私は修道女なので結婚できません。私の事は忘れて下さい、お願いします。〜冷酷非情王子は修道女を好きらしいので、どこまでも追いかけて来ます〜

舞花

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生涯、彼は初恋の修道女を忘れる事ができない

聖女②

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「しかし、きみはもう公務もすっかり板についてきたな。その順応性の高さは好きだ」
「ありがとうございます、リシャール様。これからも日々精進したいと思います。よろしくお願い致します」

 マリーの丁寧な口調にリシャールは不服そうな顔をした。

「順応性があるのなら、もう敬語はやめて、私に早くいろいろ馴染んでくれないか。毎朝、顔を赤止めるのは嬉しいが、警戒されてどこか緊張している節があるのが気になる」

 四六時中、目の前に美形がいるのだ。目覚めた瞬間から。それに一生返せないくらいの恩義もある。
 いくら結婚するとはいえこの格差はどうにもこうにも埋められないのだ。

「無理ですよ。だって貴方は神様でもありますし、正真正銘の王子様ですし、命の恩人です。それにまだ……緊張します。その綺麗すぎるお顔が悪いのです」
「ああ、またこの顔のせいか。きみに見つめてもらえないのなら、もうこの際、整形でもしようかな」
「絶対やめて下さい!」

 マリーははぁ、っと息を吐いた。

「というか、リシャールこそ、その緩急どうにかなりません?」
「緩急? 何だそれ?」
「分からないならいいです」

 昼間のリシャールは為政者の顔で、凛々しく、物言わさず、緊張する。
 そして公務ではなっていないとマリーに叱咤する。
 しかし、夜はひどく甘いし、親切で、時に乞うような、すがる様な執拗な愛を求めてくる。

 ギャップというやつか、二重人格か。同一人物か。
 夜と昼が違い過ぎ。

(そういうとこも、好きなんだけど……)

 一緒に旅をすることになり、マリーはよりリシャールのすごさを知った。彼は魔法だけじゃなくて、頭の回転もいいし、やはり尊敬できるのだ。
 そんな彼に褒められるとやはり嬉しい。
 側にいれるのが嬉しい。

「リシャール様はすごいです。やっぱり貴方は聖女ですよ」

 今世は女じゃないけど。
 マリーは語った。

「私、近頃思うんです。聖女とは人々の心を動かした人物を指す言葉じゃないかって。つまり、たくさんの奇跡を起こした人です。今日だって雨を降らせた事によって人々が私たちを聖女と言ったように、私の中の聖女はあなたです」

 マリーは思い出した。

 リシャールが10年前に火事の中、マリーの命を救ってくれた事。
 王都で幾度もマリーに勇気ある言葉をかけてくれた事。
 任務中にゾンビから助けてくれた事。
 その奇跡や感謝した回数は数え切れない。

 マリーの言葉を聞いたリシャールは穏やかに微笑んだ。そして誰にも聞き取れない声で呟いた。

「いや、君が聖女だよ」
「え? 何か言いました?」

 リシャールは笑って、上衣をかけたマリーの肩に手を置き、歩を促した。

「きみに風邪をひかれては困る。部屋に入ろう」


********


 その夜は首都の宿でリシャールとマリーはこんな話もした。

「前世信じますか?」
「死んだら終わりだ。なんで、いきなりそんな話をする?」

 マリーは最近流行っている前世を思い出して生まれ変わってやり直す話の本を見せた。

「最近流行っている本です」

 リシャールは少し眉根を寄せて、その本を受け取りペラペラとページを捲った。

「前世のやり直しをして愛する人と結ばれるストーリーです。すごく感動するんですよ」
「興味ないな」

 リシャールは素っ気なく言って、マリーに本を返した。
 そして、寝台に体を倒した。

 マリーもその横に寝転がったら、リシャールが身体を引き寄せてきた。

(どうしてリシャール様は、ユートゥルナの記憶があるのに興味がないのだろう)

 マリーはリシャールに前世の記憶があるのに変だと思った。マリーがそんな事を考えていると、リシャールがため息をついて、気怠い声で言った。

「前世なんて、違う人間だ」
「え?」
「後悔してもやり直しなんて効かない。同じ人には出会えないし、時代も違えば人の考え方も違う。それはもう違う人間だ」

 リシャールはマリーの顔にかかる髪をすくって、耳にかけ、頬を手で包んだ。
 リシャールの顔が近づき、マリーの顔に熱が集まる。
 額に息がかかった。

「だから、今君を離せない」

 そう言ってリシャールは今日もマリーを抱き寄せるのだ。

 その旅で、リシャールは初めて絵のモデルになってくれた。
 でも絵は所詮、絵だ。
 本物である本人には到底かなわない。だから、まだ彼の絵は完成していない。

 マリーは王都に帰るまでに各地の絵を描いた。
 移民のテント、国境の城壁、都市の街並み、美しい緑が広がる森、各地に湧き出る泉、貧困層の集まる集落。
 そして、それを王都に持ち帰った。

 薔薇が香る季節に、2人の話は紙面を飾っていた。
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