私は修道女なので結婚できません。私の事は忘れて下さい、お願いします。〜冷酷非情王子は修道女を好きらしいので、どこまでも追いかけて来ます〜

舞花

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修道女と王都と、花と、死者

王子と修道女の逃げられない夜②

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 マリーはリシャールの胸の中に閉じ込められたかと思うと、ごろん、と身体を転がされ、覆い被された。
 リシャールの長い指に顎を捕まれ、形の良い薄い唇が近づいてくる。
 ちゅっ、と軽く唇が触れ合う音がした。
 リシャールは少しだけ満足そうに微笑んだ後、マリーの額や、耳や、首筋にもキスをしていった。
 リシャールはキスをするだけではなく、壊れ物に触れるかのように、マリーの髪を撫でた。高い鼻をマリーの首から鎖骨にかけて押し付けるように香りを楽しんで、愛しげに頬を包み込むように触れ、深く甘いキスをした。

(ーーこのままでは、この優しい愛撫に流されてしまう)

 マリーは焦った。
 触れる場所すべてが、驚くほど心地よかったからだ。

(なんとか、殿下の意識をずらさなきゃ……危ないわ。一線を越えて妊娠なんかしたら……)

 そうなった時は本当にリシャールと結婚しなくてはいけない。リシャールの事は好きだが、それとこれとは違う。
 王族の結婚は、ちゃんとした身分の令嬢と結婚して、国を支える使命があるのだ。
 マリーはリシャールの人生を邪魔する存在でしかない。
 リシャールがマリーの胸元のリボンに手をかけた時、マリーは突如、言った。

「もし、殿下は平民だったら、何をしたいですか?」

 特に何の考えもなくマリーはリシャールに聞いた。
 この際、何の話題でもよかったのだ。
 本音を言うと、何か話さないと、取り返しのつかないところまで来ていたからだ。
 じとっとした、部屋に広がる甘い空気をなんとかしなければならない。

「……なんだ、いきなり」
「以前から気になってました! ぜひ、この機会に教えて下さい。職人さんですか? 役所勤めですか? いや、まぁ殿下は、器用だし、何しても成功しそうですが……」

 マリーは、押し倒されて、身体にキスされながら、素っ頓狂なことを言った。
 当然ながら、虚をつかれたリシャールは、動きが止まって、彼は顔をゆっくり上げた。
「殿下……?」
「……平民になったら、とは、どう言う事だ?」

 リシャールは案外真剣に考えているような顔だった。

 リシャールは真面目だ。毎日疑問も持たずに、王族に生まれたからという理由だけで公務をこなしている。
 時には戦地に赴き、国のために不満も言わず、当たり前かのように命を燃やす。
 自分の命はまさに国の物のような自由のない生活だ。
 もしリシャールが王族という枠から解き放たれ、自由に生きれたら、どう生きるのだろうか。
 そんな真面目で、律儀で、自分を犠牲にする彼はどのような人生を送りたいのだろう? と素朴に思っていたのだ。
 マリーは、こんな状況で話すべき事ではないことは分かっていたが、この空気をなんとかするために話しまくった。

「変なこと聞いてすいません。実は最近、平民を主役にした話が流行ってまして、別に深い意味はないんです」
「教師」
「前から聞いてみたいなぁ、と思ってまして……え、教師?」

 リシャールならば、『王族以外考えられない、馬鹿な事を言うな』、と言われてしまうと思った。
 そして、マリーに呆れて、こんな甘い行為はやめてしまうと思った。しかし。

「……貴様が聞いて来たんだろう。何故、そんな事が知りたい?」

 リシャールはマリーのリボンを躊躇なく解きながら、話した。
 一瞬、顔を上げたのみで、マリーの服を脱がす手は止まらなかったのだ。
 マリーは戸惑いながらも、リシャールに脱貴族の物語が流行っていると話した。

