私は修道女なので結婚できません。私の事は忘れて下さい、お願いします。〜冷酷非情王子は修道女を好きらしいので、どこまでも追いかけて来ます〜

舞花

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修道女と王都と、花と、死者

薔薇の街⑥回想

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 マリーとエマが触れるだけの口付けを繰り返した日の次の日。
 その日、マリーは何となく熱っぽくて、珍しく教会には行かなかず、屋敷に閉じこもっていた。
 最近はミサがあろうがなかろうが、家庭教師による屋敷での勉学が終えた昼過ぎには教会に通うという生活を送っていたけれども、どうしても今日は教会に足が向かなかったのだ。

(おかしいわ)

 何度、体温を測っても熱はない。

(全部、おかしい。熱もないのに、頬も熱いし。これは恋ではないのに。エマは、友達なのに……)

 昨日、マリーは夜もろくに眠れなかった。
 本を読んだり、絵を描いたりして、エマとキスしたことから気をそらそうとしても、やはり無理だった。
 気づいた時には朝になり、一日が始まっていたのだ。
 そして正午の現在。マリーはベットに座り、ぼーっとしていた。
 何をするわけでもなく、家族には「具合が悪い」と伝えて、部屋に閉じこもっているくらいだった。

(どうしよう。エマが、頭から離れない)
 
 気を抜けば、あのやや薄くて冷たい、けれど触れ方が妙にやさしさと愛を感じる、芸術品のような形の良いエマの唇を思い出してしまう。
 唇を押し付けたときの感触や、緊張したような、「……はぁ」と小声で言う、ため息の様な深い息づかいばかり考えてしまう。
 女同士のふざけが過ぎた「悪い遊び」に過ぎないのに、どうしても恋の様な熱が冷めない。
 マリーは婚約者がいるけれども、彼と時折パーティーで手を繋ぎ、踊る事が有っても、何も感じたことはない。同年代の男子にも、かっこいいと思う人は何人かいたが、これほど強く、眠れなくなるほど心を囚われた人はいなかった。
 しかし、恋愛小説では、女性は恋をすると「胸の奥が痛い」という表現が多用されているが、それともちょっと違う。
 爽やかな青春のどきどき、よりも、もっと、呆然とする熱だ。
 ただ、お臍の上あたりが鈍く痛い、不思議な感覚だった。ぎゅっと締まるのだ。とても。
 それほど、マリーにとっては未知なる、甘美な時間だった。

 ただのふざけにしては切なくて、火遊びにしてはいやらしくて、気持ちよくて、甘い。
 本心ではまた唇を重ねたいと、もっと深く知りたいと思ってしまう、口付けだった。
 もし、大人なら、この先はどうなっていたんだろう、とも思う。

(次に会った時、エマになんて言えばいい?)

 あのキスはなんだったのだろうか? なんて真剣に聞いたら、「冗談だよ」って笑われるだろうか。
 それとも、その続きを、エマは教えてくれるのだろうか。
 マリーは解らなかった。

 ただ、エマは別れ際、恐ろしいくらい整った顔で優しく微笑んで、「また、明日」と言って、帰って行った。
 その時からずっと、マリーは悪い夢を見たような、いい夢をみたような気持で、やるせなかった。
 エマに会いたいけど、会いたくない。
 不思議な気分だった。
 マリーは、窓から教会の方角――エマのいる場所を見つめて、目をそらした。
 そして、再びベットに入り、無理矢理目を瞑った。
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