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ユウくんママ
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ところで、先程の園長の言葉を聞いた際の保護者達の反応は二通りに分かれた。すなわち目をギラギラと輝かせるものと顔面蒼白になるものだ。
ユウくんママは後者だった。先程の園長マッスルによるホワイトボード大破の瞬間には、ビビり過ぎて密かにちびりかけたくらいである。
配布された「入園式のお知らせ」のプリントには「動きやすい服装でご参加下さい」「入園式後に係決めがございます」としか書かれていなかった。
周りを見回せばプリントに忠実に、ジャージや空手着や作務衣、果てはサ◯ヤ人の戦闘服を身につけ気合い充分な保護者達の姿が見受けられる。ユウくんママが今朝幼稚園に到着した際には、幼稚園の入園式ではなく天下一武道会の会場に来たのかと錯覚した程である。
オシャレに興味の無い彼女はもろ被り覚悟でイオンで買った無難なスーツを着用して来たのだが、被るどころか浮いていた。
ユウくんママは中肉中背さらに十人並みの容姿の三十二歳だ。学校でも職場でも地域社会でも、とにかくどこに居ても常に背景に溶け込んできたのだが、その彼女が浮いているのである。
彼女は夫の転勤で昨秋この地へ越して来たばかり。入園説明会への出席も出来ず、知り合いもいない為に地域の幼稚園の情報が一切入って来なかった上、バタバタして情報収集もままならなかったのである。
珍妙な名称の幼稚園だとは思ったが家から一番近いし評判も良いようだし、せっかく夜通し並んでまで願書を手に入れたのだから、この園に是非とも息子を通わせたい。しかしまさか保護者までもがマッスルを求められるとは思わなんだ。
クラス担任の説明やクラス係の二人の過剰な自己紹介を聞きながら、ユウくんママの顔からは血の気が引いたままだった。彼女は目立つ事や争いを好まない性格で、部活動も全て文化部、虫も殺さぬ人生を歩んできた……まぁ、蚊や家庭内害虫を叩き潰すくらいはしたが。
ユウくんママは中途半端な時期に転勤を命じた夫の会社を恨んだ。
プリントに記された説明によれば、目立たず且つマッスルを必要としない係はベルマーク係しか無いと思われた。
ユウくんママは後者だった。先程の園長マッスルによるホワイトボード大破の瞬間には、ビビり過ぎて密かにちびりかけたくらいである。
配布された「入園式のお知らせ」のプリントには「動きやすい服装でご参加下さい」「入園式後に係決めがございます」としか書かれていなかった。
周りを見回せばプリントに忠実に、ジャージや空手着や作務衣、果てはサ◯ヤ人の戦闘服を身につけ気合い充分な保護者達の姿が見受けられる。ユウくんママが今朝幼稚園に到着した際には、幼稚園の入園式ではなく天下一武道会の会場に来たのかと錯覚した程である。
オシャレに興味の無い彼女はもろ被り覚悟でイオンで買った無難なスーツを着用して来たのだが、被るどころか浮いていた。
ユウくんママは中肉中背さらに十人並みの容姿の三十二歳だ。学校でも職場でも地域社会でも、とにかくどこに居ても常に背景に溶け込んできたのだが、その彼女が浮いているのである。
彼女は夫の転勤で昨秋この地へ越して来たばかり。入園説明会への出席も出来ず、知り合いもいない為に地域の幼稚園の情報が一切入って来なかった上、バタバタして情報収集もままならなかったのである。
珍妙な名称の幼稚園だとは思ったが家から一番近いし評判も良いようだし、せっかく夜通し並んでまで願書を手に入れたのだから、この園に是非とも息子を通わせたい。しかしまさか保護者までもがマッスルを求められるとは思わなんだ。
クラス担任の説明やクラス係の二人の過剰な自己紹介を聞きながら、ユウくんママの顔からは血の気が引いたままだった。彼女は目立つ事や争いを好まない性格で、部活動も全て文化部、虫も殺さぬ人生を歩んできた……まぁ、蚊や家庭内害虫を叩き潰すくらいはしたが。
ユウくんママは中途半端な時期に転勤を命じた夫の会社を恨んだ。
プリントに記された説明によれば、目立たず且つマッスルを必要としない係はベルマーク係しか無いと思われた。
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