167 / 169
生涯、彼は初恋の修道女を忘れる事ができない
香り立つ薔薇の季節をきみに
しおりを挟む
時は瞬く間に過ぎ去り、季節は花が香り立つ10月。
薔薇が咲き乱れる季節に、マリーとリシャールは過去のユートゥルナが祀られている大聖堂にて結婚式を挙げる事となった。
そして結婚式当日。
空は雲ひとつなく晴れ渡っていた。
式場である大聖堂は王都の西、海側に面した高台に位置する。
大聖堂は600年かけて作られ、完成したのが300年前。
そこは、度重なる侵略を結界で守ってきたという古代のユートゥルナだった者たちを祀っている。
ちなみに女神ユートゥルナの記憶を持つ神の生まれ変わりたちは、王都で暮らした者もいるし、国境で生涯を終えた者もいるのだ。
マリーは、海が一望できる大聖堂内の花嫁用控室にいた。
(これでよし、と……)
マリーは大きな鏡がついたドレッサーの前で、化粧の仕上げである口紅をさした。
思えば、今日は夜明け前から起床し、入浴したり、身支度を整えたり、大忙しだった。
何せ、今日は第一王子リシャールの婚姻だ。
城中が慌ただしく、国中が騒がしかった。
時刻はもう正午。
昼を知らせる鐘が先程鳴ったばかりだ。
そろそろ挙式時間が近づいてきていた。
「ローゼ。私はそろそろ行くから」
そう言ってリシャールはマリーに目線を合わせるように膝を折って屈んだ。
そしてドレッサーの前に座るマリーの頬に、優しく口付けた。
ただ、困ったことに、リシャールはそれだけでは足りなかったようだ。
今度は角度を変えて、マリーの紅のさした唇に、キスを深く落とした。
マリーはなされるまま、まだ式も始まっていないのに、その唇を受け止めた。
「リシャール様。口紅を塗ったばかりなのにキスなんかするから……紅がついてますよ」
マリーの口紅の色がリシャールに移り、彼の形が良い唇に赤い紅がついていた。
その姿は男性なのに、ぞっとするくらい麗しく、色気があった。
「ついたままでもいいんだけどな」
まさかリシャールはわざと紅がつくようにキスしたのではないか、とマリーは感じた。
マリーの口紅と同じ赤は、まるで今キスをしてきました、と言わんばかりであり、それは周りに見せつける行為である。
「と、とりましょう……!」
マリーはハンカチを渡すとリシャールは素直に拭き取った。
そして、リシャールはドレッサーに置かれた紅を持ち、またマリーに塗り直した。
「綺麗だな」
リシャールは目を細めて、感嘆した。
「ありがとう、ございます」
リシャールは名残り惜しそうにマリーに言った。
「では、またあとで。向こうで待っている」
「わかりました」
そして、リシャールがドアから出て行った。
(あっという間だったなぁ)
マリーはふと思った。
気がつけば季節は移ろぎ、以前リシャールが結婚を予告していた秋になっていた。
マリーはしみじみと思い出した。
(春に修道院を出てから、いろいろあったな)
マリーは修道院を出て王都に昇進試験のために行った時を懐かしく思った。
マリーは修道女として王都に派遣されたのに、王子であるリシャールに気に入られた。
そして、事件にかかわるうちに、短い任務期間中に何度も叶わぬ恋の先を見た。
今まで物語の世界しか知らなかったマリーは、様々な愛と恋の形があると知ったのだ。
マリーは恋愛という漠然としたものを、以前よりわかる様になった気がした。
どんな恋も、切なくて、苦しい。しかし、後から思い出すと泣きたくなる程美しい。
マリーはそう切実に感じた。
そして、誰しもが、苦しくてつらいことばかりの恋自体に対する後悔はなかったのではないかと思った。
だって、好きな相手に出会わなければ、なんて誰も思わないだろう。
例えそれが叶わなくても。
恋をすると言う事は、時に間違いはあれど、その時を精一杯生きた証なのだから。
マリーはそんな事をぼーっと考えていると、侍女に声をかけられた。
「ローゼ様。もうすぐお時間なので、ドレスの確認をさせて頂きます。お立ち下さい」
マリーは侍女に促されて、立ち上がって全身が映る鏡の前に移動した。
最終チェックだ。
そこの大きな姿見に映るのは、少し頬を赤らめた花嫁姿であるマリーだ。
