私は修道女なので結婚できません。私の事は忘れて下さい、お願いします。〜冷酷非情王子は修道女を好きらしいので、どこまでも追いかけて来ます〜

舞花

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修道女と王都と、花と、死者

舞踏会にて⑦

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「君に見せられないものが、僕の部屋には沢山あってね。でも、どうしても、どうしても……捨てられないものばかりでさ……」

 サラが不安げに眉を寄せる。本当に心許無く、テオフィルを見つめていた。

 サラたちが結婚してからずっと部屋が別々というのは、どうやらテオフィルのコレクションにあるようだった。
 妻には絶対見せれないけど、思い入れがあるらしい訳ありの秘密のコレクション。
 何を隠し持ってるのやら。
 さっさと捨ててしまえば、こんなにもややこしいことにならなかったのに。
 マリーは何となく、納得する。
 テオフィルなら、いろいろコレクションしていてもおかしくない。
 テオフィルは、良くも悪くも几帳面で、勤勉で、真面目なのだ。
 怠惰など、彼の辞書にはなく、たゆまぬ努力は惜しまない。
 どんなセキュリティに守られていても、権力を上手く利用して、滞りなく個人情報保護をカチ無視して調べ上げる。
 つまり、ストーカーの鏡、というべき素質がある。

「な、……何を隠し持っているんですの?」

 サラが訝しげに問う。
 サラはまるで自分以上の変態に出会ったような驚きと、不安を滲ませた表情だった。

(そりゃ、不安だよね……)

 マリーは他人事だとは思えなかった。
 頭脳も能力も容姿も立ち振る舞いも、何もかも尊敬していた王子様の正体が実はしつこい執拗なストーカーという真実。
 崇拝していたアイドルの知りたくない痴態を思い知るような、世の中の悲惨な現実ともいうべきか。
 まさに今、綺麗に皮が向けるように王子様の化けの皮が剥がれようとしているのだから。

「サラ、今にも泣きそうな顔しないでよ。大丈夫、大したものじゃないよ。……僕はずっと君の事が好きだったけど、ほら、君を目の前にするとどうも、緊張してしまってね。そんな僕を慰めてくれたものさ」
「慰め……って。ちょっと、テオ……何したんですの?」
「あはは、だから、大した事じゃないよ。普通の事だよ。ごく、当たり前な、普遍的な事さ。つまり、壁一面の君に似せた絵を飾って思い馳せたり、君の着古した年代物の服とか袖を通してみたり、愛用のペンで君の名前を永遠に書いたり、運良く回収した髪の毛とか食べてみたり。ちょっとやり過ぎたのは、そば付きの侍女を買収して君の毎日を綴った記録を入手したことかな」

 いろいろやりすぎだろ。
 マリーは正直にそう思うが、サラもやはり、言葉が出ないようだった。
 おい、テオフィル。
 今の発言は、爽やかな朝の挨拶のような笑顔で、サラリと言っていい内容だろうか。
 マリーはやけにいろいろぶっちゃけるな、と呆れた。
 まぁ、テオフィルが隠しておきたい気持ちも分かる。
 そんなものたちを見られてしまったら、要危険人物に認定されて、どんな女でも逃げていくだろう。
 いくら顔が良くても、身分があって、お金持ちでも、王子様でも、確実な曰く付き物件だ。関わってはいけない部類。

「ものすごく不可解なのですが、何故テオは髪の毛なんか食べますの?」
「好きだからだよ、わからない?」
「……わかりませんわ」
「残念だ」

 サラは言うまでもなく、沈黙する。
 テオフィルはサラを申し訳なさそうに見つめながら言った。

「君も僕にその秘密を打ち明けてくれたら、言おうと思っていたんだけど、君は婚約破棄しようとするし。……身体だけ、つなげてみたけど……やっぱり、だめだね」

 テオフィルはサラを媚薬を盛りまくり、無理矢理抱いて嫁がせてきた事を後悔をしているようで、苦しげに微笑んだ。
 サラははっとしたように言った。

「……テオ、私と仕方なく結婚したんじゃなかったの?」
「仕方なく? 馬鹿な事を言わないでくれよ」

 テオフィルは少しだけ視線を逸らし、頬を染めながら、さらさらな金髪を掻いた。
 テオフィルには珍しく本気に照れて、初々しい反応だ。

「君は、僕の初恋なんだから、何があっても嫌いになんてなれないよ」
「初恋……」

 いつかの日、サラもマリーに語っていた。
 2人は、はじめは政略結婚という形だったが、サラにとってテオフィルは初恋で、ずっと忘れられない人だと、大切な思い出だと。

「サラ、別に君が僕を嫌いでもいいよ。でもね、最悪、生涯君の事は守らせてよ。隠さないでよ。……昔は何でも話してくれたじゃないか」

 絞り出すような苦しげな声でそう言って、テオフィルはサラを抱き寄せた。
 春の風が、中庭を吹き抜けた。
 芳醇な香りが辺りを包み込む。

「ごめん、別れることはできない。僕はほんとうに頭がおかしいんだ。だから、どんなに君に嫌われても君を逃してあげれない。だから、しつこいかもしれないけど、友達からでもいいから、もう一度やり直さないか?」

