ顔負けのストーリーであった。
原稿用紙三十枚を越える力作である。
「すんげぇドッロドロだな。お前どんな顔でこれ書いたの」
村尾はまたもや引いている。
「でも、リアルでしょう。さぁ森田さん、練習しましょうか」
水沢はあくまで真剣である。
「何の練習?」
「俺が妖物の役をします。まずは悲しげにベンチに座っているところから。いきますよ。『おねぇちゃん浮かない顔で彼と喧嘩でもしたの? そんなことより俺と飲みに行こうよ』」
村尾とユキは吹き出した。
「不自然だろ。俺がやる。『あのすみません、この辺にカフェとかないですか?』」
「なんでカフェのことをを聞くんですか」
「直接誘ったら警戒するからだろ。徐々に攻略するんだよ」
村尾と水沢がナンパの仕方を競い出したので、
「なんかズレてきてるよ」
とユキはケタケタ笑い出した。
「私、本番で笑ってしまうかも」
仕事に取り掛かる前、水沢はちょうど空いていた会議室にユキと村尾を呼んだ。
「今回は森田さんが囮ということで、台本書いてきました」
そう言うと紙の束を机の上に置いた。
表紙には几帳面そうな字で『喪失~既婚者にもて遊ばれたOLマユミ~』とある。
村尾は嫌な予感しかしない。読むよう促され、ユキが手に取る。村尾も横から覗き込んだ。
『登場人物:
・マユミ(OL、25歳)
・田中(取引先の男、33歳実は既婚者)
・サチエ(田中の妻、30歳)
・及川(マユミの上司、45歳)
あらすじ:
物流の会社で事務の仕事をしているマユミは、職場に出入りする取引先の会社員である田中に交際を迫られ体の関係を持った。しかし実は田中には妻子があったのである』
村尾が「なんだこりゃ」と当然の疑問をさしはさんだ。
「タイトルがダサい。それ以上にサブタイトルがダサい」
水沢は無視して、
「森田さんにはこのマユミになりきってもらいます」
「偽名はいいとして、普通に会話するだけじゃだめ?」
「森田さんが妖滅官で囮だとバレたら危険です。話を振られたら、傷心のOLとして振舞って下さい」
「なるほどね」とユキ。
そして「私はマユミ、私はマユミ」と呟いている。
「森田ちゃんは真面目だな」
村尾はやれやれと言った風だ。
二人は本文を読み始めた。
要約すると、マユミは既婚者と知らずに田中と付き合う。が、ある日自宅の郵便受けに『この泥棒猫』というメモと共に彼の誕生日に送ったネクタイがズタズタに切り裂かれ入っていたことから彼が既婚者と知る。
田中は完全に遊びのつもりだった。妻の第二子出産のための里帰り中に好き放題やっていたのだ。ただでさえ赤ん坊への頻回授乳、イヤイヤ期の上の子の世話、度重なる姑の襲撃で産後うつ寸前だった妻は怒り心頭に発し、マユミの会社にも匿名で苦情の手紙を出す。
あらぬ噂を立てられ居場所をなくしたマユミはとうとう退職に追い込まれ全てを失くす。
そして彼女は自暴自棄となり、人恋しさから駅前のナンパスポットに座りつづけるのだ、という昼ドラ顔負けのストーリーであった。
原稿用紙三十枚を越える力作である。
「すんげぇドッロドロだな。お前どんな顔でこれ書いたの」
村尾はまたもや引いている。
「でも、リアルでしょう。さぁ森田さん、練習しましょうか」
水沢はあくまで真剣である。
「何の練習?」
「俺が妖物の役をします。まずは悲しげにベンチに座っているところから。いきますよ。『おねぇちゃん浮かない顔で彼と喧嘩でもしたの? そんなことより俺と飲みに行こうよ』」
村尾とユキは吹き出した。
「不自然だろ。俺がやる。『あのすみません、この辺にカフェとかないですか?』」
「なんでカフェのことをを聞くんですか」
「直接誘ったら警戒するからだろ。徐々に攻略するんだよ」
村尾と水沢がナンパの仕方を競い出したので、
「なんかズレてきてるよ」
とユキはケタケタ笑い出した。
「私、本番で笑ってしまうかも」
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