私は修道女なので結婚できません。私の事は忘れて下さい、お願いします。〜冷酷非情王子は修道女を好きらしいので、どこまでも追いかけて来ます〜

舞花

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修道女と王都と、花と、死者

小さな花屋の花瓶は割れない④

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 窓辺にある季節の生け花、壁に張られた子どもが描いたような男性の絵。

 どれもが、普通の家庭の様な部屋で、国王は恐ろしい『事実』を他人事のように話す。

「でもね、世の中は墓を暴いて死体を生き返らせたらダメなんだって」
「は、はぁ……」

 そりゃあそうだろう。
 死んで安らかに眠る人間の墓を暴くなんて、常識的に罰当たりな行為だ。
 死者に呪われそうだし、大抵の人はそんな恐ろしくて常軌を逸した行動はしない。
 墓荒らしだって財宝のために暴くのであって、好きでそんなことをしているわけではないのだ。
 死体を生き返らせるなんて、言い方によってはゾンビの作成という、悍ましいものだ。
 ましてや、王族が率先してするものではない。しかし。

「墓を掘ったらダメだっていう、そんな法律もないのにね。財宝もない、誰の墓かもわからない大昔の墓だよ? それに、国王の僕が言うんだから、そういう決まりはないのに、リシャールが教会の倫理に引っかかって、宗教裁判裁判にかけられてさ。あの時は困ったよ。しかも、せっかくの研究の成果も出ずに妻も生き返らせられなくて……。それまでの僕の人生は好きな人とも結婚できて、地位もあって、政治も上手くいっていたし順調だったんだけどね。世の中、上手くいかないってこれの事かな、って痛感したよ」

 国王は思い出を語るように懐かしそうに語る。そんなこともあったな、みたいな。

 国王は机の上にあったクッキー缶をあけて、バタークッキーをマリーに勧めた。マリーは衝撃の告白が続いて、良く思考が回らない頭で、それを口にいれる。

「このクッキー、今でもアリアナが好きなんだ。美味しいでしょ?」
「あ、はい……」
「ちなみにアリアは平民でね。昔からこの、素朴な味が好きでね……」
「そ、そうなんですね」
「よく市民のお菓子の話をしてくれたんだ。懐かしいな。僕甘いものは嫌いだったんだけど、いつのまにか好きになったんだぁ」

 ちょっと待って。
 クッキーのことはいいから、今息子に死体を掘らせたとさらりと言わなかっただろうか。
 それなのに、なんでこの人は、平気な顔をしているのだろうか。
 妻は溺愛しているのに、息子はどうでもいいのだろうか。

 マリーは耳を疑ったが、隣にいるリシャールは白い眼でずっと国王を見ていたので、それが事実だと知る。

「で、話は飛んだけど、運よくね、僕は隣の国で生まれ変わった彼女を見つけた」

(あれ、おかしいな。初めは大好きな奥さんが死んでしまって生き返らせようとするぐらい心病んでいたけど、偶然生まれ変わった奥さんに再会して、今は穏やかに暮らすしていますみたいな話かと思ったけど……これは)

 マリーが気づく前にリシャールが言った。

「ローゼ。かなり怖い話だろう。もはやホラーだ」

 リシャールがマリーの思ったことをそのまま口にする。
 そしてリシャールは解説した。こちらも他人事のように。

「要は死んだ妻を生き返らせようと言う悪行を試みたが失敗し、占い師を雇い生まれ変わりを探して養女にしたという怪談だ。決して偶然生まれ変わりに再会したわけでもない。そんないい話じゃない。執念、いや怨念じみた溺愛の末の奇行の連続殺人並みの惨い話だ」
「ひどいなぁ」

 あはは、と国王は笑う。笑うところではない。
 そして国王は悪気もないような口調で語った。

「数年前、孤児だった彼女を養女として引き取って育てたんだ。アリアもアリアナも、花が好きだったから花屋。海が好きだったから王都で花屋をオープンしたよ」

 そしてその話にリシャールが付け加える。

「ほら、こいつ、妻が海が好きだから元々は国の中央にあった王都の場所を海付近に移して、国歌も妻が好きな歌に変更したようなやつだから」

 いくら妻が好きでもそれはやりすぎだとマリーは思うが国王は気にした様子もなく、リシャールから受け取った書類をぱらぱらとチェックしていた。
 ちなみに今日は国王に重要な書類を渡す日らしい。

「花屋の場所をここにしたのは、国王の仕事もあるからね。さすがに王都を離れることはできないし。でもアリアナには普通の暮らしをさせてあげたいし。よって、平民街にオープンしたんだ」
「そ、そうなんですね」

 マリーは言葉に詰まった。どう言い返せば正しいのかもはや分からない。

「まぁ僕は仕事が早いし、外交は影武者に中継させてそつなくこなしているし、ああ、僕天才だからちゃんと仕事はしているんだよ。郵送で毎日書類もらっているし。まだ、テオも王子だし、全部は任せられないし」
「こいつ仕事だけは早いんだ。しかもショートスリーパーで、夜は仕事してる。日中花屋のために公務を徹夜しているんだ。こいつ国王じゃなきゃ、狂人だろう」
「こいついうなよ。父上だろう。君はほんとに顔がアリアに似てるね。女の子に生まれればよかったのに」
 
 国王は愛し気にリシャールの顔を見つめた。
 しかし、リシャールは心底嫌そうな顔をした後、自分の頭を指さして言った。

「こいつ、ここが壊れているんだ。つまり、倫理観のつかさどる脳細胞が生まれつきないんだ。だから、こいつ曰く息子はいらない、また生産すればいいとかいうんだ。さすが生粋の王族だろう。血も涙もないんだ」

 リシャールはやや切れ気味に言った。
 一方、国王はのんびりして、リシャールを見て、頬杖をついている。

「そういう君の性格は僕に似てるかな。だから、頭がおかしいのはお互いさまさ。リシャールだって、修道女である彼女と結婚するつもりなんだろう? それは常識的に逸している。僕の息子だなぁ、と思うよ。うん」
「お前より私は常識がある。一緒にするな」
「テオも隣国でやらかしちゃったし、リシャールも別にいいよ。僕は誰と結婚しようが、君が好きな相手なら大歓迎だよ。死ぬほど愛すべきだと思う。後悔するくらいならね」

 国王は意味深に言って、お茶を飲んだ。
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