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美魔女 VS 子沢山
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ユウくんママ、子沢山、美魔女はクジを引かされ、第1戦は美魔女と子沢山のマッスルがぶつかり合う事となった。
良く気が回る山道教諭は手にベビーバスケットを二つ抱えて来た。
「良ければお使い下さい」
「ありがとうございます」
子沢山は都合良く眠ってくれた双子をバスケットに寝かせる。
――ごめんね、かぁちゃん駄目かもしれない……
子沢山は健やかに眠る幼子達に、思わず弱音を吐いた。
山道教諭の指示に従い、床に貼られたビニールテープの円の中で子沢山と美魔女は向かい合う。
「あなた顔色悪いわよ。さっさと棄権した方がいいんじゃない?」
美魔女が腰に片手を当て気遣うが、子沢山は美魔女を虚ろな眼でただ見つめている。子沢山の視線の先で、ゆるくカールした毛先をもてあそぶ美魔女の、ネイルに付着したストーンが鈍く反射した。
子沢山は己のささくれ立った指先を見た。
――おしゃれに縁が無くなってもう何年経つのだろう。趣味だったアマチュア無線だって、やり方をすっかり忘れてしまった。
しかし、と子沢山は考える。
――少なくとも自分には、三度のお産を耐え抜いたという矜持がある。その内一回は帝王切開だった。あの時の、術後の傷の痛みに比べればこんなもん‼︎
子沢山は四人の子どもらの顔を脳裏に浮かべ、ベルマーク係に何としてでも就いてやると覚悟を決めた。
――棄権してもしなくても、後悔するのだ。どうせならやれるだけやってみよう。
子沢山はそう腹をくくった。虚ろな眼に微かな光が宿る。
講堂のあちらこちらでは、既に保護者達のマッスルが激しくぶつかり合うバチンバチンという音や悲鳴、怒号、歓声などが響き渡っている。
美魔女達の立つ円の外では、スカートの裾を気にしつつ体操座りをして待機するユウくんママがソワソワと周囲を見回している。お家に帰りたい、彼女の顔にはそう書いてあった。
「マッスル~スタートゥッッ‼︎」
山道教諭の威勢良い掛け声と共にぶつかり合いは始まった。
開始早々、美魔女は既に見開かれていた両の目をさらにカッと見開く。
「ぐっ……‼︎」
するとどうした事だろう、美魔女と目が合った子沢山は身動きを封じられてしまった。その様子はまるで、蛇に睨まれた蛙の如し。
「ふふっ」
美魔女は子沢山の動揺した表情を見て、目をかっぴらいたまま妖艶に微笑む。子沢山は彼女の目から視線をそらす事が出来ない。
目元のたるみを防止する目的で始めた朝晩二回の眼輪筋トレーニング、及び目をなるべく大きく見せようと常に目に力を込める行為は、彼女に眼輪筋奥義「刮目効果」を身につけさせた。この技は彼女の婚活を長引かせた要因でもあった。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
子沢山は息遣い荒く美魔女の技を解こうともがくが、金縛りにあったかのように身じろぎ一つ出来ない。
「眼輪筋を巧みに利用した技……なかなか珍しいですね」
ステージ上で講堂全体のバトルを見守っていた副園長が園長に同意を求める。
「鍛え上げたマッスルを最終的に精神攻撃へと繋げてるって訳ね」
園長も関心しきりだ。
精神攻撃とはつまり「取って喰われそう」という恐怖、及び「どんだけ大きい着色直径のカラコン付けてんの?」「取ったらさぞかし顔の雰囲気変わるだろうな」などの純粋な疑問を見る者に無意識の内に起こさせる事でその動きを一時的に停止させる攻撃である。
美魔女はゆっくりと子沢山へと歩み寄り、ポンと軽くその肩を押した。金縛りが解けたのは、子沢山が円の外に尻餅をついた瞬間であった。
まずは美魔女、一歩リードである。
良く気が回る山道教諭は手にベビーバスケットを二つ抱えて来た。
「良ければお使い下さい」
「ありがとうございます」
子沢山は都合良く眠ってくれた双子をバスケットに寝かせる。
――ごめんね、かぁちゃん駄目かもしれない……
子沢山は健やかに眠る幼子達に、思わず弱音を吐いた。
山道教諭の指示に従い、床に貼られたビニールテープの円の中で子沢山と美魔女は向かい合う。
「あなた顔色悪いわよ。さっさと棄権した方がいいんじゃない?」
美魔女が腰に片手を当て気遣うが、子沢山は美魔女を虚ろな眼でただ見つめている。子沢山の視線の先で、ゆるくカールした毛先をもてあそぶ美魔女の、ネイルに付着したストーンが鈍く反射した。
子沢山は己のささくれ立った指先を見た。
――おしゃれに縁が無くなってもう何年経つのだろう。趣味だったアマチュア無線だって、やり方をすっかり忘れてしまった。
しかし、と子沢山は考える。
――少なくとも自分には、三度のお産を耐え抜いたという矜持がある。その内一回は帝王切開だった。あの時の、術後の傷の痛みに比べればこんなもん‼︎
子沢山は四人の子どもらの顔を脳裏に浮かべ、ベルマーク係に何としてでも就いてやると覚悟を決めた。
――棄権してもしなくても、後悔するのだ。どうせならやれるだけやってみよう。
子沢山はそう腹をくくった。虚ろな眼に微かな光が宿る。
講堂のあちらこちらでは、既に保護者達のマッスルが激しくぶつかり合うバチンバチンという音や悲鳴、怒号、歓声などが響き渡っている。
美魔女達の立つ円の外では、スカートの裾を気にしつつ体操座りをして待機するユウくんママがソワソワと周囲を見回している。お家に帰りたい、彼女の顔にはそう書いてあった。
「マッスル~スタートゥッッ‼︎」
山道教諭の威勢良い掛け声と共にぶつかり合いは始まった。
開始早々、美魔女は既に見開かれていた両の目をさらにカッと見開く。
「ぐっ……‼︎」
するとどうした事だろう、美魔女と目が合った子沢山は身動きを封じられてしまった。その様子はまるで、蛇に睨まれた蛙の如し。
「ふふっ」
美魔女は子沢山の動揺した表情を見て、目をかっぴらいたまま妖艶に微笑む。子沢山は彼女の目から視線をそらす事が出来ない。
目元のたるみを防止する目的で始めた朝晩二回の眼輪筋トレーニング、及び目をなるべく大きく見せようと常に目に力を込める行為は、彼女に眼輪筋奥義「刮目効果」を身につけさせた。この技は彼女の婚活を長引かせた要因でもあった。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
子沢山は息遣い荒く美魔女の技を解こうともがくが、金縛りにあったかのように身じろぎ一つ出来ない。
「眼輪筋を巧みに利用した技……なかなか珍しいですね」
ステージ上で講堂全体のバトルを見守っていた副園長が園長に同意を求める。
「鍛え上げたマッスルを最終的に精神攻撃へと繋げてるって訳ね」
園長も関心しきりだ。
精神攻撃とはつまり「取って喰われそう」という恐怖、及び「どんだけ大きい着色直径のカラコン付けてんの?」「取ったらさぞかし顔の雰囲気変わるだろうな」などの純粋な疑問を見る者に無意識の内に起こさせる事でその動きを一時的に停止させる攻撃である。
美魔女はゆっくりと子沢山へと歩み寄り、ポンと軽くその肩を押した。金縛りが解けたのは、子沢山が円の外に尻餅をついた瞬間であった。
まずは美魔女、一歩リードである。
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