私は修道女なので結婚できません。私の事は忘れて下さい、お願いします。〜冷酷非情王子は修道女を好きらしいので、どこまでも追いかけて来ます〜

舞花

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冷酷非情な王子と修道女、恋人ごっこをする

夜になる前に②

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 次の日は抗議しようとまた執務室へ行った。
 今度は一人で。

「ああ、今日も暇なのか。だったら、城の中を探索してレポート提出しろ」とリシャールに言われ、使用人に案内され、探検開始。

 なぜ、殿下、仮にも婚約者にレポートを提出しなくてはいけないのか?
 疑問は深まるばかりだが、マリーは大人しく指示に従い、翌日レポートを提出。

 その日の帰り際に渡されたレポートには細かく訂正、説明付きコメントが有った。
 点数は「結構甘く付けてみた。30点以上はやれないな」と言う事だそうだ。

「もっと城の作りを自分なりに考察できていればよかったが。まぁ、図書棟だけは上手くかけている」  
 しかし、これは褒めているうちに入るのだろうか、とマリーは疑問に感じた。

 ちなみに図書棟は13階からなる塔で、王家が管理する貴重な資料保管庫だ。 
 建物の中は螺旋階段になっており、壁に隙間なく貴重な本が保管されている。 
 そこの管理官とたまたま仲良くなり、いろいろ棟について説明してもらったのだ。
 だから、ほかの場所より上手くかけていたのだろう。

 結果、マリーは婚約についてまともに話せないまま、執務室に通う事となった。

 マリーは何故リシャールと婚約することになったのか。自分が何のために選ばれたのか。
 何も聞けないまま、マリーはソファに座り、持参した本を暇つぶしに読んだり、図書棟で本を閲覧したり、庭の薔薇園を散歩するしかなかった。

 10日ほど経ってから、マリーは執務室に通う事がとても無意味な行為と気づき、リシャールとの婚約の事は一旦忘れて令嬢らしくサロンや習い事に没頭してみると、3日もおかずにマリーの予定が全て無くなった。

 ブラン侯爵曰く、「習い事はもう十分ですね。マナーもダンスもお上手ですし、あとは実践あるのみです。あ、そう言えば、リシャール殿下があなたを直々に指南されるとの事です。サロンについては、城で行われているものは予定にいれておきました。暇だったら参加してください。ええっと……私は決して、長い物に巻かれたわけではありませんよ。でも、詳細は聞かないでください」と。  

 その時からマリーの予定で城に関わらないものが華麗に消えた。
 どう考えてもそれはブラン侯爵よりも地位が上の者の仕業だった。
 しかもブラン侯爵のあの怯えっぷり。
 犯人は考えるまでもない。




 後日、マリーはフレッドに婚約の件についてに問うてみた。

「おれが聞きたいよ。何したのさ。君」
「何もしてないよ、あんまり綺麗な人だからちょっと、……声掛けてみただけだよ」
「冗談で氷華殿下におねだりして絵でも描かせてもらえといったのはおれだけどさ。あの、氷華だよ? ふつう、正常な人間だったら近づかないよね?」
「まさか殿下だとは思わなくて。イメージと違って、案外、優しい時もあって……」
「え? 優しい? なにそれ。あんな怖い人、王子じゃなかったら犯罪者だよ? 毎日会っているって知った時は卒倒しそうだったよ。……おれが知った時にはもう手遅れだったんだ」
「……」
「気づかなくてごめん。マリーが規格外に呑気なの忘れていた。これじゃあ、マリアちゃんに合わす顔がないよ。一生話してくれないかも。ただでさえ毛嫌いされて汚物扱いされているのにっ、あああ」
「フレッド、ご、ごめんね?」
「殿下はルール違反だ」

 フレッドは苦虫つぶした顔だった。
 ルール違反。
 マリーは修道女として任務で派遣されている。
 それなのに、リシャールはマリーに結婚を迫ったのだ。

「マリーは普通の令嬢じゃないんだよ。このままじゃあ、ユートゥルナ様に合わす顔がないよ」 

 修道女はユートゥルナ――神の物だ。
 常識的に考えれば、いくら王族といえど許可なく無断に修道女と結婚できるわけないはずだった。

 しかし、リシャールに常識は通じない。
 しかもここは辺境の修道院から離れた王都。
 王位第一継承権を持つ彼は、この国の王に次ぐ権力者だ。
 王都での権力はリシャールの方が強い。

「でも、もう過去には戻れないから、無事に任務を成功させるまでに脱出経路を考えよう!」 

 修道院に入ればリシャールの権力は及ばない。
 ユートゥルナが絶対優勢だ。
 一歩修道院に入れば、マリーは二度とリシャールに会うことはないだろう。

「殿下は確実にやる時はやるよ? マリーが逃げると確信したら、既成事実どころかとっとと子供まで作るかもね。一番確実な日、時間を計算して、馬鹿みたいに……」

 馬鹿みたいに……? 
 フレッドはそれ以上言うのが躊躇われて、気まずそうに言葉を汚した。

「そうしたら、君の子は貴重な王族だからもう逃れないよ。だから、修道院に帰るまでは、絶対殿下に変な気を起させない事。分かった?」
「う、うん。でも、どうすればいいの……?」

 マリーには分からない。
 どうすればこの問題を上手くこなせて、無事に修道院に帰れるか。

 間違っても、マリーは王族にはなれない。
 無理だ。修道女より向いてない。

 リシャールは今はちょっと変な気を起しているが本来優秀な人であるし、ちゃんとした教育された令嬢こそ彼にふさわしい。
 それが間違いのない事実だ。

「婚約者らしくしていなよ」
「は、はぁ?」
「要は、恋人らしくして、そこそこ殿下を満足させてあげれば、そんな簡単に襲われたりしないだろ?」

 この日から、恋愛経験皆無地味修道女マリーが一国の王子相手に恋人ごっことする事になったのだ。


 辛い話題は置いておいて、最近のいい話と言えば。
 リシャールはいろいろいわれのある人物だが、婚約者となった今でもマリーにとって『安全な存在』だった。

 極論言えば、気が振れてさえなければ、昼間から手を出してこない。
 仕事中なら青ちゃんの方が興味あり。見ているだけで癒されるらしい。
 リシャールは真っ昼間からジャンみたいに口説いたり、発情することはない。

 結論的には、この前はちょっと危険な雰囲気だったけど、あれは夜のせいで、太陽が沈む前に屋敷に帰れば大丈夫!だった。
 彼は節度と常識ある人物でよかった。
 だから、マリーは日が暮れる前に屋敷に帰っていた。

 ちなみに任務に関しては、日が暮れてから例の事件現場をフレッドとともに回っている。
 路地裏や令嬢が消えたとされる果汁園、浴場付近も探索したが、足取りは掴めず、証拠すらなかった。
 おとり捜査で夜の街を歩いてみたが、声をかけてくるものもいなかった。
 街は夜も明るく街灯が照らし、屋台が並んで、平和を描いたような王都。
 リシャールの結婚、婚約のニュースにかき消されて、表沙汰にはならない物騒な事件など誰も知らずに今日も人々は暮らしていた。
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