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恋人ごっこまでの経緯
偽物づくしの侯爵令嬢
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「あんまり乗る気じゃなさそうだね~。社交界デビューに休暇、結構いい条件だと思うんだけどなぁ。煌びやかなシャンデリア、華やかなドレス、食べるのがもったいないくらい可愛いお菓子たちが君を待っているんだよ?」
人生で一度は美しい装飾の施されたドレスを纏い、宮殿でダンスを踊ってみたいというのは乙女の夢かもしれない。
それでも、朝一に顔についた絵の具を落とすようなマリーに、その優雅な世界に溶け込めるだけの技術はあるだろうか。
そこが一番不安だった。
いくら綺麗な格好で誤魔化しても、マリーの黒髪は派手な色には負けるし、紫瞳は魔女のような不思議な輝きを持つ。
浮いてしまうんじゃないか? と。
「嬉しくないわけじゃないんです。ただ、ちゃんと令嬢になりきれるか不安で。あまり令嬢にそぐわないと、ミッションをこなせる気がしません」
「そぐわない? 君は僕にとって大切な女の子だよ。また自分を卑下して。そういうところはあまり好きじゃないな」
マリーは卑下しているわけじゃない。
仮にも、貴族だったころもある。
幼い頃、マリーがまだ伯爵令嬢だった時に見た貴婦人は、皆穏やかな笑みを浮かべ、美しい所作をし、何気ない話から人脈を広げていた。
貴族とは美しさと知性を兼ね備えたものである。
ただ、髪型やドレスを変えたところで、それは貴族になるのか、と言う事だ。
「シンデレラって童話を知っているかい?」
ユートゥルナは白いステッキをポケットから取り出した。
「ええ、あの有名な御伽噺ですよね。南瓜の馬車で舞踏会に向かう……」
「そう。王子様は身分を問わず国中から娘を王宮に寄せ集めて結婚相手を決めようとするところにシンデレラという謎の娘が現れて追いかけ回す話」
ちょっと違うような気もするが。
その言い方だと、王子様が粘着質な男になっている気がする。
「僕が君の魔法使いになってあげるよ。君を美しいけど、令嬢になる魔法は必要かもしれないしね」
ユートゥルナが白いステッキを振ると、きらきらと星屑のような光が落ちた。
なんだか童話にあるシンデレラの魔法使いっぽい。
シンデレラとは、確か灰かぶりの娘の話だ。
そのシンデレラという名前は、掃除に洗濯、暖炉の炭の片付けばかりしていて彼女が汚れているのをもじった呼び方だ。
私は絵の具かぶりかも、なんて思いながら、神様が楽しそうなので、マリーは観念して魔法に付き合うことにした。
「今日から君は令嬢だ。地方の侯爵令嬢。名前は、ローゼ。まずは修道院関係者とばれないように変装……でなく、変身が必要だ。うん。この際徹底的にしよう」
またユートゥルナがステッキを一振りすると、星屑が降り、マリーを囲んだ。
「髪色はなにがいい? 煌めくブロンド、軽やかなブラウン、魅惑的なアッシュかなぁ」
マリーの髪の色が様々な色に変化する。
魔法というのは、攻撃や実用性を重視したものが多いが、御伽噺みたいな綺麗な物もある。
ユートゥルナは神様というだけあって、今この部屋は煌びやかな様々な色の光に包まれ、とても幻想的だった。
圧倒的に魔力が強いので魔本なしで、魔法が使える。
その気になれば、ステッキなんて道具はいらない。
神である彼と魔器を使用しないと魔法が使えない人間との差は大きい。
世界で彼一人だろう。
「髪なら染めましょうか? ちょうどまだ変装用の染め粉が残って……」
「ダメダメ。ここは僕にまかせて! うん、今回は清楚系で栗毛色にしよう、すこしウェーブも。顔は可愛いからそのままで、瞳は紫色は素敵だけど珍しいからエメラルドに変えておこう」
きらきらとした光の粒がマリーに降り注ぐ。
まるで御伽噺の魔法だ。
マリーは近くにあった姿見を覗き込む。
(これが私?)
