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修道女と王都と、花と、死者
小さな花屋の花瓶は割れない③
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爆弾発言をした目の前の男――長らく病で王妃と共に療養中のはずの国王は、アリアナの頭を撫でた。
「アリアナ、青ちゃんと一緒に店番頼んでいい?」
「うん。わかったよ」
アリアナは手慣れたように店番に戻って行った。
マリーとリシャールは店の中を勧められ、こじんまりとしたキッチン兼居間の様なスペースに通された。ダイニングテーブルの椅子をすすめられ、マリーはリシャールととも座る。
(素敵なドールハウスみたいなお家だな)
部屋の内装は木の風合いを生かして床も壁も塗装されておらず、テーブルも機材を切って表面を加工しただけのものだった。
木の窓枠についた花柄の刺繍カーテンは可愛らしく、木の風合いが素敵な家によく合っている。
随分可愛い家だった。
それに、国王が住むにはいささか質素すぎる。
国王曰く、この家は強力な結界が張られており、刺客に見つからないようになっているらしい。さらに姿は見えない指折りの護衛もいるそうだ。
「何か言いたげだね」
マリーの正面に座った国王に、マリーは迷いながらも尋ねた。
無礼を承知で、聞かれたことに正直に答える。国王に嘘をつくのもこの国では、重罪なのだ。
先ほどからいとも簡単にマリーの心を読み彼はもしかしたらその手の魔法を得意としているのかもしれなかった。
それは、嘘をついても無駄と言う事で。無礼を承知で、マリーは国王に訊いてみた。
「あの、その……先ほどの話は本当なのですか……?」
さっきのアリアナが王妃の生まれ変わりという話だ。
ちなみに王妃アリアは公式の場に長らく姿を現していないが、生きていると聞いていた。
国王はゆっくりと立ち上がり自らお湯を沸かし、お茶をカップに注ぎながら、「そうだよ」と気さくに言った。
ガラスでできたカップに紅茶を注いでくれて、「このカップは僕の作品だよ」と言った。
マリーは彼に勧められたお茶を飲まないわけにもいかず、「素晴らしい作品ですね。た、大変光栄です! 頂きます!」と言って一気に飲み干ほした。そして、マリーは「ごほごほっ!」と案の定むせて、無表情のリシャールに背中を撫でられた。
マリーの咳が落ち着くまで待った後、彼は語りだした。
「アリアナは、娘でもリシャールの子でもない。兄弟でもない。彼女は、アリアナは王妃アリアの生まれ変わりなんだ」
「というと……」
マリーは横にいるリシャールをのぞき込んだ。
リシャールは実に嫌そうな顔をしている。心外だ、というみたいに。
「ああ、こいつが私の父親だ」
「国王陛下……!」
リシャールは嘘をつかない。と言う事はこの人が正真正銘の国王陛下だ。
しかし。
(なぜこんなところにいるの?)
マリーはそう思わずにはいられなかった。だって、国王。国王と言ったら、王都の城で玉座に座って居るイメージだ。
こんな使い古したシャツに、泥の付いたエプロンを着ている中年がそんな身分の人には到底見えなかった。
「ん? 君は分かりやすいね。僕が何故花屋を営んでいるかって?」
実に聞いてくれと言わんばかりの嬉しそうな国王が述べる前にリシャールが口を開いた。
「花屋の暮らしはセカンドライフらしい。ふざけた国王だろう。ローゼ。国民の代表として、罵ってやれ。ふざけるな! と叩きつけても今なら不敬罪にしない」
リシャールは恨みのこもった瞳で国王を指さした。さすがに善良な修道女であるマリーは国王をはたき倒すなんてできないが、思わず声が漏れた。
「せ、セカンドライフ……?」
セカンドライフ。
それは、市民の間のセカンドライフは退職後に老後を好きに過ごす、という意味合いでよく使われる。
若い時は良く働いたから、年を取ったら温泉巡りをしようみたいな。
「簡単にいうと、職務放棄だ」
リシャールはため息をついた。
それとは対照的に当の国王はにこにこ笑っていた。
「いいじゃないか。僕はテオも君も立派な大人になったのだし、役目を終えたのだよ」
「私が13の時から放浪気味のくせによくいうな。まぁ、こいつがいなくても国は回るんだ」
「僕の弟が立派だからね。彼は教会寄りで、堅物だけど」
話によると国王の弟が仕事が出来る人らしく、いくらか肩代わりをしているらしい。
ちなみに王弟は泉の神信仰、つまり教会に忠実な人物で、昔からテオフィル指示者で後ろ盾なんだとか。
まぁ、悪名高いリシャールはどう考えても宗教裁判にかけられるくらいだから、彼に指示されるのは考えずらい話ではあったが。
マリーは政治的な事はよくわからないが、いろいろ派閥があるとらしく、一概に王族と言っても考え方は違うのだと思った。
「僕はね、公表はしていないけど、ずっと昔に妻を病気で亡くした。それで長らく、死を受け入れられなくてね」
その瞳は過去を思い出している様に、切ない。
「泣いても、何をしても忘れられなくてね。これほど苦しいことが世の中にあるのかって思うぐらいにね、生き地獄だったよ」
最愛の人を亡くす。マリーにとったらリシャールを亡くすようなことだ。
それを思うと胸が痛んだ。