マリーのウェディングドレスは素肌を見せないレースの長袖だ。
それはプリンセスラインで、胸元から長い裾まで真珠が縫い付けられ、全体的に繊細な薔薇の刺繍が施されていた。
透けた生地のベールは長く、バージンロードを歩く際はその裾を青ちゃんが持つ予定だった。
「ママ、素敵です」
マリーの横で椅子に座っていた青ちゃんが言った。
午前にはサラもマリーの控室に顔を出し、先程まで母や親戚いたがリシャールとマリーと青ちゃんを残し、皆挨式場に入場した。
リシャールが退室した今となっては、マリーの付き添いは青ちゃんだけだった。
もう間も無く、式がはじまるのだ。
ちなみに青ちゃんはロイヤルブルーの大きなリボンを髪につけ、ポニーテールを巻いている。
淡い黄色の丈が短いドレスがよく似合っていた。
まさに美少女だ。
「青ちゃん、ありがとう」
実はこのドレスは以前ブラン侯爵邸にいたマリーを押しかけてきた業者に頼んで作ったものではない。
マリーが選んだそれはあまりにも質素だから、却下されたらしい。
今回のドレスは『結婚式実行委員会隊長サラ殿』(サラから聞いた話によると、取締役がリシャール)が王族にふさわしい高貴なデザインを集めた中から、リシャールが選んだものだ。
(大人っぽいと思ったけど、上品で素敵だわ)
ちなみにリシャールがこのドレスを選んだ理由は、一番露出が少なかったから、らしい。
さすが、嫉妬の鬼リシャール。
大切なのはそこらしい。
愛情が過ぎるのも考え物だ。
マリーは実のところ今回の結婚式を迎えるにあたって、あの美人なリシャールの隣にいる自分が地味過ぎるのではないか、と大変不安だった。
それでマリーは、先日その事をリシャールに話したら「ローゼはかわいいのに、自覚が足りないんだ。だからいつも懲りずにふらふら無防備にいる。私がどれほど心配しているか分からせてやる」と言った。
そしてマリーはリシャールの低くてちょっと掠れているあのとても心地良い声で散々褒めちぎられる結果になった。
昨日もリシャールに『綺麗だ』とか『かわいい』とか『愛してる』とか、様々なレパートリーの愛の言葉を寝台だけではなく、四六時中ひたすら言われたのだ。
食事中も、移動中も、目が合えばずっとだ。
しかも、ドレスぎりぎりの胸元付近もあざだらけになるほど痕をつけられたのだ。
マリーはリシャールに恥ずかしいくらいに褒められ、愛でられた。
マリーは相変わらず、あの好きな声に身体が溶かされ、言葉に恋をするように顔を赤らめた。
(あれは……新手の嫌がらせだわ。絶対、からかっている)
リシャールはいつも嬉しそうに口角を上げていた。
あれは紛れもなく、マリーの反応を楽しんでいる顔だった。
さらに最近は、リシャールはマリーの香りに酔うように目を細めて匂いを嗅いでくるのだ。
しきりに、自分たちは『相性がいい』、とか言ってくる。
マリーは何の相性か、イマイチわからない。
でも、マリーも香りに包まれるのは幸せなので、つい、リシャールの匂いを嗅いでしまうのだ。
何やってるんだ私たちは、と思いながら。
(リシャール様、本当何考えているのかしら……?)
リシャールは結婚が正式に決まってからは、訪問地で出会う男性とマリーが話すだけであからさまな嫉妬していた。
『あの男はいやらしいやつだ』、『ローゼに気があるんだ』、等。
もう、しつこい。しつこい。
リシャールほどマリーをいやらしく見つめ、気がある人物はこの世にいないというのに。
だから、リシャールはマリーがどこにいても抱き上げて、膝に座らせ、身体に触れて来るようになった。
まるでリシャールはマリー専用の人間椅子。
彼は王子だから世界で一番高級な椅子だ。
リシャールは『もう結婚するから何でも受け入れてほしい』の一点張りだ。
マリーはリシャールがただ触りたいだけなのでは、と思わずにいられない。
そんな彼は夜も優しかったり、情熱的だったり、執拗だったり。
リシャールは飽きもせずにマリーを美しい瞳で見つめて、愛でる。
頭から足のつめの先まで、愛しているらしい。
とっても重い愛。
朝も夜も関係ない。時に窒息しそうだ。
でも、悪くない。とても不自由を感じるけれど。
(とりあえず後宮の心配はなさそうね……?)