 2人は長く抱き合った。
 マリーは拘束されながらも、遠くで流れるワルツを聴きながら、2人を見守った。
 サラは黙ったまま、静かにテオフィルを見つめていた。

「君が、狙われていると知ったとき、もう心配で死にそうだったよ。君が居ないと、生きていても死んでいても、一緒なんだよ」

 マリーはニコルの事件の時、外泊中のテオフィルは血相を変えてやってきたのを思い出す。
 2人はすれ違いがあれど、お互いにとって特別な人だったのだ。
 自信のなさが災いして、焦りとか後悔のせいで、すこしすれ違っただけだった。
 サラは好き過ぎるあまりに自分を卑下して、テオフィルは好きなのに婚約破棄をされ自信がなくて、ずっと向き合えなかった。
 はじめから正直になれればよかったのだが、それが出来ないのが恋だとマリーは知る。

「テオ。……いろいろ思う事はあるけど、あなたを嫌いになる事なんてないわ」

 サラはそう言って涙まじりに笑った。
 テオフィルは目を細めて、優しく微笑んだ。


********


 今日の事により、2人の溝が埋まり、一件落着というべきか。
 マリーは中庭から会場に戻っていく2人を拘束されながら見た。
 サラたちが去った後、ずっとマリーの口を覆っていた手が急に離れた。

(ああ、やっぱり……)

 振り向くとリシャールが平然と立っていた。
 リシャールは、しっかりと舞踏会用の正装をして、何の感情もないような涼しい顔をしていた。
 つまり、リシャールは数日ぶりに会ったというのに、いつものように全く表情のない顔で無言だった。

「殿下っ……!」

 マリーは、当たり前だが、今までリシャールから何も連絡がなったことに腹が立った。
 マリーはリシャールに詰め寄り、彼を思いっきり睨んだ。

「今までどこにいたんですか……? 私はーー」

 毎日眠れないほど、死ぬほど心配したんだ、と言いかけて、マリーはそれをやめた。

「……」

 やはりリシャールはマリーに何も言わず、ただマリーを眺めてから、彼女の顎を持ち上げ、嬉しそうに口角を上げた。
 リシャールは、愛しげに長い指でマリーの唇をすーっと、なぞった。

「ちょっと……何を」
「……」

 リシャールは言葉を返すこともなく、何を思ったのか、首を傾げ、マリーに顔を近づけてきた。
 しかし、マリーははぐらかされるのが嫌で顔を逸らすと、今度は肩を大きな手で掴まれ、力が強くてびくとも動かないため抵抗もできずに、首筋に顔を寄せられた。
 軽く耳を触られ、首筋を温度の低い唇が這う。

「こんなところで、やめ……て」

 身体を捕まれると、逃げる事は出来ず、薔薇と混じったリシャールの香りがマリーの胸を揺さぶった。
 身体の底が無意識に熱くなる。
 どうしようもなく、感情が揺さぶられてしまう。

「や、やめてください……!」

  マリーは流されないように必死でリシャールを振り払い、泣きそうになるのを堪えて言った。

「殿下、今までどこに行っていたんですか。 ……怪我は」

 マリーは、リシャールが血をダラダラ流し、消えた夜からどれほど心配した事だろう。
 リシャールを見ると、安堵で、怒りが涙に変わってしまう。
 気を緩めたらぼろぼろと涙が落ちそうだ。
 それでは、マリーの気持ちを知らないリシャールの無神経さに負けてしまいそうで嫌だったため、マリーは堪えた。
 飄々と現れて、何の言葉もなく、いつものように痕をつけようとしてくる。
 リシャールはマリーの恋人でも何でもないのだから、感動の再会にキスもいらないし、抱擁もいらない。
 ただ、最低限、友人として、リシャールには事の説明と、心配をかけた少しの謝罪くらいほしかった。
 それだけなのに。

「治った」

 マリーがあれほど心配したのに、リシャールはしれっとしていた。
 謝罪などない。
 あの大怪我が簡単に治るわけがないというのに、リシャールが治って当然なように述べたので、マリーは眉をひそめて、リシャールを再度睨んだ。

「……治るわけないでしょ?」
「これが治るんだな」

 意味の分からない会話だ。
 リシャールは重症を負っていたはずが、雲隠れしていた数日で完治したという。
 そんな都合のよい魔法みたいな話は人生で聞いたことがない。
 まず、あり得ない。
 治癒魔法だって、術者の犠牲が伴うし、一人で消えたはずのリシャールが無傷の状態に戻るとは考えづらかった。

「こんなところにいてもあれだ、会場に行こう」

 マリーはリシャールに手を引かれ、舞踏会会場に戻ったが、突然の氷華の登場で違う意味で騒ぎになったので、バルコニーに移動した。
 しばらく、リシャールの怪我について納得のいかないマリーは中庭を見下ろしていた。

「何、腹を立てている」
「……別に、怒ってなどいません」
「じゃあ、何故私を見ない?」
「見たくないからです」
「なるほど」

 やはりマリーはリシャールを見てしまうと泣いてしまいそうで、見る事ができなかった。
 あれほど探し回ったのに、眠れないぐらい心配したのに、世界が白黒になるほど絶望したのに。
 リシャールはそんな事は知らないのだろう。
 それも腹が立つ。

「そうか、そんなに私を見たくないか……困ったな」

 全然困ったようでないリシャールは強引にマリーの顎を掬い、顔の向きを自分の方に向かせた。

「目を逸らすな。私を見ろ。他は見るな。……生涯な」
「はぁ……? 生涯って」

 リシャールは目を逸らす事を許してくれなかった。
 顎を掴まれ、無理矢理視線が合う。

「私は貴様しか見えてないが?」

 マリーは、リシャールの深い青の瞳に吸い込まれそうになり、目が離せない。

(それってどういう……?)

