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生涯、彼は初恋の修道女を忘れる事ができない
貴方と私の境が無い夜①
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リシャールどこか面白そうにマリーの顔を覗き込んだ。
そして何故かマリーたちの側に佇む青ちゃんはどきどくわくわくしているように目を輝かせていた。
実は、青ちゃんは先程からふたりの様子を見ていたのだ。
「青ちゃんの前でこんなことやめてください……!」
マリーは赤くなった。
青ちゃんの目の前で気持ち良くキスをしていた自分を恥じる。ママ失格だと。
しかしながら、リシャールはしれっとしていた。
「貴様が心配するような純情な虫ではないが……」
「殿下!」
「だってほら……見ろ。青の期待で胸が躍るような、もっとやれて的なキラキラした目を」
「青ちゃん!」
マリーが青ちゃんを睨むと青ちゃんはびくっとなって蝶になって飛んで行ってしまった。
「虫にくらい見せてやればよかったのに」
リシャールが名残り惜しそうに呟いた。
「殿下!」
「貴様だって初めからそのつもりだろう? そういうつもりの訪問では?」
「それは……」
まるで心を見透かされているようだ。
自分から夕暮れ時に彼の部屋を訪ねるという大胆な行動。
その意味をリシャールが気づかないわけがない。
お別れを言いに来たのもあるが、そちらの期待も少なからずあったのも事実だ。
「もしかしたら図星とか?」
リシャールは黙り込むマリーに、嬉しそうに微笑んだ。
このままではまずい。マリーは経験からそう悟った。
いつものようにリシャールのペースに流されてしまい、いろいろはぐらかされる。
それでは今までとかわりないのだ。
(今日はしっかりしなきゃ……!)
今日はお別れを言いに来たのだから、リシャールの好き勝手にされてはたまらない。
せめてしっかり言葉くらいは伝えてお別れをしたいものだ。
だからマリーは、いつになくリシャールにはっきり言い放った。
「殿下はそんな事はしません」
「……ふぅん? どこからその自信が来るのやら。この前だって好きにされたくせに」
この前とは平民街の家の事だ。
確かにそうかもしれないが、まだ一線は越えてないし、2人は恋人でもない。修道女と王子だ。
今までもそうだが、『婚約者』の真似事や『夫婦』の真似事ばかりなのだ。
だから二人の関係はいつまでも変わりはしない。
「でも、殿下は無理にはしないですよね。いつも逃がしてくれますよね」
「……」
「殿下以外なら私はもうとっくの昔に騙されてむちゃくちゃにされていたと思います。何も知りませんでしたから」
「……それは、一理あるな」
「でしょう?」
2人の間に謎の沈黙があった。
リシャールは先ほどとは変わって少し呆れた顔でマリーを見て、手招きした。
「まぁ、いい。こんなところで立ち話もなんだろう。中に入れ」
「お邪魔します」
リシャールに促されてマリーは部屋の中に入った。
「何か飲むか」
「水をお願いします」
リシャールはマリーにソファーに座るように言い、グラスに水を入れてくれた。
リシャールは王子という立場でありながら、こういうことは率先してしてくれる、マリーがお腹が減ったら果物を剥いてくれるし、好きな茶葉を買ってくれたり、何かと親切なのだ。
マリーはリシャールのこういうところが好きだった。
マリーは机に置かれたグラスを取ろうとすると、いきなりリシャールに両腋を掴まれて彼の膝上に座らせられた。
「殿下……降ろして」
「ダメだ。貴様の特等席だろう? 忘れたのか」
忘れるはずがない。
2人で過ごした昼下がりの執務室ではよくこの体勢で首に赤い痕をつけられたものだ。
向かい合う様に抱きしめられて、顔をうずめてきたリシャールの髪を触っていた事を。
「もう全部痕も消えたなぁ……」
リシャールは首元の痕を確認して、残念そうにそこを指でなぞった。マリーは触られただけなのに、身体が跳ねた。
「で、殿下……」
「ああ、悪い。水だったな」
そう言ってリシャールはマリーのグラスを手にとり、水を飲んだ。
そしてマリーに口づけた。
「ん……」
「ほら、どうした。たくさん飲め。貴様はひどく熱いから、喉がからからだろう……飲ませてやるから、口を開けろ」
「んぐ……」
口を開けろじゃない。そんな問題ではない。
今日は一段とリシャールの調子がおかしいとマリーは思った。
絶賛深夜モードだ。夕方なのに。
このままでは話し合いなどできやしない。せめて話を聞いて欲しい。もう、その後はどうなってもいいから。
「こういうのは、困ります……!」
「そういうなら昼間に訪ねてこい」
「う……」
それもそうだ、とマリーは思ってしまう。
ある程度の身分がある成人の男女が私室に訪問するだけでも問題なのだ。
(だって午前中はジャン先輩、昼からはサラ様達にお別れ言っていたのだから仕方ないじゃない!)