マリーの妄想では有能な側室が現れる予定だったが、リシャールにそれを言った日は散々お仕置きされてしまった。
マリーはそこでやっとサラが言うお仕置きの怖さを知った。
(もう、リシャール様を怒らせないわ。あとが大変だもの)
マリーはまだ腹上死したくない。
リシャールはイケメンでお金持ちではあるが、彼の愛情すべてがマリーに嫌というほど注がれているので浮気の心配はなさそうだった。
リシャールは来世があったらまたマリーと結婚したいと言っていた。
(来世とかあるかわからないけど……私は幸せね)
だってマリーは好きな人と結ばれたのだから。
マリーは鏡を見て微笑んだ。
「ママ、今日の夜から頑張ってください。アレも大切な公務ですよ」
「あれ」
「繁盛です」
「……その話はいいから!」
ちなみにマリーの愛娘青ちゃんは兄弟があと10匹ほしいらしい。虫の感覚は恐ろしい。
蝶は卵を200個産むらしいから10匹なんてどうって事ないんだろうけど。
「でもよかったです。ママはきっと誰とも結婚しないと思ってましたから。私は嬉しいです」
マリーは修道女だった。普通の幸せや人生を捨て、神のために生きて死ぬ予定だった。
だから、結婚しないつもりだった。
いや、令嬢だった時も、地味でぱっとしない自分に自信がなく、自分なんかが誰かに愛されて結婚するわけないとずっと思って生きてきた。
マリーには恋の機会もなく、質素な部屋で絵の具まみれになりながらひたすら絵を描いて、時に恋愛小説を読み、一般的な恋愛のそれに憧れた。
いつか好きな人に出会い、心通わせ、結ばれる事に惹かれながら、自分には関係のない世界だと思いながら、恋を、愛される人生を諦めていたから。
だが、人生とは何があるかわからないものだ。
物語よりも奇異である。
マリーは昔からずっと慕っていた恩人であるリシャールと再会し、今彼と結婚しようとしている。
「もうすぐ式が始まりますので、そろそろ控室から移動します」
案内係がそう言ったので、マリーは立ち上がった。
薔薇が咲き乱れる季節に、マリーとリシャールは過去のユートゥルナが祀られている大聖堂にて結婚式を挙げる事となった。
そして結婚式当日。
空は雲ひとつなく晴れ渡っていた。
式場である大聖堂は王都の西、海側に面した高台に位置する。
大聖堂は600年かけて作られ、完成したのが300年前。
そこは、度重なる侵略を結界で守ってきたという古代のユートゥルナだった者たちを祀っている。
ちなみに女神ユートゥルナの記憶を持つ神の生まれ変わりたちは、王都で暮らした者もいるし、国境で生涯を終えた者もいるのだ。
マリーは、海が一望できる大聖堂内の花嫁用控室にいた。
(これでよし、と……)
マリーは大きな鏡がついたドレッサーの前で、化粧の仕上げである口紅をさした。
思えば、今日は夜明け前から起床し、入浴したり、身支度を整えたり、大忙しだった。
何せ、今日は第一王子リシャールの婚姻だ。
城中が慌ただしく、国中が騒がしかった。
時刻はもう正午。
昼を知らせる鐘が先程鳴ったばかりだ。
そろそろ挙式時間が近づいてきていた。
「ローゼ。私はそろそろ行くから」
そう言ってリシャールはマリーに目線を合わせるように膝を折って屈んだ。
そしてドレッサーの前に座るマリーの頬に、優しく口付けた。
ただ、困ったことに、リシャールはそれだけでは足りなかったようだ。
今度は角度を変えて、マリーの紅のさした唇に、キスを深く落とした。
マリーはなされるまま、まだ式も始まっていないのに、その唇を受け止めた。
「リシャール様。口紅を塗ったばかりなのにキスなんかするから……紅がついてますよ」
マリーの口紅の色がリシャールに移り、彼の形が良い唇に赤い紅がついていた。
その姿は男性なのに、ぞっとするくらい麗しく、色気があった。
「ついたままでもいいんだけどな」
まさかリシャールはわざと紅がつくようにキスしたのではないか、とマリーは感じた。
マリーの口紅と同じ赤は、まるで今キスをしてきました、と言わんばかりであり、それは周りに見せつける行為である。
「と、とりましょう……!」
マリーはハンカチを渡すとリシャールは素直に拭き取った。
そして、リシャールはドレッサーに置かれた紅を持ち、またマリーに塗り直した。
「綺麗だな」
リシャールは目を細めて、感嘆した。
「ありがとう、ございます」
リシャールは名残り惜しそうにマリーに言った。
「では、またあとで。向こうで待っている」
「わかりました」
そして、リシャールがドアから出て行った。
(あっという間だったなぁ)