髪色や瞳色を変え、髪を下ろしているだけだけど、ずいぶんと印象が違う気がする。
垢抜けている、というか柔らかい雰囲気というか。
ユートゥルナは口元を押さえていた。
かすかに顔が赤くなっている。
「どう、されたんですか」
「どう、って、そりゃ……」
あきらか分が悪そうな彼は、ぼそっと言った。
「綺麗だよ、マリー。……思った通りだ。いや、それ以上かも。いつもの君も素敵だけどね」
少しのおしゃれと、幻想的な演出のせいか、別人になったようだった。まぁ、本物の令嬢ではないが。
あとは着飾ってくれた神様の気持ちが嬉しかった。
誰も灰かぶり? ではなく、絵の具まみれだと思わない。
「はぁ……ほんとう、令嬢役なんてやったらもっと可愛く着飾って、心配だなぁ……僕何やってんだろう」とか「襲われたらどーするんだよ、あんま外に出したくなかったのに、仕方ないよねぇ……」
とか微かな声でぶつぶつ呟いたが、マリーには聞こえなかった。
「ん? ユートゥルナさまどうかされました?」
「ううん。全然、何でもないよ、気にしないでいい」
ユートゥルナは必死で微笑みを浮かべる。
「……シンデレラよくきいて」
「はい。魔法使いさん」
ユートゥルナはシンデレラの設定にこだわるので……まぁ、ここまでしてもらって付き合ってあげないのもかわいそうなので、マリーは話を合わせてみた。
彼なりにマリーを勇気づけて送り出そうとしてくれているのだ。
「この砂時計が落ちるまでにかえること。それが約束。これが君が魔法から溶ける時間を示すから」
ユートゥルナは小ぶりの砂時計を渡した。
それはミッションスタートの合図だった。
「帰ってきたら君に、大事な話があるから、忘れないでね。真っ直ぐ、僕の元に帰ってくるんだよ」
「はい」
「寄り道しない事、いい? 僕は、ずっと君の帰りを待っているから」
ユートゥルナは、切なげに目を細め、マリーの頭を撫でた。
話ってなんだろうか。
たぶん、昇進試験の結果についてだろう。
(ああ、合格しなかったら、クビかな?)
ほんとうにマリーは、マリアにお世話になるべきかもしれない。
この時すでに、田舎でカフェでスローライフってやつがはじまるのかな、とマリーは思い始めていた。
まぁ、ヘマして王族に罰せられなければの話だけど。
マリーの運命は、最高に良くて昇進試験合格で修道士としておいてもらう事だ。
また、幸運であれば、マリアに頭下げて一緒に暮らしてもらう平和な未来。
最悪の事態では無礼を犯して王族に処罰される。
さらに、最悪の最悪の場合、墓荒らしとか死者蘇生にハマっている氷華殿下の実験台になる。
最悪の最悪の最悪の場合は人肉好きの氷華殿下の夕食なる事だった。
マリーに今から帰る家もない。
できれば、修道士として、お世話になった分働きたかった。しかし、今回の任務は合格できるかどうかは神のみ知る、だ。
こうして、侯爵令嬢という身分も嘘、
髪色や瞳も作り物、
婚約者も執事も周りを欺くため偽物、
令嬢の皮を被った修道女の、虚偽令嬢が完成したのだった。
人生で一度は美しい装飾の施されたドレスを纏い、宮殿でダンスを踊ってみたいというのは乙女の夢かもしれない。
それでも、朝一に顔についた絵の具を落とすようなマリーに、その優雅な世界に溶け込めるだけの技術はあるだろうか。
そこが一番不安だった。
いくら綺麗な格好で誤魔化しても、マリーの黒髪は派手な色には負けるし、紫瞳は魔女のような不思議な輝きを持つ。
浮いてしまうんじゃないか? と。
「嬉しくないわけじゃないんです。ただ、ちゃんと令嬢になりきれるか不安で。あまり令嬢にそぐわないと、ミッションをこなせる気がしません」
「そぐわない? 君は僕にとって大切な女の子だよ。また自分を卑下して。そういうところはあまり好きじゃないな」
マリーは卑下しているわけじゃない。
仮にも、貴族だったころもある。
幼い頃、マリーがまだ伯爵令嬢だった時に見た貴婦人は、皆穏やかな笑みを浮かべ、美しい所作をし、何気ない話から人脈を広げていた。
貴族とは美しさと知性を兼ね備えたものである。
ただ、髪型やドレスを変えたところで、それは貴族になるのか、と言う事だ。
「シンデレラって童話を知っているかい?」
ユートゥルナは白いステッキをポケットから取り出した。
「ええ、あの有名な御伽噺ですよね。南瓜の馬車で舞踏会に向かう……」
「そう。王子様は身分を問わず国中から娘を王宮に寄せ集めて結婚相手を決めようとするところにシンデレラという謎の娘が現れて追いかけ回す話」
ちょっと違うような気もするが。
その言い方だと、王子様が粘着質な男になっている気がする。
