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修道女、姫の護衛をする
姫の部屋に招待されてしまった①
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着替えが無事に終わり、マリーは部屋を案内されて気づいたのだが、サラの部屋はテオフィルと隣部屋で厚い壁で仕切られていた。
本来は夫婦である二人は同室であるべきなのだが、なぜか別の部屋だった。
部屋は隣同士であるが、バルコニーがつながっているわけでもなく、隠し通路があるわけでもなく、しっかりとした壁で区切られている。
マリーが不思議に思って辺りを見回していると、サラが感づいたのか、少し笑って寂しそうに言った。
「わたくしたちの部屋はまだないんです。テオは昔から使っている部屋で寝起きをしてますし、私はこの隣の部屋を改装したここで過ごしています。……あ、気になさらないでくださいね。不仲なわけではないんです。工事が、まだ始まらなくて」
4月に結婚しているというのに、まだ二人で住む部屋の準備すら行われていないという。
(おかしいわ……だって、殿下は数日で私の部屋と続き間になるように部屋を改装したと聞いたし)
マリーの婚約者、リシャールは古い教会で出会い、マリーを気に入った段階で婚約すらしてないのに勝手に自室を改造した。
10日ほど徹夜工事で改装工事を済ませたらしい。
職人さん、ごめんなさい。無理を言って申し訳ない。
マリーはリシャールの代わりに工事に関わった人物に同情する。
リシャールは冷酷非情と名高い氷華殿下であるため、期限までに終わらせないと殺されるとでも思ったのだろう(リシャールはそんなつもりではないが、多分相手が勝手に勘違いしたのだろう)。
マリーは、王族はその気になれば、なんでもありだな、と思っていたので、サラの部屋事情は信じられなかった。
(いや、殿下が異常なだけかな? いや、もう……わかんないや)
マリーはとりあえず、リシャールの事は考えるのをやめた。
マリーに、リシャールの考えていることはわからない。
リシャールも呆れながら、『貴様の頭の中身はほんとうに海綿が詰まっているのか、空洞なのか? 考え方が珍妙で……わからない』といつも呟くけど、マリーだって、彼の奇想天外な行動がわからない。
残念なことに、お互い、意味不明なのだ。
話は戻るが、マリーの会ったテオフィルは、確かにサラを愛していたし、手紙の件について心から心配していた。
彼の婚約期間は長く、サラの事を話す彼は深い愛に溢れていたし、テオフィルはマリーにすら嫉妬するほど恋焦がれている。
テオフィルは、本当にサラに惚れているからこそ、老若男女構わず、彼女が横恋慕されることを恐れているくらいだ。
だから、新婚というのに、こんな扱いをするような人物には思えなかった。
新婚といえばいつでも意味もなく、くっ付いているだろう。
煩わしいぐらいに。馬鹿みたいに。
暇さえあれば、身体が触れているはずだ。
甘い言葉を囁いてキャーキャー言っているはずなのだ。
マリーは王城に来てから、イチャイチャどころか、サラとテオフィルが一緒にいるところすら見たことがない。
(私と殿下すら時には甘々密着劇をしているというのに。おかしいわ)
マリーは確かに知らず知らずにフレッドの言う恋人ごっこを完璧にこなしていたのだ。
一線は越えてないし、キスすらままならないけど、際どいラインを上手く渡っているのを彼女は気づかない。
(テオ様に、サラを避けなければならない事情でもあるのかな)
例えば、気まずい事とか。
テオフィルに限って、まず無さそうだけど。
(気まずい事といえば、サラの方がある気がする。テオ様をモデルに官能小説書いてるし)
マリーはもやもやしたまま、サラの後を歩いた。
本来は夫婦である二人は同室であるべきなのだが、なぜか別の部屋だった。
部屋は隣同士であるが、バルコニーがつながっているわけでもなく、隠し通路があるわけでもなく、しっかりとした壁で区切られている。
マリーが不思議に思って辺りを見回していると、サラが感づいたのか、少し笑って寂しそうに言った。
「わたくしたちの部屋はまだないんです。テオは昔から使っている部屋で寝起きをしてますし、私はこの隣の部屋を改装したここで過ごしています。……あ、気になさらないでくださいね。不仲なわけではないんです。工事が、まだ始まらなくて」
4月に結婚しているというのに、まだ二人で住む部屋の準備すら行われていないという。
(おかしいわ……だって、殿下は数日で私の部屋と続き間になるように部屋を改装したと聞いたし)
マリーの婚約者、リシャールは古い教会で出会い、マリーを気に入った段階で婚約すらしてないのに勝手に自室を改造した。
10日ほど徹夜工事で改装工事を済ませたらしい。
職人さん、ごめんなさい。無理を言って申し訳ない。
マリーはリシャールの代わりに工事に関わった人物に同情する。
リシャールは冷酷非情と名高い氷華殿下であるため、期限までに終わらせないと殺されるとでも思ったのだろう(リシャールはそんなつもりではないが、多分相手が勝手に勘違いしたのだろう)。
マリーは、王族はその気になれば、なんでもありだな、と思っていたので、サラの部屋事情は信じられなかった。
(いや、殿下が異常なだけかな? いや、もう……わかんないや)
マリーはとりあえず、リシャールの事は考えるのをやめた。
マリーに、リシャールの考えていることはわからない。
リシャールも呆れながら、『貴様の頭の中身はほんとうに海綿が詰まっているのか、空洞なのか? 考え方が珍妙で……わからない』といつも呟くけど、マリーだって、彼の奇想天外な行動がわからない。
残念なことに、お互い、意味不明なのだ。
話は戻るが、マリーの会ったテオフィルは、確かにサラを愛していたし、手紙の件について心から心配していた。
彼の婚約期間は長く、サラの事を話す彼は深い愛に溢れていたし、テオフィルはマリーにすら嫉妬するほど恋焦がれている。
テオフィルは、本当にサラに惚れているからこそ、老若男女構わず、彼女が横恋慕されることを恐れているくらいだ。
だから、新婚というのに、こんな扱いをするような人物には思えなかった。
新婚といえばいつでも意味もなく、くっ付いているだろう。
煩わしいぐらいに。馬鹿みたいに。
暇さえあれば、身体が触れているはずだ。
甘い言葉を囁いてキャーキャー言っているはずなのだ。
マリーは王城に来てから、イチャイチャどころか、サラとテオフィルが一緒にいるところすら見たことがない。
(私と殿下すら時には甘々密着劇をしているというのに。おかしいわ)
マリーは確かに知らず知らずにフレッドの言う恋人ごっこを完璧にこなしていたのだ。
一線は越えてないし、キスすらままならないけど、際どいラインを上手く渡っているのを彼女は気づかない。
(テオ様に、サラを避けなければならない事情でもあるのかな)
例えば、気まずい事とか。
テオフィルに限って、まず無さそうだけど。
(気まずい事といえば、サラの方がある気がする。テオ様をモデルに官能小説書いてるし)
マリーはもやもやしたまま、サラの後を歩いた。
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