上 下
35 / 51

公国の騎士

しおりを挟む
アウグスト王は、戦場の後始末を
王弟のガリバルドに託し
後ろに、騎兵達を引き連れて
たった、一騎で、駆け抜けて行った
騎士の姿を追っていた。

先を急ぐ、王の後ろには
騎兵達が従って、ついて来ている。

戦いは、先ほど、終わったとはいえ
敵が追撃を待ち伏せしている
かもしれず、まだまだ、何が起るかもわからず
安心は出来ない。

王は後始末のために、戦いが終わった戦場を
駆けまわってくれた、騎士達の報告から
後方で、何が起きたかは、既に理解はしていた。

「王よ、ソフィアさまが……」
「それは本当か?」

「はい、間違いありません」
「しかし、水の巫女殿が、来ているはずだが」

「水の巫女さまは、どこにも見当たらないそうです」
「それでは、誰が、雪を降らしたのだ?」

「わからぬとのことです」
「巫女でもない者の仕業とすれば、まさか……」

「まさかと、申されますと」
「いや、それは、後にしておこう」

「わかりました、ベルナルド様の事ですが」
「ベルナルドは、ミストラルを、出迎えに行ったのか?」

「はい、ベルナルド様は、アリア様を、出迎えにいったとの事」
「ベルナルド、気持ちは解かる、しかし……」

「すでに、騎兵達は、集まってきております」
「すまぬ……」
 
「たった1騎で、しかも、間に合うというのか……」
「とにかく、急ぎ、後を追いましょう」

「後始末はガリバルド様に、任されるのですか」
「そうだ、ここは、やってもらう」

「では、準備が出来次第、行くぞ」
「はっ」

ベルナルドの抜きん出た強さは、王も知っている。
だが、王が心配するのも無理はない。
追撃を阻止しようとする、敵が待ち構えてるかもしれず
一人では危険だ。


渓谷を、急いで抜けようと
疾走するベルナルドの正面から
騎兵の集団が、向かってくる。

シーザリアが、撤退したすぐ後に
まるで誰かが、操っている芝居のように
都合よく、ミストラル軍が、こんな場所にいるはずがない。

追撃を待ち構えていた、敵がいたのだと思い、緊張が走る。

剣を抜いて、戦って、突破する、覚悟を決めるしかない。

「!?」

ベルナルドは、戦いで
死ぬはずだったところを
救ってくれたのは
腰にある剣ではないかと考えている。

再び、あの時と、同じ想いをこめて
剣を手にしようと、決意したその時だった。

正面から駆けて来ている、騎兵の集団から
槍先に、ついた軍旗が、素早く、掲げられる。

「!?」

こちらへ向かって、突き進んでいく
馬上で向かい風に、なびいている軍旗は
ミストラルのものだ。

まさかと思った、ベルナルドは
そのまま騎兵の集団の前まで駆けていき
前で立ちふさがる。

たった一人で、しかも
剣を抜いて、戦う構えも、見せておらず
さらに、上半身の鎧を脱ぎ捨てているためか
相手もそれほどまでに、警戒もしてないようだ。

「どう、どう、どう」
「ヒーヒヒヒ、ヒン」

「もしや、ミストラル軍か!」
「そうだが、こちらは先を急ぐ、速やかに前を、どかれよ」

先を急いでいるので、脇に避けてもらうために
警告として、軍旗を掲げたのだろう。

相手の期待とは逆に、馬を止め
わざと進路の前に立ちはだかっている。

「我が名は、ベルナルド・ブルーバー、ラーラント」
「ブルーバー、ラーラント!?本当か?」

「そうだ、貴国の同盟国、ラーラントの王太子だ」
「王太子さまなら、なぜ、たった1騎で、何用か?」

「水の巫女、アリア様を出迎えに来た、こちらも急いでいるんだ」
「アリア様なら、ここにはいない、後ほど渓谷に、お連れする」

「わかった、邪魔をして、すまない」
「わかったなら、速やかに、そこを、どかれよ」

たった1騎で、同盟国の王太子を名乗る
怪しい相手だと見られてしまっているようだ。

水の巫女、アリアを狙った、シーザリアの暗殺者かもしれないと
誤解されていて、アリアがいる事を隠しているのかもしれない。

シーザリアのヴェサリウス王は
この手の、行き過ぎているとしか思えない
ミストラル軍を装った
偽装作戦を、取るような人物とも思えない。

質問を終えたベルナルドは
馬を、ミストラル軍の前からどかせて
脇を走り抜けようとするが
すれ違いざまに護衛をしている
魔道師達が、いるためか
後ろには、ミストラルの騎兵が
監視役として、目を話さないように
警戒して、ついてきている。

先ほど話した、騎兵達の隊長ではないかと
思われる若い声をした騎士が、魔道師隊の方へ、駆けていく。

「おい、待て」

別の騎士が、慌てて駆けて、こちらに近づいて来る。

「隊長のリオルド様が、ゆっくりと走られよと」
「ミストラルのリオルド、あの、騎士がそうなのか?」

「そうだ、今やエリサニアで、知らぬ者はおるまい」
「理由は?」

「貴殿の目を見て、嘘を言っているとは思えないと、お考えのようだ」
「アリアさまがいるのか?」

「それは言えんが、もし本当に王太子様なら、無礼を許されたい」
「それは、構わないが」

騎士達が、警戒のため、アリアの存在を隠している
可能性もあるのではないかと、疑ってはいたので
いわれなくても、目で確認しやすいように
ミストラル軍のすぐ脇を、わざとゆっくりと、すれ違っていくつもりだ。

