私は修道女なので結婚できません。私の事は忘れて下さい、お願いします。〜冷酷非情王子は修道女を好きらしいので、どこまでも追いかけて来ます〜

舞花

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生涯、彼は初恋の修道女を忘れる事ができない

冷酷非情王子は修道女をどこまでも追いかける②

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(なんだろう。これってもしかして修羅場的なものかしら……?)

 マリーは、これではまるで彼らはマリーを取り合いしているようだと思いながらも、神様と王子様がまさか落ちこぼれかつ地味な修道女を好きなんて話はあるわけないと、自身に言い聞かせた。
 
 リシャールはまだ続けた。やけに丁寧な、普段は不遜な彼には似合わない敬語で。

「しかもですね、私の弟であるテオフィルも来月、サラとともに面会の申請をしたそうです。速攻で受理されたらしいです。何故ですか?」
「それは……」
「同じ王族なのに、私は無理で、弟夫婦は良くて、これは何の違いでしょうか?」
「え、えっとだって君は……」
「確かに私は修道院には長らく対立的な立場を取ってきましたが、それにしても手紙が1通すら彼女に届かないので、不審に思い、今日はこちらを訪問させていただきました」
「……気が早いね。たった数通手紙が届かなかったくらいで」
「最低毎日3通は送ったんですけどね。朝昼晩。おかしいですね」
「……内容に不備があったのではないのかな? そういう場合は、受理しない場合もある」

 ユートゥルナが負けじと言い返した。
 リシャールは首を傾げる。

「特にこれと言って普通の内容でしたが、届きませんでした」
「普通の内容?」
「ええ、義妹の手紙の様な政務に関わらない、ラブレターですよ」
「君が、ラブレター……そんなものを書く様には見えないけど……」
「いえ、ちゃんと書きましたよ。毎日彼女を思うと眠れないくらい愛していたとか、姿形も仕草も性格も全部好きだったとか、あの夜のようにもう一度余すことなく愛したいとか」
「そんな話は言わなくていいよ!」

 ユートゥルナは声を荒げた。

 近くにいたフレッドがくすくす笑っていたのが聞こえたが、辺りの人間は「これ何かの修羅場?」と感づいた者もいたようで、じーっとそのやり取りを眺めていた。

 いつの間にかさっきまで白目を剥いていた修道士も目を覚ましているようで、こちらをおかしな顔で見ていた。

 リシャールはやけに今日は饒舌に、にこやかに話した。
 彼の話はまだ終わらなかった。

「それに……ああ、今日もまた不思議な事が起こりました。身分証も提示したのに、修道院の門すら通れず……見張りに門前払いされてしまいましてね。一国の王子なのに嫌われたものです。ですので、少し手荒い事をしてしまいましたが、修道士の皆さんは死んではいないので安心してください。貴方の魔法ですぐに動けるようになると思いますよ。私が言いたいのは――」

 ユートゥルナが低い声で言った。

「ここには君に関係のあるものは1つもないよ。ここには、修道士しかいないし、君の探している人なんていない。居たとしても、それは君の幻だ。君の探している婚約者というものは作られた人物だからそもそも存在しない」

 婚約者は存在しない。
 その言葉にマリーの期待が一気に崩れ落ちた。

 それは紛れもない真実だ。
 ローゼは、ユートゥルナの魔法で出来た『作り物』なのだから。
 だから、もう期待してどきどきする必要なんてない。
 
 マリーは涙をこらえて、歯を食いしばった。

(なんで期待なんかしているの。バカみたい。全部、ユートゥルナ様の言う通りだわ)

 ローゼはいない。
 王子様は身分の釣り合った人間と結婚すべき。

 それは正論だ。
 それにどうせリシャールはマリーを見つけられないから。
 見つけたとしても、結婚はできないから。
 
 リシャールの愛した侯爵令嬢ローゼはいないのだ。

「君はいい加減、その執着を捨ててそれ相当の身分の令嬢と婚姻を結ぶべきだよ。君がいくら探したって、君の婚約者はここにはいない。いや、もしかしたら僕が任務を命じた『婚約者役』の人間はいるかもしれないけど――もしこの数千もの修道女の中に居たとして、見つけてどうするの?」
「……」
「君も王家と修道院の戦争なんてしたくないだろう? 見張り役は配慮が足りなかったからこちらの非もあるし、命に別状がないのなら今回は多めに見るから、今回はお引き取り願えないかな?」

 ユートゥルナは早く帰れと言わんばかりに扉の方を差し、開けるように指示をした。

「そうか。じゃあ、帰る前にそこを退いてくれないか?」

 リシャールがぐいっとユートゥルナの肩を掴んで、押しのけた。
 ユートゥルナがふらついて、脇に逸れ、膝をついた。

「何するんだ、君は何をしたかわかっているのか? 一国の王子がその無礼はーー」
「ローゼが泣いているんだ。そんな事も分からないのか。お前は彼女の上司だろう?」
「は……?」
「ローゼはローゼなのに、見かけが変わったぐらいで別人だと決めつけるな。彼女を傷つけて楽しいのか?」

 その時初めてユートゥルナは肩を振るわせているマリーを一瞥した。

「マリー……?」

 マリーは俯いていた。

 リシャールは実に嫌そうな顔で言い捨てた。

「ああ、もうダメだなここは。早くローゼを連れて帰らなくてはならないな」
「ローゼ……? だから、そんな人間は。彼女は修道女で、任務のために王都に派遣しただけで……」

 先程からの穏やかな表情が一変し、リシャールがユートゥルナを睨みつけた。

「もうお前に聞いていない。私の大切なマリーローゼリーに聞いているんだ」
「なんで君はマリーの名前を知っているんだ……?」

 
 リシャールは躊躇なくマリーのフードをとった。
 顔が露わになる。
 
 リシャールは嬉しそうに、口角を上げた。
 マリーは目に涙を溜めて、震える声で言った。

「だ、誰のことでしょう? ……リシャール殿下」
「ああ、私が君を間違えることはない」

 リシャールはマリーの手を取り、少し屈んで優しくキスをした。
 予想もしない事態に、当たりが一段とざわついた。

「私はローゼの爪の形も全て覚えているから隠したって無駄だ」

 リシャールの声は囁く様に甘く掠れ、マリーを動揺させた。

「少し痩せたな。あの日、別れてからずっと……ローゼの事が心配だったんだ」
「あ、あの……」
「そんな顔しなくていい。心を痛める必要なんてない。……きみは何も悪くない」
「でも、私はあなたに……!」

 マリーはリシャールの気持ちも考えずに、自分の不甲斐なさのために、一方的に別れを告げ、王都から出て行った。
 身に余る求婚を押し除けて。

 マリーは涙で言葉が出てこなかった。

 目の前にいるリシャールの青い瞳には泣きべそをかいたマリーが映り込んでいた。

「きみは、人が良くて、そそっかしくて、可哀想なくらい人に気を使うから。自分を責めていたんだろう? 私は……そんなきみがどう過ごしているかばかり考えていたよ」
「リシャール様っ……!」

 リシャールは優しく言った。

「さぁ、早く……私と一緒に帰ろう?」
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