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ヤンママ達
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まずは8人もの保護者がベルマーク係を希望し所定の位置に集まった。
しかし係の枠はたったの2名。別の係に回った方が早いと判断した8人の内5人は他の係、お遊戯会係や餅つき係等の席へと散っていった。マッスル幼稚園に我が子を入園させたとは言え、皆が皆好戦的な訳ではないのである。
しかし残りの3名――ユウくんママ、子沢山、美魔女――は根を生やした様に動かない。
ベルマーク係の他に、巨大かぼちゃ収穫遠足係、お遊戯会係、餅つき係が人気の様である。
横尾教諭がマイク片手に進行する。
「見た所バザー係と運動会係が定員割れしている様ですが、そちらに移って頂ける方はいらっしゃいませんか?」
教諭が促すが、保護者達は頑なに席を立とうとしない。
「では皆様には今から5分間、話し合いをして頂きます。それでも決定しなければ、先程園長が申した通りマッスルのぶつかり合いを行います」
それぞれの場所で、ボソボソと相談が始まった。ベルマーク係の席では主に美魔女が発言している。
「私は譲らないわよ。それにしてもあなた方、そんなスーツ着てマッスルをぶつけ合う気があるのかしら?」
「どうしてもベルマーク係が良いんです……」
ユウくんママは俯き加減で、蚊の鳴くような声で呟く。
「私も……他のはどれも、負担が大きそうで……」
子沢山も、眠った双子を抱えてやっとの事で返事をする。
場が膠着したまま5分が経過しようとしていた。
するとひらめ組保護者らの背後にて大きな歓声があがり、講堂にいる全員がそちらに注目した。多くの視線の先では壮絶なる空中戦が繰り広げられている。さんかく組の、巨大かぼちゃ収穫遠足係を巡っての争いだった。
宙に浮いて激しい攻防を展開している二人は、両者共に似たような格好をしている。目の周りはアイシャドウで濃く縁取られ、パーマの当てられたまつ毛は羽ばたけそうな程長く揺らめいている。根元だけ黒い髪に色素の抜けた薄い茶褐色の毛髪を振り乱し、バックにヘローキ○ィがプリントされた、一方がド派手なショッキングピンク、もう一方がエメラルドグリーンのジャージを着用、足元はこれまたヘロー◯ティ柄のサンダルを履いた、いわゆるヤンママ同士の戦いであった。
「琉詩増くんママ、ガンバでーす!!」
「艶貝ちゃんママ、ファイトでーす!!」
戦友からの熱い声援が飛び交う。
天使と堕天使の戦闘を目にした周囲の者達は皆、一様なる考えを抱いた。
――ルシフェルくんにエンジェルちゃんか……あまりお近づきになりたくないなぁ……
ユウくんママや子沢山は口をあんぐり開けて目を剥いた。
――ナニコレ……どういう原理で浮いてんの⁈
しかし周りの反応を見るに、マッスル界においては空中戦の存在など周知の事実であるらしかった。
――ここは私のいるべき世界ではない……。
二人は三たび自分の運命を呪った。かと言って、ベルマーク係を譲りたくもなかった。
ステージ上に設えた長椅子に悠然と腰掛け成り行きを見守っている園長は、一人ほくそ笑んだ。
あの年で空中浮遊をなし得るとは……ふふ……今年の新入園児保護者は豊作だわ……
空中浮遊術……それは左右の膝下を高速でパタパタさせる事で上昇気流を生み出し自らの身体を宙に留める、特に下腿三頭筋及びアキレス腱の柔軟性・持久力が必要な高難易度の技である。
しかし係の枠はたったの2名。別の係に回った方が早いと判断した8人の内5人は他の係、お遊戯会係や餅つき係等の席へと散っていった。マッスル幼稚園に我が子を入園させたとは言え、皆が皆好戦的な訳ではないのである。
しかし残りの3名――ユウくんママ、子沢山、美魔女――は根を生やした様に動かない。
ベルマーク係の他に、巨大かぼちゃ収穫遠足係、お遊戯会係、餅つき係が人気の様である。
横尾教諭がマイク片手に進行する。
「見た所バザー係と運動会係が定員割れしている様ですが、そちらに移って頂ける方はいらっしゃいませんか?」
教諭が促すが、保護者達は頑なに席を立とうとしない。
「では皆様には今から5分間、話し合いをして頂きます。それでも決定しなければ、先程園長が申した通りマッスルのぶつかり合いを行います」
それぞれの場所で、ボソボソと相談が始まった。ベルマーク係の席では主に美魔女が発言している。
「私は譲らないわよ。それにしてもあなた方、そんなスーツ着てマッスルをぶつけ合う気があるのかしら?」
「どうしてもベルマーク係が良いんです……」
ユウくんママは俯き加減で、蚊の鳴くような声で呟く。
「私も……他のはどれも、負担が大きそうで……」
子沢山も、眠った双子を抱えてやっとの事で返事をする。
場が膠着したまま5分が経過しようとしていた。
するとひらめ組保護者らの背後にて大きな歓声があがり、講堂にいる全員がそちらに注目した。多くの視線の先では壮絶なる空中戦が繰り広げられている。さんかく組の、巨大かぼちゃ収穫遠足係を巡っての争いだった。
宙に浮いて激しい攻防を展開している二人は、両者共に似たような格好をしている。目の周りはアイシャドウで濃く縁取られ、パーマの当てられたまつ毛は羽ばたけそうな程長く揺らめいている。根元だけ黒い髪に色素の抜けた薄い茶褐色の毛髪を振り乱し、バックにヘローキ○ィがプリントされた、一方がド派手なショッキングピンク、もう一方がエメラルドグリーンのジャージを着用、足元はこれまたヘロー◯ティ柄のサンダルを履いた、いわゆるヤンママ同士の戦いであった。
「琉詩増くんママ、ガンバでーす!!」
「艶貝ちゃんママ、ファイトでーす!!」
戦友からの熱い声援が飛び交う。
天使と堕天使の戦闘を目にした周囲の者達は皆、一様なる考えを抱いた。
――ルシフェルくんにエンジェルちゃんか……あまりお近づきになりたくないなぁ……
ユウくんママや子沢山は口をあんぐり開けて目を剥いた。
――ナニコレ……どういう原理で浮いてんの⁈
しかし周りの反応を見るに、マッスル界においては空中戦の存在など周知の事実であるらしかった。
――ここは私のいるべき世界ではない……。
二人は三たび自分の運命を呪った。かと言って、ベルマーク係を譲りたくもなかった。
ステージ上に設えた長椅子に悠然と腰掛け成り行きを見守っている園長は、一人ほくそ笑んだ。
あの年で空中浮遊をなし得るとは……ふふ……今年の新入園児保護者は豊作だわ……
空中浮遊術……それは左右の膝下を高速でパタパタさせる事で上昇気流を生み出し自らの身体を宙に留める、特に下腿三頭筋及びアキレス腱の柔軟性・持久力が必要な高難易度の技である。
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