私は修道女なので結婚できません。私の事は忘れて下さい、お願いします。〜冷酷非情王子は修道女を好きらしいので、どこまでも追いかけて来ます〜

舞花

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修道女と王都と、花と、死者

薔薇の街13

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 リシャールは王都に帰ってから、まず重ね着して熱苦しいドレスを脱ぎ捨てて、肩まであった髪をばっさり切った。
 そしてこの2年間、政治に巻き込まれ、不安な日々を過ごしていたにも関わらず、手紙一つ書いてやれなかった弟を抱きしめた。
 弟であるテオフィルは「帰って来てくれて、ありがとう。兄さん」とだけ言って、笑った。
 テオフィルは強がりが板について、より一層、表情ひとつ変えないかわいそうな子になっていた。

 ちなみに何故リシャールが逃亡生活を送る羽目になったかというと、すべては政治的な問題だった。
 私は幼い時から魔法が得意であったことを国王陛下――つまり父に認知されていた。
 事の原因は父がリシャールに宗教裁判に訴えられるような事をさせたからだ。

 父の事を話すと長くなるのだが、かいつまんで説明すると、彼には溺愛する正妃がいた。
 彼は愛妻家だった。

 彼は正妃を愛するあまり、歴史ある側室制度を廃止。
 彼女の好きな薔薇を国花にした。
 彼女の好きな歌を国歌にした。
 彼女の好きな海辺の町を首都にした。

 その愛は、溺愛、そのものであった。
 父は、平民で歌姫だった正妃アリアを娶り、王子であるリシャールをもうけて、幸せに暮らしていた。

 しかし、ある日、正妃――母が不治の病に侵されたときから、何かがおかしくなったのだ。
 愛する人の死を受け入れられない彼は、なんと、不老不死やら、死者蘇生の研究を始めたのだ。

 そこで、目につけられたのが、彼の息子であり、1000年に一度の魔法の天才と言われたリシャールだった。
 ユートゥルナ以外の、国中の術者の中で一番、リシャールが優れていたからだ。
 彼は、リシャールに手始めに禁術を使わせ、死体を生き返らせた。
 実の息子にだ。
 そして、それは誰が見ても輪廻転生に逆らう禁忌だったから、リシャールがそれを拒むと、幼い弟を盾に脅された。

「お前がしないとテオがするだけだ。まぁ、この魔法は負担が大きいから、この子は身体がもたないだろうが……仕方ない」

 父は愛に囚われた頭がおかしい男だったのだ。
 妻のためなら息子がどうなろうとどうでもよかったらしい。
 子どもはまた作ればいいが、妻は1人だけという極論の持ち主だったのだ。

 実のところ、これまでの結婚するまでの経緯は、母を正妃にする為に、恋人と別れさせ、密室に閉じ込め、愛をひたすら請う哀れな男だった。

 そんな彼の犠牲になったリシャールは、禁術を使い、死者を甦らせ、そして、結果的には『化け物』と呼ばれるようになった。
 しかし、息子を犠牲にしてまでした父の努力は空しく、生を望まない母は呆気なくこの世を去った。 
 蘇生も不可能だった。
 リシャールは母を救う事も出来ず、母を亡くした。
 
 それでも諦めの悪い父は旅に出て、母を甦らせる方法を探した。
 そして、父不在中に、リシャールは死者の命を弄んだことについての宗教裁判にかけられそうになり、近衛騎士のポールとともに逃亡したのだ。
 表面上はテオフィルを支持する派閥が非人道的なリシャールを裁く、というものだったが、内情は幼い弟の陰に王座を狙う叔父が邪魔である私を排斥するために起こしたものだった。
 2年に及ぶ逃亡の結果、父の帰国により、私はやっと王都に帰還できたと言うわけである。

 身近でおかしくなる父をずっと見ていたから、リシャールは長らくずっと、あんなふうにはなりたくない、恋なんてしたくないと思っていた。
 あんな哀れな人間になりたくない、と。

 それなのに。

 リシャールはローゼを好きになってしまった。
 もう、このしつこい男の血なのか、訳が分からないくらい、彼女が欲しくてたまらなかった。

 だから、王都に帰ってすぐに燃えてしまったミュレー侯爵一家に何かと理由をつけ、事業を斡旋し、援助した。
 そして、再度、リシャール自身の状況が落ち着いた頃合いを見て、正装を着て、腰に剣を刺し、また彼女が住む辺境地を訪ねたのだ。
 もちろん、いくら格好を変えようともライアンが見れば、リシャールが『エマ』だと、どうせすぐにわかるので、『エマ』のことは伏せて、王子として正式にミュレー家を訪問した。

 早く彼女と結婚したい、そればかり思った16歳の春の日だった。
 思えば、リシャールが辺境地を離れてから2年が経っていた。

 ローゼはまだ14歳だけど、まずは婚約からでいいから、早く自分のものにしたかったのだ。
 嫌だと言われても、リシャールは何度も告白するつもりでいた。
 ローゼ以外、好きになる予定はこの先ないから。
 気が付けば、リシャールは頭がおかしいくらい、彼女を求めていたのだ。 

 急に王都から訪ねてきた第一王子であるリシャールを見た、ミュレー侯爵はひどく驚いて言った。

「殿下がなぜこんなところに……?」
「彼女に……マリーローゼリーに会いに来た」
「ローゼは……ここにはいません」

 ミュレー侯爵は火事の一件から、マリーローゼは聖女に憧れて、出家した、と悪夢のような事を言ったのだ。

 不幸な事に、リシャールの結婚したいくらい唯一無二の好きな子が、自分に憧れて、修道女になってしまったのだ。
  
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