私は修道女なので結婚できません。私の事は忘れて下さい、お願いします。〜冷酷非情王子は修道女を好きらしいので、どこまでも追いかけて来ます〜

舞花

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修道女と王都と、花と、死者

妃殿下と第一王子の計画①

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 サラは動揺し、純粋に困り果てていた。

「どうしましょう……」

 サラは中庭の隅のベンチに座り、お気に入りの万年筆で物語を書いていた時の事だった。
 サラの物語の内容は相変わらず、イケメンがヒロインに土下座しながら体をいじめてほしい、つまり縄できつく痕が出来るまでハードに縛って天井から吊してほしい、大事なところを含む全てを地面のように踏んでほしい、というおぞましい内容だったが、彼女は優雅な容姿で文字を書く姿も絵になっていた。

 そんな物語を執筆中の優雅な午後のひと時に嫌な連絡が来たのだ。

「バレたら今度こそ、殺されますかしら……? いえ、案外、リシャール様は甘い方みたいですし、説明すれば分かってくれるかも……」

 サラとテオフィルの思いが通じて早1週間程。
 今は2人の部屋を繋ぐために、テオフィルの部屋とサラの部屋は改築工事中だ。
 実はサラは、この機に便乗して、マリーの部屋(リシャールと続き間)と自分の部屋をつなぐ計画も密かにしていた。
 運が良いことに、離宮の設計図を見ていると、テオフィルの部屋がちょうどリシャールの部屋の真下な事に気付いたのだ。そして、隠し階段があれば、いつでもマリーに会える、と考えたのだ。
 それでサラは上記のような好みの分かれる性癖の自作小説が馬鹿売れして稼いだ印税を使って設計士を雇い、初回工事をしていたところだったのだ。
 しかし、世の中は甘くなく、リシャールにバレたと血相を変えた業者から連絡があったのだ。
 『申し訳ありません。リシャール殿下に許可を頂いてから工事再開にしてくれませんか? リシャール殿下は工事をすぐやめて穴を塞げと、今にも私ら全員殺しそうな顔で仰ってました……(ぶるぶるぶる)』と、業者が泣きながら言ってきたのだ。

「……リシャール様にバレてしまったら、承諾を得る必要がありますね」

 当たり前の事である。常識だ。
 勝手に人の部屋を改造してはいけないし、勝手に人をモデルにえろい小説を書いてはいけない。
 人としてのモラル、というやつだろう。

「面倒な事になりましたわ。工事は上手く行きそうだったのに、あと一歩で邪魔が入るなんて……よくあるパターンの展開ですわね」

 よくあるパターンも何も勝手に人の部屋に穴は開けてはいけないのだ。
 サラ的には、テオフィルの部屋の上の階がちょうどリシャールの部屋だから、工事的には案外問題なかったのだ。
 黙っていても壁に細工をすればリシャールは気付かないし、言わないつもりであった。
 秘密が多い女、それがサラである。

 サラはテオフィルも好きだが、マリーも大切なのだ。
 部屋を繋いで何が悪い、という気持ちしかなかった。
 サプライズ的な気分で、きっとマリーも喜ぶと思っていたのだ。
 だいたい、テオフィルとマリーの違いはパンとスープみたいなものだ。
 マリーに向ける感情が、愛なのか、恋なのか、身体が求める欲……つまり性欲なのか、何かに目覚めたのか、わからない。
 ただ、好意と言えば好意なのだ。
 サラはテオフィルが外出時はマリーと寝泊まりしようと思っていた。
 どうせリシャールとマリーは、婚約しても身体の関係がないし、あの調子じゃあしばらく別々に寝るだろうから、サラがマリーと同じ枕で頬を寄せ合い寝ても問題ないはずだと。

 サラはマリーとやりたいことがたくさんあったし、夢が広がっていたのに、邪魔が入ったのだ。
 邪魔さえなければ、毎夜マリーの部屋を訪ね、2人で脱がせっこして、風呂に入って洗い合い、胸をもんで、それから……。
 これが、サラが長年憧れていた友情じゃないか、と興奮していたのに。実際は友情なのかは怪しいラインだが、サラは気づかなかった。
 サラがため息をついたまさにその時。

「サラ姫」

 今にも人を殺しそうな冷血な、あの体に妙に響く低い声に呼ばれ、サラはびくついた。

「り、り、リシャール殿下。こ、こんにちは!」
「こんにちは」

 リシャールはとりあえず挨拶は返してくれたが、大変不快そうだった。
 サラはとにかく仁王立ちで眉根を上げるリシャールに自分なりに説明した。
 マリーの事は大好きなので、できるだけ一緒にいたいし、サラの新しい部屋(テオフィルと続き間の予定で建築中)と繋ぎたいと。夜中でも会いたいし、テオフィル不在も多いから食事もしたいし、出来れば四六時中語り合いたい純粋な気持ちで行ったと。

「これでやっとできたお友達と毎日会えるのです。お許しを」
「お前、自分がやってる事の非常識さに気付いてないのか? 性別が違えば淫行計画で犯罪者だ」
「淫行?……まさか。この計画は友情の延長です」
「どうだか。あんな小説を書いたり、ローゼを押し倒そうとしたり、変な下着を着せようとする奴だからな。信用できない。下手なことはするな」

 サラに下手なことをしている自覚はないのだ。
 だから、サラは非を認めない。
 以前は強く言われるとおどおどしていたのだが、最近変な自信をつけてしまったのだから、訳が悪かった。
 リシャールは被害者だから、怒るのも真っ当な話なのだが、サラに話が通じないのだ。
 リシャールの被害は今回に限った事でもない。
 変な小説のモデルにされたこともあった。
 最近はリシャールの婚約者のマリーに下心を持っているフシがあり、いくら義理の妹であれ、見過ごせないところまで来ていたのだ。
 ちなみに、リシャールはストーカーの鏡なので普段から分身使ってマリーのストーキングをしているから、マリーの事はなんでも知っている。
 マリーの食事や趣味、体調まで。
 サラにされたこともお見通しである。
 まさにストーカー対痴女の対決でもあった。

 サラは真顔で言った。

「下手な事って……皮膚の表面だけ触る事までですか? 中に指いれるところまでですか? それとも」
「喧嘩売っているのか?」

 サラに悪気はない。
 下手な事をしているつもりはない。

「まさか。リシャール様とわたくしは『同業者』ですわよ。仲良くしていきましょう」

 サラは持っていた革のケースから書類を出し、リシャールに渡した。切り札だ。
 サラは『これ』のおかげでリシャールに強く出れるのだ。

「これを見て下さい」

 それは、リシャールとマリーの結婚式の詳細だった。
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