「僕が君の魔法使いになってあげるよ。君を美しいけど、令嬢になる魔法は必要かもしれないしね」
ユートゥルナが白いステッキを振ると、きらきらと星屑のような光が落ちた。
なんだか童話にあるシンデレラの魔法使いっぽい。
シンデレラとは、確か灰かぶりの娘の話だ。
そのシンデレラという名前は、掃除に洗濯、暖炉の炭の片付けばかりしていて彼女が汚れているのをもじった呼び方だ。
私は絵の具かぶりかも、なんて思いながら、神様が楽しそうなので、マリーは観念して魔法に付き合うことにした。
「今日から君は令嬢だ。地方の侯爵令嬢。名前は、ローゼ。まずは修道院関係者とばれないように変装……でなく、変身が必要だ。うん。この際徹底的にしよう」
またユートゥルナがステッキを一振りすると、星屑が降り、マリーを囲んだ。
「髪色はなにがいい? 煌めくブロンド、軽やかなブラウン、魅惑的なアッシュかなぁ」
マリーの髪の色が様々な色に変化する。
魔法というのは、攻撃や実用性を重視したものが多いが、御伽噺みたいな綺麗な物もある。
ユートゥルナは神様というだけあって、今この部屋は煌びやかな様々な色の光に包まれ、とても幻想的だった。
圧倒的に魔力が強いので魔本なしで、魔法が使える。
その気になれば、ステッキなんて道具はいらない。
神である彼と魔器を使用しないと魔法が使えない人間との差は大きい。
世界で彼一人だろう。
「髪なら染めましょうか? ちょうどまだ変装用の染め粉が残って……」
「ダメダメ。ここは僕にまかせて! うん、今回は清楚系で栗毛色にしよう、すこしウェーブも。顔は可愛いからそのままで、瞳は紫色は素敵だけど珍しいからエメラルドに変えておこう」
きらきらとした光の粒がマリーに降り注ぐ。
まるで御伽噺の魔法だ。
マリーは近くにあった姿見を覗き込む。
(これが私?)
髪色や瞳色を変え、髪を下ろしているだけだけど、ずいぶんと印象が違う気がする。
垢抜けている、というか柔らかい雰囲気というか。
ユートゥルナは口元を押さえていた。
かすかに顔が赤くなっている。
「どう、されたんですか」
「どう、って、そりゃ……」
あきらか分が悪そうな彼は、ぼそっと言った。
「綺麗だよ、マリー。……思った通りだ。いや、それ以上かも。いつもの君も素敵だけどね」
少しのおしゃれと、幻想的な演出のせいか、別人になったようだった。まぁ、本物の令嬢ではないが。
あとは着飾ってくれた神様の気持ちが嬉しかった。
誰も灰かぶり? ではなく、絵の具まみれだと思わない。
「はぁ……ほんとう、令嬢役なんてやったらもっと可愛く着飾って、心配だなぁ……僕何やってんだろう」とか「襲われたらどーするんだよ、あんま外に出したくなかったのに、仕方ないよねぇ……」
とか微かな声でぶつぶつ呟いたが、マリーには聞こえなかった。
「ん? ユートゥルナさまどうかされました?」
「ううん。全然、何でもないよ、気にしないでいい」
ユートゥルナは必死で微笑みを浮かべる。
「……シンデレラよくきいて」
「はい。魔法使いさん」
ユートゥルナはシンデレラの設定にこだわるので……まぁ、ここまでしてもらって付き合ってあげないのもかわいそうなので、マリーは話を合わせてみた。
彼なりにマリーを勇気づけて送り出そうとしてくれているのだ。
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ユートゥルナは小ぶりの砂時計を渡した。
それはミッションスタートの合図だった。
「帰ってきたら君に、大事な話があるから、忘れないでね。真っ直ぐ、僕の元に帰ってくるんだよ」
「はい」
「寄り道しない事、いい? 僕は、ずっと君の帰りを待っているから」
ユートゥルナは、切なげに目を細め、マリーの頭を撫でた。
話ってなんだろうか。
たぶん、昇進試験の結果についてだろう。
(ああ、合格しなかったら、クビかな?)
ほんとうにマリーは、マリアにお世話になるべきかもしれない。
この時すでに、田舎でカフェでスローライフってやつがはじまるのかな、とマリーは思い始めていた。
まぁ、ヘマして王族に罰せられなければの話だけど。
マリーの運命は、最高に良くて昇進試験合格で修道士としておいてもらう事だ。
また、幸運であれば、マリアに頭下げて一緒に暮らしてもらう平和な未来。
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さらに、最悪の最悪の場合、墓荒らしとか死者蘇生にハマっている氷華殿下の実験台になる。
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