68 / 169
修道女、姫の護衛をする
姫と修道女の夜②
しおりを挟む
マリーはサラと添い寝をしなければならない。
仕事ではあるが、先程のこともある。
しかも、ここがサラの寝室という事で変な気分だった。
寝室といえば、単純に寝るだけの場所であるが、別の意味もある。
サラ一人で寝るには十分過ぎる大きさの天蓋付きベッドにサラは腰掛けて、マリーを手招きした。
「どうしましたの? 横になりましょう」
「でも、ここはその夫婦で過ごす場所でありますし、私なんかが寝てもいいのでしょうか? 護衛ですし……」
そもそも護衛であるから、寝ずに椅子か床にでも座って、朝まで警護すべきだ。
「大丈夫です。気にされなくても、ここで、そのようなことはしたことがありません」
サラは優雅に立ち上がり、窓辺に行く。
季節外れの薔薇が咲く中庭が見える大きな窓枠にサラは手をかけて、薄いレースカーテンを開けた。
雲はなく、欠けた月が空に浮かんでる。
「実は、この前……といっても随分前に、窓付近でしたのです」
あ、ああ。そうなのか。
だったら、そのベッドで事が行われたとか想像せずに、心配せずに寝れる、なんてそんな問題ではないけど。
「しかもその日は変な雰囲気で、彼は何故か途中でやめたので、未遂です」
「……」
どう返していいのやら。
テオフィルは襲うくせに、結婚してからは避けたり、途中でやめたり、意味不明だ。
窓辺に立つサラは絵画のように、お人形さんのように整っていた。
こんなに美しい妻を娶りながら、途中でやめる、なんてやっぱり彼はおかしい。
やはり、病院をすすめるべきか。彼にも男としてのプライドがあるだろうし、デリケートな問題だ。
憂鬱そうなサラが窓の外に目を向けた。
それから言葉を無くしたサラが、黙り込む。
「どうされました?」
マリーも立ち上がり、窓辺に行き、外を見るが誰もいない。
サラが震える声で言った。
「誰が居ましたの。黒いローブの、男性が庭の中央でこちらを見ていて、すぐにさぁっと闇に消えて……」
「え……」
闇に消る、なんてことは魔法でもあり得ない。
存在が消えるなんて幽霊でもあるまいし。
あり得るなら、幻覚や精神系の魔法、つまり今は禁術になっている古代魔法くらいなのだ。
犯人はいつも手紙で迎えに来ると言っていたから、もしかして本当に迎えに来たのだろうか。
マリーは急いでサラの手を取り、寝室から出た。
そこは広い居間のような空間で、待機しているはずの護衛が一人もいなかった。
(誰もいない? やはり犯人がみんな始末したの?)
しかし、そこに思わぬ人がいた。
そこには、居間の中央にあるソファに足を組んで座るよく見慣れた人物がいた。
不遜そうにやや顎をあげて、意地悪そうに口角が上がっている。
「殿下……何故ここに?」
マリーの思考回路が止まる。
屈強な護衛はどこに消えて、何故リシャールがサラの居間にいるのだろう。
こんな時間に訪問のわけはない。
サラもわなわな震えて、リシャールをみて指をさした。悪役を名指しするように。
「り、り、り、リシャール・スウルス・メイルアンテリュール!」
「サラ・セゴレーヌ・シモン……いや、サラ・セゴレーヌ・スウルス・メイルアンテリュールか」
サラとリシャールはお互い呪文みたいな長いフルネーム言い合った。
一応、他人行儀ではあるが、リシャールにとってサラは義理の妹にあたる。
それから、二人はお互いを見つめていた。
サラは酒が抜けていないからか、心底嫌そうに。
リシャールも眉根をよせて、不快そうに。
先に切り出したのはサラだった。
「こ、こんばんは、リシャール様」
「こんばんは、サラ姫。と、私の大切な婚約者殿?」
リシャールの声は低くて、響いて、胸が熱くなるような落ち着いたものだった。
ただ、呼ばれただけなのに、どきっとする。
リシャールはマリーに視線を移し、頭の先から足の先まで吟味するように見つめた。
仕事ではあるが、先程のこともある。
しかも、ここがサラの寝室という事で変な気分だった。
寝室といえば、単純に寝るだけの場所であるが、別の意味もある。
サラ一人で寝るには十分過ぎる大きさの天蓋付きベッドにサラは腰掛けて、マリーを手招きした。
「どうしましたの? 横になりましょう」
「でも、ここはその夫婦で過ごす場所でありますし、私なんかが寝てもいいのでしょうか? 護衛ですし……」
そもそも護衛であるから、寝ずに椅子か床にでも座って、朝まで警護すべきだ。
「大丈夫です。気にされなくても、ここで、そのようなことはしたことがありません」
サラは優雅に立ち上がり、窓辺に行く。