マリーはふと思った。
気がつけば季節は移ろぎ、以前リシャールが結婚を予告していた秋になっていた。
マリーはしみじみと思い出した。
(春に修道院を出てから、いろいろあったな)
マリーは修道院を出て王都に昇進試験のために行った時を懐かしく思った。
マリーは修道女として王都に派遣されたのに、王子であるリシャールに気に入られた。
そして、事件にかかわるうちに、短い任務期間中に何度も叶わぬ恋の先を見た。
今まで物語の世界しか知らなかったマリーは、様々な愛と恋の形があると知ったのだ。
マリーは恋愛という漠然としたものを、以前よりわかる様になった気がした。
どんな恋も、切なくて、苦しい。しかし、後から思い出すと泣きたくなる程美しい。
マリーはそう切実に感じた。
そして、誰しもが、苦しくてつらいことばかりの恋自体に対する後悔はなかったのではないかと思った。
だって、好きな相手に出会わなければ、なんて誰も思わないだろう。
例えそれが叶わなくても。
恋をすると言う事は、時に間違いはあれど、その時を精一杯生きた証なのだから。
マリーはそんな事をぼーっと考えていると、侍女に声をかけられた。
「ローゼ様。もうすぐお時間なので、ドレスの確認をさせて頂きます。お立ち下さい」
マリーは侍女に促されて、立ち上がって全身が映る鏡の前に移動した。
最終チェックだ。
そこの大きな姿見に映るのは、少し頬を赤らめた花嫁姿であるマリーだ。
マリーのウェディングドレスは素肌を見せないレースの長袖だ。
それはプリンセスラインで、胸元から長い裾まで真珠が縫い付けられ、全体的に繊細な薔薇の刺繍が施されていた。
透けた生地のベールは長く、バージンロードを歩く際はその裾を青ちゃんが持つ予定だった。
「ママ、素敵です」
マリーの横で椅子に座っていた青ちゃんが言った。
午前にはサラもマリーの控室に顔を出し、先程まで母や親戚いたがリシャールとマリーと青ちゃんを残し、皆挨式場に入場した。
リシャールが退室した今となっては、マリーの付き添いは青ちゃんだけだった。
もう間も無く、式がはじまるのだ。
ちなみに青ちゃんはロイヤルブルーの大きなリボンを髪につけ、ポニーテールを巻いている。
淡い黄色の丈が短いドレスがよく似合っていた。
まさに美少女だ。
「青ちゃん、ありがとう」
実はこのドレスは以前ブラン侯爵邸にいたマリーを押しかけてきた業者に頼んで作ったものではない。
マリーが選んだそれはあまりにも質素だから、却下されたらしい。
今回のドレスは『結婚式実行委員会隊長サラ殿』(サラから聞いた話によると、取締役がリシャール)が王族にふさわしい高貴なデザインを集めた中から、リシャールが選んだものだ。
(大人っぽいと思ったけど、上品で素敵だわ)
ちなみにリシャールがこのドレスを選んだ理由は、一番露出が少なかったから、らしい。
さすが、嫉妬の鬼リシャール。
大切なのはそこらしい。
愛情が過ぎるのも考え物だ。
マリーは実のところ今回の結婚式を迎えるにあたって、あの美人なリシャールの隣にいる自分が地味過ぎるのではないか、と大変不安だった。
それでマリーは、先日その事をリシャールに話したら「ローゼはかわいいのに、自覚が足りないんだ。だからいつも懲りずにふらふら無防備にいる。私がどれほど心配しているか分からせてやる」と言った。
そしてマリーはリシャールの低くてちょっと掠れているあのとても心地良い声で散々褒めちぎられる結果になった。
昨日もリシャールに『綺麗だ』とか『かわいい』とか『愛してる』とか、様々なレパートリーの愛の言葉を寝台だけではなく、四六時中ひたすら言われたのだ。
食事中も、移動中も、目が合えばずっとだ。
しかも、ドレスぎりぎりの胸元付近もあざだらけになるほど痕をつけられたのだ。
マリーはリシャールに恥ずかしいくらいに褒められ、愛でられた。
マリーは相変わらず、あの好きな声に身体が溶かされ、言葉に恋をするように顔を赤らめた。
(あれは……新手の嫌がらせだわ。絶対、からかっている)
リシャールはいつも嬉しそうに口角を上げていた。
あれは紛れもなく、マリーの反応を楽しんでいる顔だった。
さらに最近は、リシャールはマリーの香りに酔うように目を細めて匂いを嗅いでくるのだ。
しきりに、自分たちは『相性がいい』、とか言ってくる。
マリーは何の相性か、イマイチわからない。
でも、マリーも香りに包まれるのは幸せなので、つい、リシャールの匂いを嗅いでしまうのだ。
何やってるんだ私たちは、と思いながら。
(リシャール様、本当何考えているのかしら……?)