 リシャールの瞳はどこまでも澄んだ色をしていた。
 肌は誰よりも白く、表情に乏しい顔。
 冷たいとすら思う。寂しいとすら思う。そんな色だ。

 それなのに、マリーはいつの間にかリシャールが、顔の造形うんぬんを除いても、強く惹かれ、リシャールがいるだけで、先程とは違う世界に来たような感覚になった。
 怒っていた事も忘れてしまうくらい、安堵と甘い疼きが混じったような、あたたかいものが身体を流れる。
 冷酷だと言われ、非情だと非難されている、誰よりも冷たい彼を見てそう思う。
 マリーの顎を持ち上げたまま、至近距離でリシャールはマリーに言い聞かすように落ち着いた声で言った。


「まぁ、聞け。あれから、治癒魔法を自分にかけた。まる2日かかったが、まぁきれいに治ったから、あとで見せてやろうか?」
「かけたって、それって……」

 どういう意味だろうか。
 自分に治癒魔法をかけるなんて聞いた事がない。
 ましてや、人間が自分で怪我を治すなど、誰もが疑う台詞だ。

(殿下は……一体何者だろう?)

 ただの王子様では足りない。
 マリーはニコルの事件から続く、違和感の確信に薄らと触れた。
 何かがおかしくて、何かが間違っている。
 とても物凄く、物事の決まりが歪んでいるのだ。
 根本的な常識的な何か、が。

 マリーが聞き返すよりも早くリシャールはマリーの唇に触れそうな距離で、低く掠れた声で甘く囁いた。

「今から私の部屋に来ないか? 話がある」
「……嘘でしょ?」

 リシャールはにやっと笑った。
 表情が人間味を帯びたように意地悪になる。

「嘘だ、話なんてない。部屋で話なんかしてどうする?」
「……っ!」

 ふざけてんのか、とマリーは思い、リシャールの手を容赦なく振り払った。
 しかし、リシャールは気にしていないように笑い、続けた。

「司書の件ではあれだけ私を脱がせたがっていたくせに」
「……あのときは仕方なく!」

 あの時はリシャールの怪我の具合を確認したくて仕方なかったのだ。別に変な意味はない。

「まぁいい、貴様もせっかくめかしこんだのだから、一曲どうだ?」
「え……」
「踊ろう」

 リシャールはマリーの手をとってステップを踏み始めた。


「前より随分とマシになったな」
「いえ、それは……」

 不思議なことにあれほどピンヒールでパートナーの足を踏んでいたのが嘘みたいだった。
 息が合うというか、身体のタイミングが同じというか、ダンスに無理がない。
 マリーが数時間で劇的にダンスが上手くなったとは考えずらいからきっとリシャールがマリーに合わせるのがうまいのだろう。

「でも、貴様は私としか踊れないだろう?」

 リシャールは嬉しそうに言ったが、マリーは図星で何も言えず、一段とリシャールを喜ばせてしまった。

「もう、私でいいんじゃないか。いい加減諦めたらどうだろうか。早く嫁に来い」
「無理です、ごめんなさい」
「何が無理なんだ? 息も合うし、肌も馴染むし、趣味もあうし、部屋もあるし、問題ないだろう」
「だから……!」

 リシャールにマリーが修道女であるから結婚できないと伝えても、伝えても、意味はない会話は続いていく。

「貴様となら、これからもいい時間が過ごせそうだ。何を躊躇っている? 人生は長いようで短いのなら、好きな相手と過ごして何が悪い?」
「それは……」

 マリーたちはバルコニーで踊っていたがいつの間にか観客が増えていた。人々が遠巻きにマリーたちを見つめている。
 リシャールがダンスを踊っているのが珍しいのもあるが、そこには国一番に綺麗な金髪の王子様が居る様にしか見えなかった。

 マリーは思う。
 修道女が王子を好きになることは、間違っているのか。
 王子が域を越えた魔法を使うのは、間違っているのか。
 この王子さまは一体何者なのだろうか。
 修道女として、人間として、この秘密と向き合い、自分はどうする事が正しいのか。

(ああ、悲しいくらい、わからないわ)

 マリーは、リシャールに聞きたいことは山ほどあったが、今は全てを忘れてダンスをしていたかったので、何も考えないことにした。

 奇怪な事実は、明日から考えればいいのだから。
 神に対する冒涜は今に始まった事ではないのだ。
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