私は修道女なので結婚できません。私の事は忘れて下さい、お願いします。〜冷酷非情王子は修道女を好きらしいので、どこまでも追いかけて来ます〜

舞花

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生涯、彼は初恋の修道女を忘れる事ができない

愛しい人の部屋を訪ねたところ青鳳蝶に出会う

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 今日でリシャールに会うのが最後だと思うと、マリーは胸が引き裂かれそうなくらい痛かった。

 お別れを言う行為は残酷で、リシャールがどう思うか堪らなく怖いけど、今ここで逃げたら一生悔いることになる。
だから、今からマリーが彼の部屋を訪ねて、もし『何か』あっても後悔はなかった。

 マリーはこの恋を忘れられない自信があった。
 それならば、今夜何があってもいいと思った。
 今日は、この身にどんな傷でも刻まれたら嬉しいくらいの大切な恋の終わりだ。
 だから、今夜だけは。

 ただ、時間は限られていると自分を言い聞かせて、マリーは回廊を歩いた。

 回廊の途中でマリーは青ちゃんにばったり会った。
 青ちゃんはマリーの顔を見て何かを察したのか、リシャールなら部屋にいるかもしれないと言った。
 マリーは青ちゃんとともに離宮の一番奥の部屋に行き、ドアを叩いた。そこがリシャールの自室だった。

 しばらく経っても返事がないので、青ちゃんは持っていた鍵で施錠を解いた。

「青ちゃん……殿下の部屋の鍵なんて持っていたの……!」
「はい。パパにもらいました。蝶の姿では窓から入れますがいつも開いているとは限りませんので」
「そ、そうなんだ……」

 青ちゃんは首から鍵をぶら下げていた。
 まさかのかぎっ子か。
 そこまでリシャールが青ちゃんをわが子の様な扱いをしていたことにマリーは驚愕した。

 そんなことを知らない青ちゃんは淡々と慣れたように部屋に入った。
 マリーはさすがにリシャールに無断で部屋の中に入るのは躊躇われたため、リシャールの所在確認を青ちゃんにお願いした。

「パパが居るか確認してきますね」
「……お願いします」

 暫くして青ちゃんは嬉しそうに戻ってきた。

「パパは今お風呂に入ってました。すぐ上がるとの事です」
「あ、お風呂なんだ。そっか、じゃあ急かしたら悪いし出直そうかな」
 
 リシャールがお風呂にいると聞いてマリーはどきどきした。
 思い出すのは平民街で一夜を過ごした時のリシャールの姿だ。
 無駄のない筋肉が動くたびに収縮して男らしい腕、想像していたよりがっしりとした身体、そして――。

(何考えているの。バカみたい。なんで思い出すのよ)

 マリーが恥ずかしくなって踵を返そうとした。しかし、青ちゃんに裾を掴まれる。

「待っていてとパパは言ってましたよ。なぜ逃げようとするのです?」
「で、でも、お邪魔かなって。殿下もゆっくりお風呂に入りたいかなって……」
「だったら一緒に入ります? パパも喜ぶと思います。以前はシャワーのみで狭かったのですが、今は湯船も付けてお風呂を全面改築して広いですよ。2人入ってもゆっくりできます」
「青ちゃん……!」
「水いらずという言葉もありますし。服なんてない方が、もっと仲良くできると思いますよ」
「な……!」

 この子はどこでこんなことを覚えてきたのだろう。というか、リシャールはどういうつもりで浴室まで改築しているのだろうか。
 訳が分からない。
 大がかりな工事だったとは聞いていたが、何をするつもりなんだ。
 何を考えているんだあの人は。
 マリーは動揺した。

 やっぱりこの部屋は危険だと感じたその時、リシャールがゆっくりと扉を開けた。

「ローゼどうした? こんな時間に……」

 リシャールの髪が濡れていた。
 シャワーを浴びたばかりなのだろう。
 水滴が髪から流れ落ちて色っぽい。
 リシャールはマリーが来たことに僅かに驚いた顔をしていた。

「あ……殿下。お風呂中、お邪魔しました」
「いや、別に構わないが」
「2日ぶりですね。こんにちは。最近なかなか会えなかったので会いに来ました」
「ローゼ。まだ2日しか経ってないが? まぁいい。……貴様が来るなんて予想外の事態だな」

 レオナルドの事件から何だかんだでリシャールは忙しく、マリーの寝泊まりする平民街の家に来なかった。
 その2日がマリーには気が遠くなるほど長かったのは確かである。リシャールにつっこまれて、マリーははっとする。

「あ、まだ2日……」
「そんなに寂しかったのか」
「いえ、違……今日はその」
「何か用か?」

 マリーは意を決して言った。

「明日修道院に帰ります。だから、お返事をしに来ました」
「……それで?」
「あなたの妃にはなれません。私の力量ではやはり無理です。ごめんなさい!」

 リシャールは扉を背に腕を組み、ため息をついた。

「……わざわざ私を虐めにきたのか? そんな事を言う為に?」
「違います……! 私は殿下に」

 お礼が言いたいと言いかけたところでマリーの口に彼の唇を押し当てられた。

「ん」

 マリーが欲しくて堪らないとでも言う様な飢えたキスだった。口の中にリシャールの味が混ざる。

 マリーはいつになく口づけを素直に受け入れてしまった。

 唇が離れたところで、リシャールはかすれた声で囁いた。

「じゃあなんだ。こんな時間に私の部屋をのこのこ訪ねて来て何をしたいんだ?」
「私は……」
「まさか……めちゃくちゃにされたいとか?」

 マリーは悩ましげに視線を逸らしたので、リシャールが口角を上げて喜んだ。
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