「なるほど。貴族階級が身分を捨て、平民になり好き勝手生きる職務放棄が流行っているのか」
「そうなんです。そこで私も殿下が、脱王族になったらどういう生き方をするのか流行に乗っといて想像してみたんです」
「私に王族クビになってほしいのか、貴様は……」
「いえいえ! 違いますよ、ただ私は修道女だし、元々貴族の端くれですし、平民ライフに憧れがありまして。夢を語り合いたい気持ちが強いといいますか……あっ」

 まだ明かりの灯る室内で、リシャールはマリーの寝巻きを脱がして、下着にした姿を見下ろしながら、行為にそぐわない会話を続けた。

「平民も大変だと思うが。耕したり、商いをしたり、税金ノルマもある。私は愛想がないから、客商売は難しいだろう。まぁ、いろいろ考えた結果、教師かな。教える事は苦じゃない」
「なるほど。殿下は教える事が得意ですものね」

 マリーも会話をちゃんとしながら、リシャールの服を脱がそうとする手に抵抗したが、あっさりと手首を掴まれ、頭の上に押さえつけられた。
 艶めかしい場面なのに、会話は真面目でおかしな話だった。

「話は終わりだな」

 また、二人は唾液を交換する。

「ちょっと殿下、だめ。もう、だめです」
「昼間はだめなんだろう? 夜だから問題ないはずだ」
「そういう訳じゃ……これ以上すると子どもできちゃいます」
「そんな事を心配してるのか。……するだけがよくなれるだけじゃないだろう?」

 それがどう言う意味か、経験のないマリーにはわからなかった。

「お仕置きですか?」
「失礼だな。痛めつけて泣かせる趣味はないが」
「ないんですね」

 マリーは少しホッとする。
 サラの小説みたいに交わりの代わりにお仕置きと称して、縛られたり、薬を盛られたりしたらたまったものじゃない。
 世の中には、交わらなくてもいやらしくて満足できる行為があるみたいだが、マリーには怖すぎた。
 痕が付くまで縛られるのも痛いし、敏感に濡れまくる発情薬もえぐい。
 現実的には遭遇したくないものだ。


「だが」
「ん?」
「私が恋しいと泣いているのは見てみたい気もする」

 それはマリーに求められたいという、純粋な彼の声にも聴こえて、つい、マリーは答えてしまった。

「もしそうしたらどうします?」
「余す事なく愛してやる」

 リシャールは切なげに目を細めた。

「寂しい思いはさせないし、貴様が気にする理不尽な理由から守ってやる。それで世界は2人だけだ」

 もしそうなったら素敵かもしれない、とマリーは一瞬思ってしまう。

「と、思えるぐらい2人で居よう?」
「……それは出来ません」

 それは甘い夢だ、とわかっているマリーには、辛すぎる言葉だったのだ。

 結婚なんてできるわけない。
 国を背負う助けなどできない。
 無責任なことはしたくない。

 マリーはいたたまれず、リシャールを振り払い、ベットから逃げた。
 しかし。

「逃げれると? こんな狭い部屋で? 窓もないのに。貴様は冗談でやっているのか?」
「私はいつだって真剣です!」

 ああ、逃げれない。
 部屋は狭いのだ。どこにいても捕まる。
 今日は、捕まるどころか、簡単に押し倒されて、ねっとりキスされて、触られるのだ。愛撫という、全てを。

 リシャールの「一線は越えないから」という、宣言のもと、それ以外は全てしてしまった。
 下も上も全て味わい尽くされ、明け方まで執拗な、激しくて、泣きたくて、それでも良すぎる、信じられないくらいおかしくなるまで、行為は続いた。
 痛みなんて全くなくて、気持ちよさだけが断続的に続いた。
 ほとんど抵抗出来なかった。
 下っ端修道女が立場的にも王子に逆らえるはずもない。
 化け物じみた魔力を持つリシャールに抵抗できるはずもない。
 今まで好かれながらもよく無事でいたな、と思った。

 せめてもの救いは、最後までしなかったことくらいで、マリーの記憶には衝撃的な一夜が刻まれた。
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