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修道女、姫の護衛をする
いつもの裏切り②
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「あの、ですね、これは仕事で……」
同じく、マリーも銃を突き付けられられながら、必死に弁解する。
違う。そんな意味じゃない。
ふつうに考えてみてほしい。
護衛に行ってなんで姫と肉体関係を持つんだ。
マリーは女。サラも女。
しかもお互い婚約者や夫がいるんだぞ。
「仕事であれば、誰とでも寝るのか貴様は……最低だな」
「……殿下、何考えているんですか?」
「許せない話だな」
リシャールは不機嫌に眉根を寄せた。
この場に及んで面倒なことになりそうだ。
銃を突き付けられている絶体絶命の状況で何故だろう。
ほかにもっと大事なことがあるだろう? 命とかどうやったら助かるとか。
「どう言う意味でしょう……?」
ニコラも銃を持つ手が震え、やや動揺している。
(なんでニコルさんも今の話を信じるの?)
マリーは解せない。意味わからない。
誤解を与えた張本人であるサラは物語の悲恋のヒロインのように心底つらそうに言った。
「わたくし、もう、男はいいんです。ごめんなさい。先程、決心しました。わたくし、ローゼ様といた方が幸せになれると思いますの。男はテオで身おさめです。ローゼ様は、ほんとうにお人好しで親切で素直で小柄で肉付きがよくて敏感で大好きなのです」
サラは先程夫を捨て、同姓のマリーに走る事を決めたらしい。
誤解されそうだが、サラとの間に何もない。
リシャールが一層険しい顔をした。
「こんなわたくしを、幾度も救ってくれました。もう、ローゼ様のためになるなら、この身など惜しくありません。好きなんです、大切な人なんです。出来る事なら生きて二人で暮らしかったです」
「聞き捨てられないな、それは浮気か?」
リシャールの低い声が響く。
「いえ。テオは吹っ切れました。リシャール様はそもそもそう言う関係じゃないでしょう?」
「……お前に何がわかる?」
「分かりますとも。体を見れば」
「……何をしたんだ、お前」
リシャールは銃口を突きつけられたまま、サラを睨んだ。
実に忌々しげに。殺してやると言わんばかりの形相で。
(殿下、睨む相手違うよ?)
マリーは心の中で突っ込みをいれた。
しかしだ。どうしよう。
命の危機と修羅場が同時にやってきた。
サラもサラで酔っているのか、魔法が使えないリシャールは怖くないのか、リシャールに堂々と物申している。
誰かこの状況からいろんな意味で助けてほしい。
「なんだか分かりませんが、私が思っていたより人間関係は複雑なようですね。最近の恋のお相手は男だけとは限りませんし、よし、やはり横恋慕のローゼ様は絶対に絶対に殺しましょう」
すっかり取り残されたニコルがこの修羅場に終止符を打つとともに、マリーに向ける銃を構え直して、額にぴたりとくっつけた。
「いや、その私はそんな気はありませんので、そこだけはお間違いなく!」
マリーもサラを横恋慕したと言う誤解を理由に殺されたくない。両刀使いの間男みたいなポジションで死にたくない。
せめて、立派に修道女として役目を果たして殉職したいものだ。
「貴女にはなくてもわたくしにはあるのですよ」
サラが火に油を注ぐ様に言う。
「いえ、ごめんなさい。私、修道女なので、生涯独り身ですよ……」
一部始終を見ていたニコラははぁーっと長いため息をついた。
そして彼はサラの顔を切なげに見た。
仕方ないなぁ、と言う感じに若干の呆れを滲ませて。
「貴女は変わってしまった、いえ、『いつもの』ずるい人だったのですね、残念です」
『いつもの』と言う言葉が引っかかる。
ぐしゃぐしゃと綺麗な髪をかき混ぜた。
やるせ無い様な、そんな表情だ。
「みんなころっと変わるのです、それが女性です」
しかし、ニコルは一変して、不気味なくらいニッコリ笑い、サラの顔が引き攣った。
何を考えているのだろう。
突如、呻き声とともに死者たちが、また窓から入ってくる。
先程凍らせた者たちと同じゾンビであった。
いつの間にか増援したらしい。
リシャールは魔法石を取られて氷魔法が使えない。
マリーも古代魔法に囚われて身動きが取れない。
お互い銃を突き付けられている。
絶体絶命だった。
「また……!」
マリーは絶望的な気持ちになった。
ゆっくりと地面を這う死者の群れになすすべはない。
身動きもとれず、修道院関係者も呼べない今、できることはあるのだろうか。
「あと少しだけ、私の話をきいてくれませんか? 最後に」
勝ちを確信したらしいニコルは、ふふふ、笑った。
「少し昔話をしましょうか」
ニコルはゆっくりと語り出した。
同じく、マリーも銃を突き付けられられながら、必死に弁解する。
違う。そんな意味じゃない。
ふつうに考えてみてほしい。
護衛に行ってなんで姫と肉体関係を持つんだ。
マリーは女。サラも女。
しかもお互い婚約者や夫がいるんだぞ。
「仕事であれば、誰とでも寝るのか貴様は……最低だな」
「……殿下、何考えているんですか?」
「許せない話だな」
リシャールは不機嫌に眉根を寄せた。
この場に及んで面倒なことになりそうだ。
銃を突き付けられている絶体絶命の状況で何故だろう。
ほかにもっと大事なことがあるだろう? 命とかどうやったら助かるとか。
「どう言う意味でしょう……?」
ニコラも銃を持つ手が震え、やや動揺している。
(なんでニコルさんも今の話を信じるの?)
