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古教会で待っているから
修道女殿
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レオナルドの古代魔法が解けたことにより、暫くして辺りが騒がしくなり、教会は王立騎士団に囲まれた。
そしてすぐに古教会の扉は豪快に開け放たれ、先陣を切って教会の中に入ってきたのは、神官であるジャンだった。
ジャンは風を切るように長い槍を振り回していた。
「マリー! かっこよくて強くてイケメンで素晴らしい先輩である僕が来たからもう大丈夫だよ! 僕の可愛い学生時代からの後輩を攫ったという犯人はお前か……! あ、あれ……?」
ジャンは、無抵抗のレオナルドを見て驚いていた。
「あ、ジャン先輩……!」
「マリー、これはどう言う事?」
ジャンは地べたに臥せて泣くレオナルドに槍を向けることなく、マリーに問いかけた。
状況が読めない彼は狼狽えていた。
「ジャン先輩、実はーー」
「もう終わったんだ」
マリーが説明する前にリシャールは言い切った。もう語る事はない、と言いたげに。
ジャンは首を傾げて納得いかないようだったが、古代魔法が解け辺りに転がる死体を見て理解したようだ。
「ふぅん。そう。終わったのか。女の子を狙った血抜き殺人なんて物騒な事件だと思っていたけど、それにしても……イメージしていた犯人とやけに違うね」
そう言ってジャンは兵にレオナルドを拘束させ、魔本を回収した。
ジャンは魔本を確認して、嫌そうな顔した。
「ああ、この魔本。随分古いなぁ。こりゃ、封印が解かれるわ」
ジャンは回収した魔本を見て呆れていた。
「しばらく、仕事が増えそうだな。事件は解決したようだし、僕は引き上げさせてもらうよ。神官として、この男に聞かなきゃいけないことがたくさんあるしね」
そして、ジャンと兵がレオナルド連れて行こうとした時、リシャールは傍に落ちていた手紙と日記をレオナルドに無言で渡した。
「……」
「これは、お前のものだ。持っていけ」
レオナルドは、それを受け取り俯きながら出て行った。
リシャールはしばらくずっとレオナルドが連れて行かれた方をずっと眺めていた。
マリーがリシャールに声をかけようとすると、近衛を連れたテオフィルがやってきた。
「事件は解決したみたいだね」
「ああ」
「それにしても兄さん。単独行動はやめてくれないかな? レイさんが連絡してくれたからよかったものの」
どうやらレイがマリーの連絡をリシャールやテオフィルにしたらしい。
テオフィルはそっけない態度のリシャールを見て、ため息をついた。やれやれ、と言った感じに。
「無事でよかったよ。兄さん。あとは僕が片付けるから」
「いつも悪いな、テオ」
「兄さん、何でも一人で抱え込まないでよね。たまには頼ってほしいなぁ。僕も子供じゃ無いんだからさ。兄弟、いや王族は助け合わないとね」
マリーにもテオフィルは笑いかけた。
「ローゼちゃんもお疲れさま。怪我はない?」
「はい、大丈夫です」
「何も無くて安心したよ。今回の事件は解決だね」
場を和ませるようなテオフィルの明るい声が教会に響いた。
レオナルドが去った後、辺りは死体の片付けや現場調査に取り掛かっていた。
テオフィルが手際良く指示を出し、兵が危険物がないか確認して行く。
そんな中、リシャールは静かに立ち尽くし、アリアの絵を眺めていた。
その空間だけが世界から取り残されたように寂しげで時間が止まっている様な、風景だった。
一枚の悲しい絵画のようで、誰もリシャールに声をかけなかった。
マリーは複雑な気持ちでリシャールの側にいた。
もしリシャールが外交やその他他者と交流を持つ普通の王子だったら、代々有名な画家で王家の絵を手がけるレオナルドと遠い昔に出会っていただろう。
そして二人はアリアの話を通して良き友人になれたのかもしれない。
リシャールはいきなりマリーに気づいたように向き直り、彼女の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「なに、するんです……!」
「さっきの魔法は素晴らしかった。上出来だ」
「あれは……殿下がいつも私に言ってくれていたじゃないですか。できる能力で頭を使え、と。だから……」
「ああ、そうか。少しは私の言葉が通じていたのか。それはよかった。ずっと心配していたんだ。貴様はひどく……抜けているから」
「殿下……! それ、誉めているんですか汚しているんですか?」
「ああ、悪い。貴様はとても危なっかしいくて目が離せなくて、私がいないとダメだと思っていたから」
リシャールは冗談めいた顔をして笑った。
そして、リシャールはマリーから一歩下がり、頭を下げた。
「殿下……?」
あのリシャールがマリーに向かって礼をしている。
ありえない事態だ。
予想しない事態に、教会にいる皆がマリーたちに視線を向けた。
「ローゼ。いや、修道女マリー殿。今回はありがとう。貴女のお陰で事件は解決だ」
「何を言って……?」
それは他人行儀でもあり、修道女としては名誉な言葉だった。
リシャールはいつになく、清々しい顔で言った。
「修道院にも連絡しておこう。ご苦労だったな」
「え……?」
魔法も武力もいらない。
凶悪な連続殺人事件の終わり方にしては、呆気なかった。
若き日のアリアを描いた絵の彼女は、何も知らないように美しく微笑んでいた。