季節外れの薔薇が咲く中庭が見える大きな窓枠にサラは手をかけて、薄いレースカーテンを開けた。
雲はなく、欠けた月が空に浮かんでる。
「実は、この前……といっても随分前に、窓付近でしたのです」
あ、ああ。そうなのか。
だったら、そのベッドで事が行われたとか想像せずに、心配せずに寝れる、なんてそんな問題ではないけど。
「しかもその日は変な雰囲気で、彼は何故か途中でやめたので、未遂です」
「……」
どう返していいのやら。
テオフィルは襲うくせに、結婚してからは避けたり、途中でやめたり、意味不明だ。
窓辺に立つサラは絵画のように、お人形さんのように整っていた。
こんなに美しい妻を娶りながら、途中でやめる、なんてやっぱり彼はおかしい。
やはり、病院をすすめるべきか。彼にも男としてのプライドがあるだろうし、デリケートな問題だ。
憂鬱そうなサラが窓の外に目を向けた。
それから言葉を無くしたサラが、黙り込む。
「どうされました?」
マリーも立ち上がり、窓辺に行き、外を見るが誰もいない。
サラが震える声で言った。
「誰が居ましたの。黒いローブの、男性が庭の中央でこちらを見ていて、すぐにさぁっと闇に消えて……」
「え……」
闇に消る、なんてことは魔法でもあり得ない。
存在が消えるなんて幽霊でもあるまいし。
あり得るなら、幻覚や精神系の魔法、つまり今は禁術になっている古代魔法くらいなのだ。
犯人はいつも手紙で迎えに来ると言っていたから、もしかして本当に迎えに来たのだろうか。
マリーは急いでサラの手を取り、寝室から出た。
そこは広い居間のような空間で、待機しているはずの護衛が一人もいなかった。
(誰もいない? やはり犯人がみんな始末したの?)
しかし、そこに思わぬ人がいた。
そこには、居間の中央にあるソファに足を組んで座るよく見慣れた人物がいた。
不遜そうにやや顎をあげて、意地悪そうに口角が上がっている。
「殿下……何故ここに?」
マリーの思考回路が止まる。
屈強な護衛はどこに消えて、何故リシャールがサラの居間にいるのだろう。
こんな時間に訪問のわけはない。
サラもわなわな震えて、リシャールをみて指をさした。悪役を名指しするように。
「り、り、り、リシャール・スウルス・メイルアンテリュール!」
「サラ・セゴレーヌ・シモン……いや、サラ・セゴレーヌ・スウルス・メイルアンテリュールか」
サラとリシャールはお互い呪文みたいな長いフルネーム言い合った。
一応、他人行儀ではあるが、リシャールにとってサラは義理の妹にあたる。
それから、二人はお互いを見つめていた。
サラは酒が抜けていないからか、心底嫌そうに。
リシャールも眉根をよせて、不快そうに。
先に切り出したのはサラだった。
「こ、こんばんは、リシャール様」
「こんばんは、サラ姫。と、私の大切な婚約者殿?」
リシャールの声は低くて、響いて、胸が熱くなるような落ち着いたものだった。
ただ、呼ばれただけなのに、どきっとする。
リシャールはマリーに視線を移し、頭の先から足の先まで吟味するように見つめた。
0
お気に入りに追加
312
あなたにおすすめの小説

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。

【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!
高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。
7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。
だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。
成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。
そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る
【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】
拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】
僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。
※他サイトでも投稿中
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる