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冷酷非情な王子と修道女、恋人ごっこをする
答え合わせ
しおりを挟むマリーは群青よりも淡く、翠玉より深い瞳を呆然と眺めた。
瞳の奥に移るのは、頬を赤く染める栗毛色の髪を巻いた女――変装したマリー自身だ。
あまりのもリシャールが真っ直ぐ彼女を見据えるため、彼女はただ瞳を見つめ返すしかできなかった。
「こんな言葉ぐらい、いくらでも囁いてやるから、もっと私を見ろ。私だけをずっと余所見せずにな……そうだ。いらない事は考えるな」
彼は赤くなるマリーを見て嬉しそうに微笑み、先ほどから悪戯に恥ずかしくなる愛の言葉を囁いている。
時刻はちょうど12時過ぎ。
宮中に仕える者たちはお昼休憩中で、開けられた窓からは人々の何気ない会話が聞こえてくる。
「やっと休憩だ―ああ疲れた」
「今日は何食べる?」
「最近できた新しい飯屋は? あそこの店員、美人でさ」
「絶対恋人いるだろ。相手にされねーよ」
「なぁ、今夜飲みに行かねーか?」
「いいねぇ!」
なんて呑気で楽しそうな兵士たちの声。
それに比べ、自分は真昼間なのに、寝台の上でいったい何をしているのだろう、とマリーは思う。
「やめてください、こんなふざけた事は……」
「悪いな。やめれない。無理だ」
「こんなの、おかしいです、離して下さい……」
「離したら、きっと逃げていくだろう」
「そりゃ、全力で逃げますよ」
「追いかけっこでもしたいのか? 直ぐ捕まるからやめておけ」
ははっと口元だけで笑い、目が澱んでいるリシャール。
(なんか殿下、追い詰められている目をしているな。怖いな。全然笑ってないじゃない。だいたい、部屋に連れ込まれたかと思えばこの状況、……なんなの?)
甘い言葉と近い距離。
マリーは熱に浮かされるように頬を染めて、心臓の拍動を加速させて、彼に縫い付けられる様に寝台に転がされている。
最近、絵の勉強に読む少し大人向けの恋愛小説では、この先の展開は決まっている。
要は情事、秘め事、愛し合う、結ばれる、という言葉が妥当か。
もしくはマリーが弱者で、リシャールが強者なら、もっと直感的に言って――。
「私、もしかして、……殿下に食べられるんでしょうか?」
なんて素っ頓狂な言葉だろう。
しかし、この場でどうする手立ての無いマリーはそれくらいしか思い浮かばなかった。
彼が言う通り逃げても速攻で捕まる自信がある。
単純に身体能力の差だけではなく、魔力も差もある。
まるで赤子をひょいっと抱き上げるくらい造作の無い事だろう。
「最近、読んだ小説は、このようなシーンがありまして……まさかとは思いますけど……」
「そんな部類の小説を読む趣味があるのか。意外だな。どちらかというと主人公が阿保みたいに浮足立っていて夢見がちな、かつ、相手の男がじれったいほど奥手な純愛小説が好みじゃないのか?」
「……なぜ私の好みを知っているんです?」
マリーは怪訝にリシャールを見上げるが、リシャールは気にしないように続けて言った。
「直接的な描写がある官能系は興味がないかと思っていたが……」
(そんなに驚く事? 私が艶めかしい情事を読んだら変なの? 一応、成人しているんですけど?)
マリーは何故か馬鹿にされたようで気に食わなかった。
若干、ムッとして主張する。
「最近読み始めたのです。絵の、勉強になりますから。私の絵って、なんだか色気が足りないと指摘される事が多くて……」
「ああ、なるほど」
リシャールはなぜか納得した様だった。
マリーの挿絵を見た事が無いはずなのに。
そもそもマリーはリシャールにペンネームすら教えていないし、挿絵の仕事をしている事も伝えていない。
「殿下は知らないかもしれませんが、その様な物語では、だいたいこの手の場面は何か起きるんです。まぁ、そのような事が目的で描かれているので当たり前ですよね」
あはは、とわざとらしく、マリーは笑う。
「物語はそうですね。面白おかしくと言いますか、大袈裟ですし。あああ、とか、いやあああ、とかそんな台詞ばかり続くのです。私よくわからなくて。あはは。でも、これは現実です。ですので、殿下、その手をどけて頂けませんか? そのような事は有り得ません」
これはマリーの作戦だった。
危ういこの状況を打破するにはいかに別の事に気をそらし、そういう変な気を起させないという。
しかし、見上げたリシャールの顔はやはり全然笑っていなかった。
「殿下?」
「貴様はどう思う? 太陽が高いこの昼間に、私の自室で、この体勢。考えなくてもわかるだろう?」
リシャールは優しく、憐れむように微笑み、一段と距離を縮めた。
マリーの視界に映るのはリシャールのみ。
彼が少し屈めば、唇が触れそうな距離だ。
大好きな澄ました綺麗な顔がそこにある。
女性より長い睫毛も、羨ましいくらいきめ細やかな白い肌も、形の良い眉も、今は全部マリーのものなんだろうか。