事件が終わった今、マリーはリシャールにさよならを言われたように感じた。
そしてすぐに古教会の扉は豪快に開け放たれ、先陣を切って教会の中に入ってきたのは、神官であるジャンだった。
ジャンは風を切るように長い槍を振り回していた。
「マリー! かっこよくて強くてイケメンで素晴らしい先輩である僕が来たからもう大丈夫だよ! 僕の可愛い学生時代からの後輩を攫ったという犯人はお前か……! あ、あれ……?」
ジャンは、無抵抗のレオナルドを見て驚いていた。
「あ、ジャン先輩……!」
「マリー、これはどう言う事?」
ジャンは地べたに臥せて泣くレオナルドに槍を向けることなく、マリーに問いかけた。
状況が読めない彼は狼狽えていた。
「ジャン先輩、実はーー」
「もう終わったんだ」
マリーが説明する前にリシャールは言い切った。もう語る事はない、と言いたげに。
ジャンは首を傾げて納得いかないようだったが、古代魔法が解け辺りに転がる死体を見て理解したようだ。
「ふぅん。そう。終わったのか。女の子を狙った血抜き殺人なんて物騒な事件だと思っていたけど、それにしても……イメージしていた犯人とやけに違うね」
そう言ってジャンは兵にレオナルドを拘束させ、魔本を回収した。
ジャンは魔本を確認して、嫌そうな顔した。
「ああ、この魔本。随分古いなぁ。こりゃ、封印が解かれるわ」
ジャンは回収した魔本を見て呆れていた。
「しばらく、仕事が増えそうだな。事件は解決したようだし、僕は引き上げさせてもらうよ。神官として、この男に聞かなきゃいけないことがたくさんあるしね」
そして、ジャンと兵がレオナルド連れて行こうとした時、リシャールは傍に落ちていた手紙と日記をレオナルドに無言で渡した。
「……」
「これは、お前のものだ。持っていけ」
レオナルドは、それを受け取り俯きながら出て行った。
リシャールはしばらくずっとレオナルドが連れて行かれた方をずっと眺めていた。
マリーがリシャールに声をかけようとすると、近衛を連れたテオフィルがやってきた。
「事件は解決したみたいだね」
「ああ」
「それにしても兄さん。単独行動はやめてくれないかな? レイさんが連絡してくれたからよかったものの」
どうやらレイがマリーの連絡をリシャールやテオフィルにしたらしい。
テオフィルはそっけない態度のリシャールを見て、ため息をついた。やれやれ、と言った感じに。
「無事でよかったよ。兄さん。あとは僕が片付けるから」
「いつも悪いな、テオ」
「兄さん、何でも一人で抱え込まないでよね。たまには頼ってほしいなぁ。僕も子供じゃ無いんだからさ。兄弟、いや王族は助け合わないとね」
マリーにもテオフィルは笑いかけた。
「ローゼちゃんもお疲れさま。怪我はない?」
「はい、大丈夫です」
「何も無くて安心したよ。今回の事件は解決だね」
場を和ませるようなテオフィルの明るい声が教会に響いた。
レオナルドが去った後、辺りは死体の片付けや現場調査に取り掛かっていた。
テオフィルが手際良く指示を出し、兵が危険物がないか確認して行く。
そんな中、リシャールは静かに立ち尽くし、アリアの絵を眺めていた。
その空間だけが世界から取り残されたように寂しげで時間が止まっている様な、風景だった。
一枚の悲しい絵画のようで、誰もリシャールに声をかけなかった。
マリーは複雑な気持ちでリシャールの側にいた。
もしリシャールが外交やその他他者と交流を持つ普通の王子だったら、代々有名な画家で王家の絵を手がけるレオナルドと遠い昔に出会っていただろう。
そして二人はアリアの話を通して良き友人になれたのかもしれない。
リシャールはいきなりマリーに気づいたように向き直り、彼女の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「なに、するんです……!」
「さっきの魔法は素晴らしかった。上出来だ」
「あれは……殿下がいつも私に言ってくれていたじゃないですか。できる能力で頭を使え、と。だから……」
「ああ、そうか。少しは私の言葉が通じていたのか。それはよかった。ずっと心配していたんだ。貴様はひどく……抜けているから」
「殿下……! それ、誉めているんですか汚しているんですか?」
「ああ、悪い。貴様はとても危なっかしいくて目が離せなくて、私がいないとダメだと思っていたから」
リシャールは冗談めいた顔をして笑った。
そして、リシャールはマリーから一歩下がり、頭を下げた。
「殿下……?」
あのリシャールがマリーに向かって礼をしている。
ありえない事態だ。
予想しない事態に、教会にいる皆がマリーたちに視線を向けた。
「ローゼ。いや、修道女マリー殿。今回はありがとう。貴女のお陰で事件は解決だ」
「何を言って……?」
それは他人行儀でもあり、修道女としては名誉な言葉だった。
リシャールはいつになく、清々しい顔で言った。
「修道院にも連絡しておこう。ご苦労だったな」
「え……?」
魔法も武力もいらない。
凶悪な連続殺人事件の終わり方にしては、呆気なかった。
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事件が終わった今、マリーはリシャールにさよならを言われたように感じた。
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