チロ

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愚か者

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「どうぞ」

注文していた紅茶が運ばれてきた。

「ありがとうございます」

頭を下げ店員が下がっていく。

ここでは紅茶が名産品らしく、飲んでみたかったので楽しみだ。

一口啜る。あまり口に合わない。まあ、こういうこともあるか。

「すいません相席いいですか」

一人の若い大きな男に声をかけられた。どうも席が空いていないようだ。

「構いません、どうぞ」

「ありがとう」

その男は店員を呼ぶと紅茶を注文した。

「お兄さんは旅人か何かかい」

どうしてわかったのだろう。

「そうです」

「やっぱり、この店で紅茶を頼むような物好きは僕か外から来た人ぐらいだからね」

「物好きとはどういった意味で」

「だってほら大して美味しくないでしょ、ここの紅茶」

「そうですね、ここの名産品と聞いてたんですけど残念でした」

「もう名産品じゃない、名産品だったんだよ」

僕が聞いたのは古い情報だったわけか。

「どうしてもう違うんですか」

「昔いた王族が紅茶が好きだったんだけど、この国で革命が起こってね、その時に変わってしまったんだ」

なるほど。

「そうだせっかくだし聞かないかいその時の話、ほら、土産話ってことで」

意味が違う気がするが、話してくれるというのなら聞こう。

「ではお願いします」

「おっけー、まあ、僕も半分聞いた話なんだけどね」

そうして男は話し始めた。

この国には昔、4人の王族がいたんだ。

その王族は王も女王も王女も幼い王子までもが荒くれ者で国民から嫌われてた。

そんな王族を見かねてある時一人の男がこんなことを言い出したんだ。

「このままでは平和な暮らしを続けることはできない、俺たちの手で王族をやっつけるんだ」と。

その言葉に多くの国民たちは動き出した。

そして、国民たちは王族が住む城へと火を放ったんだ。

城はみるみるうちに燃えていく。

「やったぞ、俺たちは平和を掴んだんだ」

そう言って国民たちは喜びあった。

それからははじめに声をあげた男を革命者と呼び、その男を中心に国を作り直していったんだ。

それから数年経ったある日、革命者の元へ1人の女が訪ねてきた。

「私は旅をしていたものですが、賊に襲われて全て奪われてしまいました、ですのでどうか私を助けてはくださいませんか、もちろんなんでもいたしますので」

それを聞いた革命者はわかったと頷くとその旅の女を自分の使用人として自分の家へ住まわせたんだ。

初めは優しかった革命者だけど、次第に旅の女に対する態度が悪くなっていった。

それからしばらく経ったある日、女は暗くなり革命者寝静まったタイミングを狙い男を刺殺した。

「あなたが本当にいい人だったなら私の家族を殺したことを許してあげてもいいと思ったけど結局その程度の人間だったのね」

その旅の女は実は生き残っていた王族の王女だったんだ。初めから家族の復讐を狙い男へと接触していた。

「それにしても愚かな人ね、私が王族の人間だって気づかないなんて」

翌日、女は殺人の罪で処刑されてしまった。



「ってのが数年前の愚かな王族の話だよ、まったく笑える話だろ旅人さんよ、俺が初めから王女のことに気づいてて寝る時だけ別の男とすり替わってたってのに気づかないなんてよ」

「それは面白い話ですね、ところでその話はべらべらと喋っていいような話なんですか」

「いいに決まってんだろ、もう俺を憎む王族はいないんだからな、それにやってきたところで顔はわかってんだ、鋭い目つきの王、えくぼのある女王、死んだ王女に小さな王子、どいつがやってきてもすぐわかるよ」

「へえー、そうなんですね」

グサッ

「どうして、いきなり、そんな......」

革命者は旅人を名乗る男に心臓を刺されました。

「そうか、お前.....、大きくなったな王子......」

バタッ

「僕が王子だと気づかず自ら全て話してしまうとはとんだ愚か者だな」


「ってことがあったんだよ昔」

若い男は一通り話終わるとこちらに笑顔を向けてきた。

これは僕が聞いてもいい話だったんだろうか。

「そんな怯えないでよ旅人さん、僕はこれ以上悪事を積み重ねる気はないよ」

どこまで信用していいのやら。

「それに王族が暴君だったってのは事実だから、国民ばかりを責めるわけにはいかないしね、姉を貶めたあの男をこの手で殺せたってだけで満足だよ」

男は爽やかな顔をしていた。

「さーて、この国はこれからどうなっていくんだろうね」










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