マリーは解せない。意味わからない。
誤解を与えた張本人であるサラは物語の悲恋のヒロインのように心底つらそうに言った。
「わたくし、もう、男はいいんです。ごめんなさい。先程、決心しました。わたくし、ローゼ様といた方が幸せになれると思いますの。男はテオで身おさめです。ローゼ様は、ほんとうにお人好しで親切で素直で小柄で肉付きがよくて敏感で大好きなのです」
サラは先程夫を捨て、同姓のマリーに走る事を決めたらしい。
誤解されそうだが、サラとの間に何もない。
リシャールが一層険しい顔をした。
「こんなわたくしを、幾度も救ってくれました。もう、ローゼ様のためになるなら、この身など惜しくありません。好きなんです、大切な人なんです。出来る事なら生きて二人で暮らしかったです」
「聞き捨てられないな、それは浮気か?」
リシャールの低い声が響く。
「いえ。テオは吹っ切れました。リシャール様はそもそもそう言う関係じゃないでしょう?」
「……お前に何がわかる?」
「分かりますとも。体を見れば」
「……何をしたんだ、お前」
リシャールは銃口を突きつけられたまま、サラを睨んだ。
実に忌々しげに。殺してやると言わんばかりの形相で。
(殿下、睨む相手違うよ?)
マリーは心の中で突っ込みをいれた。
しかしだ。どうしよう。
命の危機と修羅場が同時にやってきた。
サラもサラで酔っているのか、魔法が使えないリシャールは怖くないのか、リシャールに堂々と物申している。
誰かこの状況からいろんな意味で助けてほしい。
「なんだか分かりませんが、私が思っていたより人間関係は複雑なようですね。最近の恋のお相手は男だけとは限りませんし、よし、やはり横恋慕のローゼ様は絶対に絶対に殺しましょう」
すっかり取り残されたニコルがこの修羅場に終止符を打つとともに、マリーに向ける銃を構え直して、額にぴたりとくっつけた。
「いや、その私はそんな気はありませんので、そこだけはお間違いなく!」
マリーもサラを横恋慕したと言う誤解を理由に殺されたくない。両刀使いの間男みたいなポジションで死にたくない。
せめて、立派に修道女として役目を果たして殉職したいものだ。
「貴女にはなくてもわたくしにはあるのですよ」
サラが火に油を注ぐ様に言う。
「いえ、ごめんなさい。私、修道女なので、生涯独り身ですよ……」
一部始終を見ていたニコラははぁーっと長いため息をついた。
そして彼はサラの顔を切なげに見た。
仕方ないなぁ、と言う感じに若干の呆れを滲ませて。
「貴女は変わってしまった、いえ、『いつもの』ずるい人だったのですね、残念です」
『いつもの』と言う言葉が引っかかる。
ぐしゃぐしゃと綺麗な髪をかき混ぜた。
やるせ無い様な、そんな表情だ。
「みんなころっと変わるのです、それが女性です」
しかし、ニコルは一変して、不気味なくらいニッコリ笑い、サラの顔が引き攣った。
何を考えているのだろう。
突如、呻き声とともに死者たちが、また窓から入ってくる。
先程凍らせた者たちと同じゾンビであった。
いつの間にか増援したらしい。
リシャールは魔法石を取られて氷魔法が使えない。
マリーも古代魔法に囚われて身動きが取れない。
お互い銃を突き付けられている。
絶体絶命だった。
「また……!」
マリーは絶望的な気持ちになった。
ゆっくりと地面を這う死者の群れになすすべはない。
身動きもとれず、修道院関係者も呼べない今、できることはあるのだろうか。
「あと少しだけ、私の話をきいてくれませんか? 最後に」
勝ちを確信したらしいニコルは、ふふふ、笑った。
「少し昔話をしましょうか」
ニコルはゆっくりと語り出した。
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