リシャールを後回しにした結果でもあった。
一番お別れを言い出しにくいので、順番が遅くなったのもあるが。本人には口が裂けても言えない。
マリーがそんなことを考えているうちに彼女はいとも簡単にソファーに押し倒された。
ちなみに押し倒されるという体勢だけならもう何回押し倒されたか分からない。
リシャールが真剣な顔をしていう。
「もしかして貴様……好きなやつがいるのか?」
「いません」
マリーにそのような人物はいたことがない。
リシャールだけがマリーの恋の相手で、今後も多分彼だけを思い生きていくのだろうと感じているくらいだ。
「いないのなら、いいって事か?」
「……!」
「貴様は考えないのか。ほんとうに気づかないのか……? 私は貴様のことが頭がおかしいくらい好きなんだぞ? 私が貴様とこの時間帯にいろいろしたいことがあるって想像したことがないのか? いや、私の事をどこまでなめているんだ……?」
「えっと、なんか、ごめんなさい」
熱に浮かされた様なリシャールに何故かマリーは謝った。
そして何故かマリーたちの側に佇む青ちゃんはどきどくわくわくしているように目を輝かせていた。
実は、青ちゃんは先程からふたりの様子を見ていたのだ。
「青ちゃんの前でこんなことやめてください……!」
マリーは赤くなった。
青ちゃんの目の前で気持ち良くキスをしていた自分を恥じる。ママ失格だと。
しかしながら、リシャールはしれっとしていた。
「貴様が心配するような純情な虫ではないが……」
「殿下!」
「だってほら……見ろ。青の期待で胸が躍るような、もっとやれて的なキラキラした目を」
「青ちゃん!」
マリーが青ちゃんを睨むと青ちゃんはびくっとなって蝶になって飛んで行ってしまった。
「虫にくらい見せてやればよかったのに」
リシャールが名残り惜しそうに呟いた。
「殿下!」
「貴様だって初めからそのつもりだろう? そういうつもりの訪問では?」
「それは……」
まるで心を見透かされているようだ。
自分から夕暮れ時に彼の部屋を訪ねるという大胆な行動。
その意味をリシャールが気づかないわけがない。
お別れを言いに来たのもあるが、そちらの期待も少なからずあったのも事実だ。
「もしかしたら図星とか?」
リシャールは黙り込むマリーに、嬉しそうに微笑んだ。
このままではまずい。マリーは経験からそう悟った。
いつものようにリシャールのペースに流されてしまい、いろいろはぐらかされる。
それでは今までとかわりないのだ。
(今日はしっかりしなきゃ……!)