「だからほら、リシャールに頼んで実験を繰り返して生き返らせようとしたんだ。試しに墓荒らしからはじめてさ」
国王は明るく淡々と他人事のようにお茶を飲みながら語った。
「アリアナ、青ちゃんと一緒に店番頼んでいい?」
「うん。わかったよ」
アリアナは手慣れたように店番に戻って行った。
マリーとリシャールは店の中を勧められ、こじんまりとしたキッチン兼居間の様なスペースに通された。ダイニングテーブルの椅子をすすめられ、マリーはリシャールととも座る。
(素敵なドールハウスみたいなお家だな)
部屋の内装は木の風合いを生かして床も壁も塗装されておらず、テーブルも機材を切って表面を加工しただけのものだった。
木の窓枠についた花柄の刺繍カーテンは可愛らしく、木の風合いが素敵な家によく合っている。
随分可愛い家だった。
それに、国王が住むにはいささか質素すぎる。
国王曰く、この家は強力な結界が張られており、刺客に見つからないようになっているらしい。さらに姿は見えない指折りの護衛もいるそうだ。
「何か言いたげだね」
マリーの正面に座った国王に、マリーは迷いながらも尋ねた。
無礼を承知で、聞かれたことに正直に答える。国王に嘘をつくのもこの国では、重罪なのだ。
先ほどからいとも簡単にマリーの心を読み彼はもしかしたらその手の魔法を得意としているのかもしれなかった。
それは、嘘をついても無駄と言う事で。無礼を承知で、マリーは国王に訊いてみた。
「あの、その……先ほどの話は本当なのですか……?」
さっきのアリアナが王妃の生まれ変わりという話だ。
ちなみに王妃アリアは公式の場に長らく姿を現していないが、生きていると聞いていた。
国王はゆっくりと立ち上がり自らお湯を沸かし、お茶をカップに注ぎながら、「そうだよ」と気さくに言った。
ガラスでできたカップに紅茶を注いでくれて、「このカップは僕の作品だよ」と言った。
マリーは彼に勧められたお茶を飲まないわけにもいかず、「素晴らしい作品ですね。た、大変光栄です! 頂きます!」と言って一気に飲み干ほした。そして、マリーは「ごほごほっ!」と案の定むせて、無表情のリシャールに背中を撫でられた。
マリーの咳が落ち着くまで待った後、彼は語りだした。
「アリアナは、娘でもリシャールの子でもない。兄弟でもない。彼女は、アリアナは王妃アリアの生まれ変わりなんだ」
「というと……」
マリーは横にいるリシャールをのぞき込んだ。
リシャールは実に嫌そうな顔をしている。心外だ、というみたいに。
「ああ、こいつが私の父親だ」
「国王陛下……!」
リシャールは嘘をつかない。と言う事はこの人が正真正銘の国王陛下だ。
しかし。
(なぜこんなところにいるの?)
マリーはそう思わずにはいられなかった。だって、国王。国王と言ったら、王都の城で玉座に座って居るイメージだ。
こんな使い古したシャツに、泥の付いたエプロンを着ている中年がそんな身分の人には到底見えなかった。
「ん? 君は分かりやすいね。僕が何故花屋を営んでいるかって?」
実に聞いてくれと言わんばかりの嬉しそうな国王が述べる前にリシャールが口を開いた。
「花屋の暮らしはセカンドライフらしい。ふざけた国王だろう。ローゼ。国民の代表として、罵ってやれ。ふざけるな! と叩きつけても今なら不敬罪にしない」
リシャールは恨みのこもった瞳で国王を指さした。さすがに善良な修道女であるマリーは国王をはたき倒すなんてできないが、思わず声が漏れた。
「せ、セカンドライフ……?」
セカンドライフ。
それは、市民の間のセカンドライフは退職後に老後を好きに過ごす、という意味合いでよく使われる。
若い時は良く働いたから、年を取ったら温泉巡りをしようみたいな。
「簡単にいうと、職務放棄だ」
リシャールはため息をついた。
それとは対照的に当の国王はにこにこ笑っていた。
「いいじゃないか。僕はテオも君も立派な大人になったのだし、役目を終えたのだよ」
「私が13の時から放浪気味のくせによくいうな。まぁ、こいつがいなくても国は回るんだ」
「僕の弟が立派だからね。彼は教会寄りで、堅物だけど」
話によると国王の弟が仕事が出来る人らしく、いくらか肩代わりをしているらしい。
ちなみに王弟は泉の神信仰、つまり教会に忠実な人物で、昔からテオフィル指示者で後ろ盾なんだとか。
まぁ、悪名高いリシャールはどう考えても宗教裁判にかけられるくらいだから、彼に指示されるのは考えずらい話ではあったが。
マリーは政治的な事はよくわからないが、いろいろ派閥があるとらしく、一概に王族と言っても考え方は違うのだと思った。
「僕はね、公表はしていないけど、ずっと昔に妻を病気で亡くした。それで長らく、死を受け入れられなくてね」
その瞳は過去を思い出している様に、切ない。
「泣いても、何をしても忘れられなくてね。これほど苦しいことが世の中にあるのかって思うぐらいにね、生き地獄だったよ」
最愛の人を亡くす。マリーにとったらリシャールを亡くすようなことだ。
それを思うと胸が痛んだ。
「だからほら、リシャールに頼んで実験を繰り返して生き返らせようとしたんだ。試しに墓荒らしからはじめてさ」
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