リシャールは結婚が正式に決まってからは、訪問地で出会う男性とマリーが話すだけであからさまな嫉妬していた。
『あの男はいやらしいやつだ』、『ローゼに気があるんだ』、等。
もう、しつこい。しつこい。
リシャールほどマリーをいやらしく見つめ、気がある人物はこの世にいないというのに。
だから、リシャールはマリーがどこにいても抱き上げて、膝に座らせ、身体に触れて来るようになった。
まるでリシャールはマリー専用の人間椅子。
彼は王子だから世界で一番高級な椅子だ。
リシャールは『もう結婚するから何でも受け入れてほしい』の一点張りだ。
マリーはリシャールがただ触りたいだけなのでは、と思わずにいられない。
そんな彼は夜も優しかったり、情熱的だったり、執拗だったり。
リシャールは飽きもせずにマリーを美しい瞳で見つめて、愛でる。
頭から足のつめの先まで、愛しているらしい。
とっても重い愛。
朝も夜も関係ない。時に窒息しそうだ。
でも、悪くない。とても不自由を感じるけれど。
(とりあえず後宮の心配はなさそうね……?)
マリーの妄想では有能な側室が現れる予定だったが、リシャールにそれを言った日は散々お仕置きされてしまった。
マリーはそこでやっとサラが言うお仕置きの怖さを知った。
(もう、リシャール様を怒らせないわ。あとが大変だもの)
マリーはまだ腹上死したくない。
リシャールはイケメンでお金持ちではあるが、彼の愛情すべてがマリーに嫌というほど注がれているので浮気の心配はなさそうだった。
リシャールは来世があったらまたマリーと結婚したいと言っていた。
(来世とかあるかわからないけど……私は幸せね)
だってマリーは好きな人と結ばれたのだから。
マリーは鏡を見て微笑んだ。
「ママ、今日の夜から頑張ってください。アレも大切な公務ですよ」
「あれ」
「繁盛です」
「……その話はいいから!」
ちなみにマリーの愛娘青ちゃんは兄弟があと10匹ほしいらしい。虫の感覚は恐ろしい。
蝶は卵を200個産むらしいから10匹なんてどうって事ないんだろうけど。
「でもよかったです。ママはきっと誰とも結婚しないと思ってましたから。私は嬉しいです」
マリーは修道女だった。普通の幸せや人生を捨て、神のために生きて死ぬ予定だった。
だから、結婚しないつもりだった。
いや、令嬢だった時も、地味でぱっとしない自分に自信がなく、自分なんかが誰かに愛されて結婚するわけないとずっと思って生きてきた。
マリーには恋の機会もなく、質素な部屋で絵の具まみれになりながらひたすら絵を描いて、時に恋愛小説を読み、一般的な恋愛のそれに憧れた。
いつか好きな人に出会い、心通わせ、結ばれる事に惹かれながら、自分には関係のない世界だと思いながら、恋を、愛される人生を諦めていたから。
だが、人生とは何があるかわからないものだ。
物語よりも奇異である。
マリーは昔からずっと慕っていた恩人であるリシャールと再会し、今彼と結婚しようとしている。
「もうすぐ式が始まりますので、そろそろ控室から移動します」
案内係がそう言ったので、マリーは立ち上がった。
0
お気に入りに追加
312
あなたにおすすめの小説

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。

【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!
高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。
7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。
だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。
成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。
そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る
【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】
拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】
僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。
※他サイトでも投稿中
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。

どなたか私の旦那様、貰って下さいませんか?
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
私の旦那様は毎夜、私の部屋の前で見知らぬ女性と情事に勤しんでいる、だらしなく恥ずかしい人です。わざとしているのは分かってます。私への嫌がらせです……。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
政略結婚で、離縁出来ないけど離縁したい。
無類の女好きの従兄の侯爵令息フェルナンドと伯爵令嬢のロゼッタは、結婚をした。毎晩の様に違う女性を屋敷に連れ込む彼。政略結婚故、愛妾を作るなとは思わないが、せめて本邸に連れ込むのはやめて欲しい……気分が悪い。
彼は所謂美青年で、若くして騎士団副長であり兎に角モテる。結婚してもそれは変わらず……。
ロゼッタが夜会に出れば見知らぬ女から「今直ぐフェルナンド様と別れて‼︎」とワインをかけられ、ただ立っているだけなのに女性達からは終始凄い形相で睨まれる。
居た堪れなくなり、広間の外へ逃げれば元凶の彼が見知らぬ女とお楽しみ中……。
こんな旦那様、いりません!
誰か、私の旦那様を貰って下さい……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる