私は修道女なので結婚できません。私の事は忘れて下さい、お願いします。〜冷酷非情王子は修道女を好きらしいので、どこまでも追いかけて来ます〜

舞花

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生涯、彼は初恋の修道女を忘れる事ができない

1/2①

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 そうだ。
 マリーはリシャールに『王妃になることは前々から何度も無理』だと言っているのだ。

 エマの事を置いておいても、マリーが王妃の器ではない事は明確で、やはりリシャールと結婚は出来ない。
 しかし。

「きみが王妃の仕事に不安があると言うのなら、1/2王妃で手を打たないか?」
「1/2王妃って何ですかそれ……?」

 マリーは初めて聞くふざけた単語に驚いて聞き返した。

「一人分の王妃の仕事を2分割にするという話だ」

 1/2、つまり王妃の役割を半分にして、軽くするというリシャールなりの最大限の代案だろう。
 それは代々王政であるローズライン王国の歴史上、聞いた事が無い内容であり、マリーは奇異に思った。

 だってそうだろう。

 ローズライン王国の歴史を紐解けば、泉の神のユートゥルナだけではなく、歴代の王を支えた賢妃の存在があった。
 妃たちは、王政において王不在時は代理を務めてきた共政者なのだ。

 歴史の勉強が得意ではなかったマリーでもそれくらいは知っている。

 その王妃の役割を分割なんて、権利が分離する話であり、政治をよりややこしくすることは目に見えていた。

 それは後宮もしかり。
 一人の男を二人の女で支える。
 それは争いや悲しみの元であり、マリーのは賛同できない内容だ。

 リシャールはとりあえず話をする為にマリーを抱きかかえて、ベットに座らせ、自らも隣に腰かけた。

(これってやっぱり後宮へのお誘い……?)

 リシャールはマリーの不安を他所に、話を続けた。

「きみが心配するほど、王妃は重要な役割ではない。きみも私の父に会ったから我が国の現状について知っていると思うが……」

 リシャールの父である国王陛下は現在平民街に隠居中。

 政治はリシャールやテオフィル、王弟であるリシャールの叔父に任せている状態である。

「現国王が不在が多くて、あのようにふらふらだからな。あいつの代で、我が国の王政が大幅に崩れた」
「と言いますと……?」
「だから、近頃は王族や貴族、平民で開かれる議会を中心に政治は回っている。もちろん、最終決定を下す王族の役割は大きいが、先代よりも政治的な負担は低くなってきているんだ。王妃の役割、つまり他国との交流などは以前より象徴的になってきている」

 象徴。それはマリーが思っている王族とかけ離れた存在だ。
 だが、ローズライン王国は長年王政だったはず。
 だから、王族の役割は王妃も例外ではなく、とても重要だとマリーは思ってた。
 リシャールは淡々と語る。

「以前の王妃の役割はサロンを開き、政治的な交流が出来る重要な場を貴族に提供する存在だったのだから、王妃の存在は大きかった。国王主体の政治では、時に代理を務める王妃は発言力もあったしな。歴史がそう語っているように。だから、近年までは政治的な内容も含む『王妃教育』が必要だったが、最近は政治のすべてを議会で決める。よって、今は直接政治にかかわらない王妃にさほど重要な役割はないんだ」
「そうなのですか……?」

 マリーの想像していた王妃とまるで違う。
 リシャールは嘘をつかないからそれが事実なのだろう。

「最低限のマナーさえできれば庶民でも構わない。私の母も庶民だしな。しかも母は、病弱でサロンどころか殆ど社交会すら出てなかったが国は回っている」
「え、じゃあ、1/2王妃と言うのは……」

 マリーは不安になる。
 やはり側室を娶るもしくはマリーに側室になれということなのか。

 それは嫌だった。
 できることなら、大好きな人の一番になりたい。
 リシャールを誰かほかの女性と共有するなんてそんな辛い思いをしたくない。

 それならば、この恋を綺麗に終わらせたい、と。
 しかし、リシャールから出たのは驚くべき言葉だった。

「王妃の仕事をサラ姫と分割する」
「サラ様と……?」

 サラはリシャールの弟テオフィルの妻、隣国シモン帝国の皇女だ。
 そういえば、近頃サラからまるで業務日誌の様な手紙が毎日届いていたことを思い出した。

(何故サラ様は仕事内容を書いた手紙を送ってくるのかと不思議に思っていたけど、それは私に情報共有だったのね)

 サラは国王夫妻不在の中、少しづつではあるが『王妃がやるべき仕事』をしていた。
 現在のところ、女性王族がおらず、王族で妃であるのはサラだけだからだ。

「サラ姫を捨てるな。泣くぞ。彼女は知っての通り社交性はかなり低いんだ。本を読んだり、まぁ書いたり、出来る事なら一生外出したく無い部類の人間だろう?」
「あ……」

 マリーは友人でもあるサラを思い浮かべた。

 サラは悪い人ではなく心根がいい人物ではあるが、極度の対人恐怖症。
 マリーの手助けにより最近はサロンにやっと参加する様になった人物だ。
 そんな彼女は知識は専門家レベルに高く、化学歴史風俗建築など恐ろしく精通した探求心のある姫でもある。