今日はお別れを言いに来たのだから、リシャールの好き勝手にされてはたまらない。
せめてしっかり言葉くらいは伝えてお別れをしたいものだ。
だからマリーは、いつになくリシャールにはっきり言い放った。
「殿下はそんな事はしません」
「……ふぅん? どこからその自信が来るのやら。この前だって好きにされたくせに」
この前とは平民街の家の事だ。
確かにそうかもしれないが、まだ一線は越えてないし、2人は恋人でもない。修道女と王子だ。
今までもそうだが、『婚約者』の真似事や『夫婦』の真似事ばかりなのだ。
だから二人の関係はいつまでも変わりはしない。
「でも、殿下は無理にはしないですよね。いつも逃がしてくれますよね」
「……」
「殿下以外なら私はもうとっくの昔に騙されてむちゃくちゃにされていたと思います。何も知りませんでしたから」
「……それは、一理あるな」
「でしょう?」
2人の間に謎の沈黙があった。
リシャールは先ほどとは変わって少し呆れた顔でマリーを見て、手招きした。
「まぁ、いい。こんなところで立ち話もなんだろう。中に入れ」
「お邪魔します」
リシャールに促されてマリーは部屋の中に入った。
「何か飲むか」
「水をお願いします」
リシャールはマリーにソファーに座るように言い、グラスに水を入れてくれた。
リシャールは王子という立場でありながら、こういうことは率先してしてくれる、マリーがお腹が減ったら果物を剥いてくれるし、好きな茶葉を買ってくれたり、何かと親切なのだ。
マリーはリシャールのこういうところが好きだった。
マリーは机に置かれたグラスを取ろうとすると、いきなりリシャールに両腋を掴まれて彼の膝上に座らせられた。
「殿下……降ろして」
「ダメだ。貴様の特等席だろう? 忘れたのか」
忘れるはずがない。
2人で過ごした昼下がりの執務室ではよくこの体勢で首に赤い痕をつけられたものだ。
向かい合う様に抱きしめられて、顔をうずめてきたリシャールの髪を触っていた事を。
「もう全部痕も消えたなぁ……」
リシャールは首元の痕を確認して、残念そうにそこを指でなぞった。マリーは触られただけなのに、身体が跳ねた。
「で、殿下……」
「ああ、悪い。水だったな」
そう言ってリシャールはマリーのグラスを手にとり、水を飲んだ。
そしてマリーに口づけた。
「ん……」
「ほら、どうした。たくさん飲め。貴様はひどく熱いから、喉がからからだろう……飲ませてやるから、口を開けろ」
「んぐ……」
口を開けろじゃない。そんな問題ではない。
今日は一段とリシャールの調子がおかしいとマリーは思った。
絶賛深夜モードだ。夕方なのに。
このままでは話し合いなどできやしない。せめて話を聞いて欲しい。もう、その後はどうなってもいいから。
「こういうのは、困ります……!」
「そういうなら昼間に訪ねてこい」
「う……」
それもそうだ、とマリーは思ってしまう。
ある程度の身分がある成人の男女が私室に訪問するだけでも問題なのだ。
(だって午前中はジャン先輩、昼からはサラ様達にお別れ言っていたのだから仕方ないじゃない!)
リシャールを後回しにした結果でもあった。
一番お別れを言い出しにくいので、順番が遅くなったのもあるが。本人には口が裂けても言えない。
マリーがそんなことを考えているうちに彼女はいとも簡単にソファーに押し倒された。
ちなみに押し倒されるという体勢だけならもう何回押し倒されたか分からない。
リシャールが真剣な顔をしていう。
「もしかして貴様……好きなやつがいるのか?」
「いません」
マリーにそのような人物はいたことがない。
リシャールだけがマリーの恋の相手で、今後も多分彼だけを思い生きていくのだろうと感じているくらいだ。
「いないのなら、いいって事か?」
「……!」
「貴様は考えないのか。ほんとうに気づかないのか……? 私は貴様のことが頭がおかしいくらい好きなんだぞ? 私が貴様とこの時間帯にいろいろしたいことがあるって想像したことがないのか? いや、私の事をどこまでなめているんだ……?」
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