ずっと遠くから眺めていた、凛々しいその人と自分の距離は僅か指一本分。
手を伸ばせば、立場とか身分とか関係なく、手が届きそうだった。
この胸の中に広がる熱と、艶めいた空気に飲み込まれれば、深いところまで溺れてしまいそうな危うさがある。
「そう、ですね。状況的には、食べられそうですけど、私全然美味しくないですし」
マリーには、腰に大きなやけどの傷がある。
それに加えて、色事は初心者で色気もなく、髪や瞳を変えても、社交界のきらびやかな令嬢たちに紛れたら気にも止められないような女。
そんな名誉ではない自信があった。
確実にあった。
天地をひっくり返しても、マリーとリシャールの間には埋められない差がある。
そんな彼女の常識を知らないのか、リシャールはやや眉をひそめる。
「いくら言い訳を重ねようとも、残念ながら、貴様はとても美味しい。間違いない」
「……え」
「まぁ、もう少し料理する必要はあるかな」
「……料理って、バラバラにするんですか? そっちの意味の食べると?」
マリーはこの状況で我ながらまた馬鹿な事を言っていると思った。
しかし、何か話さしていないとマリーは、リシャールにどんどん流されていきそうで怖くなり、口を開かずにはいられなかった。
「そうだな……料理はまずは素材、鳥肉だったら食べやすいように羽を千切って皮を剥いて、一番おいしい調理方法……つまり程よく焼いて食べるべきだろう。貴様の場合は、まずはその邪魔な服を脱がして」
「……脱がして?」
「……無理矢理はあまり好みじゃないから、もっと熱を与えて」
「まさか火炙り? やはり殿下、今までの不敬罪を根に持って……」
「炙るというより、さするというか、あたためるというか。その……愛情を持ってだな。何を言わせるんだ、貴様は」
リシャールはなんだか少し照れている。
これは料理の話のはずだ。
鳥のソテーの話。
「料理は愛情が大切ですね。それわかります。おいしくなりますよね、愛って大事ですね」
「なんだか分からないが、少し話が通じたようだな」
「ええ! 私もサンドイッチ作る時は殿下に喜んで欲しいなと思いながら作りますし、それと同じですね!」
「そう、ただ料理すればいいってものじゃないしな。過程が大事なんだろう。思いやりってやつか。……目的のために、必要ではあるが前置きもなしに、いきなり穴を開けたら痛いしな」
「目的?……穴」
なんだか物騒なワードが出現した。
「貴様だって痛いのは嫌だろう?」
リシャールは、思いっきり甘い笑顔だ。
今までになくリシャールはにっこりしていて、何も知らない人が見れば美しい王子様がきらきら笑っている神聖な絵面だが、今までの彼との関わりからあり得ない光景であり、マリーは愕然とした。
(ここで笑うの?! 今までで一番の笑顔じゃない)
「殿下には、おすすめしません。私はおいしくないです! もっとおいしそうな女性を――」
おすすめします、と言いかけた時、マリーは身を捩って距離を取ろうとすると、リシャールに体を引き寄せられた。
その瞬間、硬いものが首に当たったかと思うと、一気に歯を立てられた。
マリーは首をかぶりと噛みつかれたのだ。
「……いたぁっ。いきなり何を……」
マリーは思わず、手で噛まれた首を確かめてみるが血は出ていない。
「いつまで待てば気がすむんだ? 伝えても伝わらない好意を認識するまで? 結婚するまで? もしかして、永遠か?」
リシャールは少し暗い雰囲気で、低い声だった。
「私は美味しくありまあ、や、やめ」
がぶ。
今度は肩に甘噛みされた。
噛まれた瞬間は痛みは伴うが、少しジンジンするくらいの淡い痛みだけが残る痕を残される。
「ああ、これじゃあ、首周りの空いた服は切れないな」
マリーの細い首筋にはくっきりと歯形が付いている。
どうみても男性の。
それは痛くて甘い証。
「貴様は首まで覆う服は持っていなかっただろう? 傷が治るまでここにいるしかないな。それとも、その傷を晒して日々を過ごすか……どうする?」
リシャールは同情するかに様に憂い込めて見つめて来るが、長い指先は先ほど噛んだ場所をなぞって遊んでいる。
困ったことに触れられる度、熱を伴った。
「なぜこんなこと」
信じられないと言うばかりにマリーは見つめ返す。
「……あんなに、優しくしてやったのに、貴様という女は浅はかで悲しいな」
リシャールは、伏目で思案しているようにつぶやいた。
それだけで長いまつげが目立ち、男の人とは思えないほど美しく、なんだかとても哀愁漂う。
「でもまぁ、こういうのは、邪魔が入らないもっと早い段階で、誰でもわかるくらいわかりやすく伝えるべきだったのかもしれないな」
「……なにをおっしゃっているかわかりません」
「ああ、嫌になる。もう私は悩みたくないんだ。頼むから黙って聞いてくれないか」
「は、はぁ」
「もう少し貴様の変な理屈ぬきで常識的に考えてほしい。現実から目を逸らすな。理解してくれ、せめて。……今夜はゆっくり眠りたいんだ」