 どちらかというと、王妃よりも専門家、もしくは起業した方がいい女性だ(官能小説家としては成功し、近頃はインク事業で大儲け)。

「サラ姫は、まぁ……最近は社交界で挨拶をこなせるぐらいになったし、以前に比べれば随分マシになったが……見ている限り、かなり危うい時がある。講演会や公務先での初対面では、今でも緊張し過ぎてロザリオ握りしめてガチガチだ。大丈夫か、と見ている方が心配になるくらい完璧な挙動不審だ。それにあいつは、時に気をつけてないと、やらかす。この前もサラ姫は、変な格好で歩いていたからな」
「変な格好……?」
「白いひげを生やして、赤い服に、大きな袋を持って街中を歩いていた。サラ姫は仮装すると……緊張しないと言っていたな」

 マリーは言葉が出ない。
 サラは悪気はないし、基本いい人なのだが、時々軽率なのだ。

「私は急いで本人を捕まえて聞いたところ、『商売で儲けたから、街の子供たちにサンタクロースの真似事をしてプレゼントを配っている』との事だった。ジャンが珍しく困った顔して護衛していたな。彼女は……心意気はいいんだが、なんというか不安要素がある」
「サラ様……サンタクロースになりたかったのね。まだ、夏なのに……」
「直々に配りたかった気持ちも分かるが、立場上郵送の方がいい」
「ごもっともだと……思います」
「テオは『僕もサンタしようかな~夏だけど(笑)』と面白がっていたが、私は笑えなかったよ。また攫われるかもしれないしな。あの調子だとあと3回は攫われるな」
「そ、そうですね……」

 サラは美しい外見の為、よく盲目な変態さんに好かれやすい。
 マリーもそれはよく知っていた。

「まぁ、彼女は賢いところもあるんだが……。それに比べ、きみは知識はないが社交性が高い。妙に悟りも開いているし、サラ姫を見守れる。しかも、人の話がしっかり訊けるし、人当たりも好感度も高い。いい組み合わせだ。王妃の仕事が以前より無くなったと言っても、式典の準備や謁見、公式訪問、サロンなどの仕事はやるに越したことはないからな」
「その王妃の仕事を分割するから……1/2王妃なんですね」
「そうだ」

 一人では出来ないから分割といったところか。
 それなら優秀な妃を一人配置した方がいい気もする。

「それなら、私よりももっと適任の令嬢がいるのでは……?」
「私はきみ以外と結婚しない。他の女の、子どもはいらない。夢はきみと子どもを作ることだから」
「こ、こど……!」

 マリーは赤面する。

「それに私は王になるとは言っていない。テオだっているし、私がなりたくても現状的には難しい。王族は子どもが出来にくいし、王なんて早く決めすぎたらまた跡取り問題が出る」
「でも、テオ様は……」

 リシャールだけが王の血を引いているのだ。
 継承権はリシャールにある。
 リシャールがいるのに、テオフィルが国王になるなんて血筋的には許さない話だ。

「テオの事実は今の科学では誰にも証明できないから、話さなければ済む事だ」

 リシャールは一生秘密にするようだった。  
 真実を闇に葬る。彼はすると言ったらするだろう。

「跡取り問題は、将来子どもが成長してから王でもなんでも決めればいい。今、私とテオでもう分業制で国は上手くいっている」
「分業制……」

 そういえば、教育経済はリシャール、外交や貿易等表向き公務はテオフィルに分けているらしい。

「だいたい私がきみを簡単に諦め切れるわけがない。随分前も修道院に通ったくらいだ。まぁあの頃は所在がつかめなかったから会えなかったが、今や私は買収かなりの報酬を払って修道院を完璧に把握もしているし、フレッドという内通者もいる」
「フレッド……!」
「あいつは案外悪い奴じゃなかったみたいだ。快く、いろいろ教えてくれたよ。今日のミサの時間とか」

 通りでリシャールがミサの時間や部屋の位置等、修道院についてやけに詳しいわけだ。

 マリーは思わず、唖然とする。
 フレッドもグルだったのか、と。

 そういやフレッドは王都に居るとき、しきりに「マリーの本当の執事にしてほしいなぁ」と言っていたっけ。  

 もともとフレッドはリシャールが墓から生き返らせた人物だから、やはり最後はリシャールの味方だったらしい。

「私はきみが好きだ。諦められないくらいに」
「リシャール様……」
「きみは、私の顔だけ好いているだろうが……いや身体だったかな。この際、姿形だけ好かれているだけでもいいんだ、私は」

 リシャールが額を抑えて、はぁ、っと深いため息をついた。
 マリーは心外だ、と言わんばかりに、声を張り上げた。

「違います! はじめはリシャール様が美し過ぎて絵のモデルになって欲しかったのが正直な気持ちでしたが、もう……絵なんてどうでもいいのです! 私はリシャール様もエマも大好きです!」

 リシャールは驚いたように、一瞬止まった。
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