私は修道女なので結婚できません。私の事は忘れて下さい、お願いします。〜冷酷非情王子は修道女を好きらしいので、どこまでも追いかけて来ます〜

舞花

文字の大きさ
上 下
132 / 169
古教会で待っているから

大好きな人には会えないし、彼女は死んだと言うから①

しおりを挟む
レオナルド・タフマンは一見穏やかな紳士でありながらも元軍人のため背格好のよい人物だった。

 彼は男らしい雰囲気でありつつも、画家と言う職業のためか繊細。つまり、きめ細やかな気づきが出来るのだ。

 マリーが王都に来て、リシャールに恋をしたばかりの頃。
 もともとレオナルドは、マリーが何かとお世話になっているブラン侯爵がひいきにしている画家だ。
 だからブラン侯爵の親切で、「せっかく王都に来ているのだから、国内で活躍しているレオナルドを紹介するよ」と言われ、マリーとレオナルドは時たま交流があった。

 あれはいつだっただろう。
 一番初めに恋に悩んだ日の事だ。

 マリーは茶飲み友達と思っていたリシャールにキスされそうな距離で顎を掴まれて教会に通えなくなった時期があった。

 そんな恋を知り始めて動揺するマリーの異変にいち早く気づいたのは、レオナルドだった。

 そしてレオナルドはマリーに薔薇の透かし模様が入った美しいレターセットをくれた。

「恋をしているんだね。好きな人が出来たら送るといいよ」と初心なマリーを微笑ましく応援してくれたのだ。

 それが今。
 マリーはレオナルドが墓場から生き返らせたらしい比較的腐敗の進んでいない新しい死体で作った青白い顔で瞬きのしないゾンビたちに囲まれている。

「少しだけ我慢して復讐に付き合って下さい。今日はアリアの誕生日なのです」
「レオナルドさんどうして……!」

 マリーは手足を縛られて、椅子に座っていた。
 ちなみに睡眠剤で眠らされて連れて来られたが、傷もなく、縛られているがさほど痛くもない。
 
 レオナルドは涼しい顔をして、マリーの横に女性の描かれた美人画を立てかけ直した。
 少し角度が悪かったのか、イーゼルを調整している。
 その絵はマリーが見てもわかるぐらいリシャールに、アリアナに似ている。

「アリア。暫く待っていてね」

 そしてレオナルドは先ほどからマリー以外に、絵の女性に話しかけている。

「もうすぐ僕もこれを飲んで、アリアの元に行くから」

 そういって手にしているボトルは、マリーでも知っている即効性のある毒だ。
 どうやらレオナルドはマリーをこのように誘拐して目的を果たした後、死ぬつもりらしい。
 マリーにも「すこしだけ我慢していてね」と何度も優しく言うのだ。

 しかもこの場所は。

(ここは、殿下とよく会っていた古い教会よね……?)

 マリーとリシャールが婚約する前に、何かと理由をつけて通っていた思い出の教会だ。

 祭壇の中央から伸びる絨毯の真ん中あたりの位置、つまりこの部屋の中央にマリーたちはいた。

 また教会の長椅子の壁際、つまり外側の通路にはゾンビたちが列をなして控えている。

 優しいレオナルドと、ゾンビと、彼が愛し気にアリアと呼ぶ美人画。

 マリーには全く意味が分からない。

 教会に生きている人間はマリーとレオナルドだけで恐ろしく静かな空間だった。
 その静寂を破るように、教会の重い扉が古びたきしみを立てて開いた。

「殿下!」

 マリーは思わず叫んだ。
 リシャールはいつもマリーを助けてくれる。犠牲になっても駆けつけてくれる人だ。

「ローゼ。怪我はないか? 早くこいつを片付けるから待っていろ」

 リシャールはそげ落としたような無表情で一瞥した後、ゆっくりとした足取りで歩き出した。

「迂闊に動かないでください!」

 レオナルドが怒鳴る。
 リシャールは気にしていないような顔で、ゆっくりと歩く。

「ローゼを離せ。私が誰か知っているだろう。素人が古代魔法を使ったってたかが知れている。それにお前からは殺気が出ていない。殺す気もないくせになぜこんなことをするんだ? だいたい、権力がらみの謀反だろうが、慣れない事はするなよ。本来は反逆罪で死刑だが、ローゼは無事だからな。いまなら多めにみてやる。降参しろ」
「っ……!」
「本当に私に恨みがあって、『殺すやつ』はもう女一人ぐらいはすぐにやるんだ。お前が魔本をばらまいた連中みたいにな。お前が用があるのはローゼじゃなくて、私だろう?」
「僕は本気だ! 軍人だったこともある!」

 戦いに離れしているリシャールは一瞬でレオナルドがマリーを殺す気がないと判断したらしい。
 しかし、レオナルドがマリーの首に短剣を突き付ける。
 刃を当てたところ、血がたらっと流れた。

 そこでリシャールは歩みをやめて、レオナルドを恐ろしい形相で睨みつけた。 

「要求はなんだ?」

 リシャールの低い声が響く。
 レオナルドはマリーに歯を突きつけながら、恭しく言った。

「リシャール殿下。すぐに王位継承権を手放してテオフィル殿下にお譲り下さい。そして、血抜き事件の犯人だと出頭して下さい」
「……お前が犯人か」
「はい、僕が盗みました。魔本を手に入れて、同志にばら撒きました。そう。僕も、罪人です」

 レオナルドは悪気もなく、あっさり告白する。

「そしてあなたも罪人です。今回の件は、僕の仕業ですが、それ相当の罪があなたにはある。僕は本気です。僕には古代魔法があるし、あなたの愛しい女性ぐらいは一瞬で殺せます。今日はアリアの誕生日でしたので、少し魔法を使って彼女を攫ったのですよ。そうです。今日は、良き日です。人の命なんてどうでもいいあなたが罪を認める日なのです」
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

真実の愛は、誰のもの?

ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」  妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。  だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。  ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。 「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」 「……ロマンチック、ですか……?」 「そう。二人ともに、想い出に残るような」  それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。

【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!

高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。 7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。 だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。 成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。 そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る 【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】 僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。 ※他サイトでも投稿中

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

処理中です...