「眠ればいいじゃないですか。こんなに素敵なベッドがあるのに。私は殿下が全然わかりません!」
「寝ても覚めても貴様は……言葉が通じない」
先ほどから甘い言葉を言ってからかってくるかと思えば、痕をつけられ、ぶつぶつと。
「あの、殿下。こういう事はふざけてする事じゃないと思うんです」
いくらリシャールの機嫌取りが仕事だとしても、こんなことは寛容していいはずがない。
仮に婚約者でも結婚していないのだから節操がないのはやはり良くないと思う。
マリーは、フレッドに言われてからいろいろ考えたが、こんなじゃれあいなら本当の恋人とするべきだ。
「この手は好きな人に触れて下さい」
「……は?」
「いい加減、私で遊ぶのはおやめください」
「遊ぶ?」
リシャールらしくない、オウム返し。
「適当に身近な女ならあいつがいちばんちょろい、手軽みたいなものでしょう? 私だって、そこまで愚かではないです」
自信満々でマリーは述べた。
その言葉が彼をどれほど傷つけるか知りもしない。
(私をドキドキさせて楽しんでいるのね。それ以外、戯れる意味がわからない)
マリーの自己評価はかなり卑屈だが、実際にすこしとろい所があって、伯爵令嬢の時は幼馴染の婚約者に疎まれ、蔑ろにされた記憶もある。
「ああ、あいつが婚約者か、残念だなぁ」と影で言われた事がある。
令嬢の時はどこか野暮ったく、修道女になってからは任務もチームでしか任せられないお荷物。
腰の傷は弟を守りきれた証であるから後悔はないにせよ、女性としては誰が見ても傷ものだ。
マリーにとってリシャールは能力も高く、憧れもある。
マリーから、あからさまな好意は向けていたが、恋愛のそれとは違う。
例え、夜になると頭の中でそういう未来があったら、と考えるが、現実で望むほど烏滸がましくなりたくなかった。
マリーは、王都に恋愛しにきたのではないのだ。
ましてや国の王子様の、相手など務まるわけない。
落ちこぼれの、修道女が。
それはリシャールが一番分かっているのではないだろうか。
マリーは憧れだった彼に好かれるのは嬉しいが、からかわれ、軽んじられるほど悲しい事はない。
リシャールがマリーの事が好きになる理由が全く思い浮かばなかった。
「私を侮辱しているのか?」
「まさか。でも、殿下が私を好きなんて有り得ないのです」
どう考えても、いつ考えても。
(一緒にお茶をする親しい友達程度。あ、でも友達ですらないか。全ての差があり過ぎる。……だって、そうでしょう? そうじゃなきゃいけない)
「貴様以外に触りたい者はいない。今までも、これからも」
そんな風に言われたら、あなただけに触れたいくらい愛しているに聞こえてしまう。
あなた以外を愛した事はないし、過去もこれからもずっとみたいな言葉だ。
一番、ほしい言葉かもしれない。
でも、これ以上は、勘違いしてしまうから、やめてほしい。
不意に何度も現れて、彼らしくなく優しく、甘く触れないでほしい。
これ以上、自分の中で思い出を増やさないでほしい。
このままでは、マリーは修道院に帰りたくなくなってしまう。
その時が来たら、一生この甘い夢に囚われて、ずっと忘れられなくなってしまったら、どうすればいいのだろうか。
だから、そうなる前に。
ちゃんと線を引かねばならないのだ。
「そんなわけない……!」
リシャールは不快そうに顔を歪めた。
しかし、マリーは信じられず、睨み返す。
しばらくの沈黙ののち、リシャールは何を思ったのか、また首筋に口づけしようとするが、マリーは手で遮った。
だが、あっけなくマリーはすぐにその手を掴まれる。
「私とあなたは相応しくない」
泣き出さず、かろうじて口から出たのは、絞り出したような、自分で言って、自分を傷つける言葉だった。
「不釣り合いと決めつけているのは貴様だろう。……それほど私が嫌か」
「そう、いうわけじゃ……」
「なら、なんなんだ?」
自分に自信がない。
それが一番しっくりくる言葉だった。
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首筋の痕を唇が這う。
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マリーは聞いたことのないような変な声が漏れてしまった。
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(私はそんなにはしたない顔をしているの?)
口では拒絶しておきながら、マリーは顔を赤らめて、嬌声が意に反して漏れて、死ぬほど恥ずかしかった。
「考えられるとすれば、貴様は自身を卑下しているか、余程……私に惚れているかどちらかだろう。どちらかな?」
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