目線の先には、濃く青いフードつきマントを纏った
ミストラルの魔道師達がいるが、かなり人数も多く
どうみても、魔道師達の全員を引き連れてきているとしか思えない。

ミストラルの宮宰デュランは
思い切った事をする人物なのは、ベルナルドも知っている。

上半身の鎧を全て、脱ぎ捨てて来たのが
幸いしたのか、すれ違いざまに、こちらの姿を見て
ひと目で、わかったのだろう。


こちらを見つけてくれたのか
二人の魔道師が、十数名ぐらいの魔道師達を引き連れて
あわてて、馬を走らせ、駆け寄ってくる。

先ほど、魔道師達の所へ駆けて行った
リオルドも、一緒にこちらに来たようだ。

「ベルナルドさま! 王太子様!」
「アリアさま?」

ミストラルの濃く青いマントを纏った
魔道師達の中から、深く被っていたフードで
素顔を隠したままの魔道師が、こちらを見ている。

「これは、これは、殿下、おひさしゅうございまする」
「フェステルも、いるのか!」

アリアの、すぐそばにいた魔道師も
同じように、こちらを見ていて
老婆のような声から、すぐ、誰かわかってしまう。

この老婆の傍に
アリアがいても、なんら不思議ではない。

周辺にいる魔道師達も
フードで隠した、素顔こそ見せないが
こちらを、見知っているような雰囲気だ。

アリアが、青星(しょうせい)の魔道師達を
率いてきたのは間違いない。

「騎士の皆さま、この方は、敵ではありません」

アリアが、後ろについて来ていた
騎士達に、警戒を解かせる。

「ベルナルド様です、この方は、ラーラントの王太子さまです!」

「そ、そんな!」
「えっ!」
「なんと!」

「間違いありませんか、フェステルさま」
「間違うものか、リオルド殿」

「大変なご無礼をお許し下さい、ベルナルド殿下」

この騎士の名を、ベルナルドは知っているが、今は挨拶どころではない。

「同盟国の王太子を偽ってる者かを、見抜けないとは、大失態ですな」
「すみませぬ」
「急いでいましたので、つい……」
「面目ない」

もしやと思い、アリア達に知らせにいった隊長リオルド配下の
騎士達も、ようやく、警戒を解いて、信用してくれたようだ。

「礼など、失しても構わない、フェステル、そんなことは、今はどうでもいいんだ!」
「わかっておりまする」

「ソフィアが!アリアさまの、お力をお貸しください、何!?」

フェステルはなぜか、事情を全て知っているようだ。

「ミストラルは全て、承知していてアリアさまを、ここまで、お連れしました」

隊長のリオルドが、先ほどまでの嘘をあらためると
フードを深く被って、素顔を隠したままの魔道師がさらに近づいてくる。

「全て、わかっています、ベルナルドさま、急ぎましょう」

「アリアさま、なぜ? いや、わかっているならありがたい、急ぎましょう」
「はい、急ぎましょう、話は後で」

決死隊はミストラル軍から、腕に覚えのある者が志願し
命を捨てる覚悟で、ここまで駆けて来た
騎士達で編成されている、ミストラルの最精鋭だ。

魔道師隊を護衛してきたミストラルの決死隊と
渓谷を抜ける前に、合流した
ベルナルドは、騎兵達の隊長、リオルドと並んで
先頭を率いて、今度は先ほど戦争が終わった
戦場に向かって、急ぎ、舞い戻っていく。

すぐ後ろには、十数人の濃く青い
マントを纏って、フードを深く被っている
魔道師達が、続いている。

水の巫女アリアと、12人の青星(しょうせい)の魔道師達は
決死隊の隊長リオルドとベルナルドの、すぐ後ろにいる事にしたようだ。

ベルナルドが、アリア達に合流するまで、渓谷を抜けるために
1騎で駆けてきたが、隠れた場所から、弓や魔法で
狙い撃ちにされるどころか、敵の気配すら感じなかった事から
少しだけ警戒を緩めている。

さらに、後ろには、残りの決死隊の騎士達
そして、アリアや、賢者フェステルも含めた
ドルイドの称号を持つ
12人の青星(しょうせい)の魔道師達を除いた
メイジの称号を持っている、多数の魔道師達が続いていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

お馬鹿な聖女に「だから?」と言ってみた

リオール
恋愛
だから? それは最強の言葉 ~~~~~~~~~ ※全6話。短いです ※ダークです!ダークな終わりしてます! 筆者がたまに書きたくなるダークなお話なんです。 スカッと爽快ハッピーエンドをお求めの方はごめんなさい。 ※勢いで書いたので支離滅裂です。生ぬるい目でスルーして下さい(^-^;

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

悪役令嬢の私は死にました

つくも茄子
ファンタジー
公爵家の娘である私は死にました。 何故か休学中で婚約者が浮気をし、「真実の愛」と宣い、浮気相手の男爵令嬢を私が虐めたと馬鹿げた事の言い放ち、学園祭の真っ最中に婚約破棄を発表したそうです。残念ながら私はその時、ちょうど息を引き取ったのですけれど……。その後の展開?さぁ、亡くなった私は知りません。 世間では悲劇の令嬢として死んだ公爵令嬢は「大聖女フラン」として数百年を生きる。 長生きの先輩、ゴールド枢機卿との出会い。 公爵令嬢だった頃の友人との再会。 いつの間にか家族は国を立ち上げ、公爵一家から国王一家へ。 可愛い姪っ子が私の二の舞になった挙句に同じように聖女の道を歩み始めるし、姪っ子は王女なのに聖女でいいの?と思っていたら次々と厄介事が……。 海千山千の枢機卿団に勇者召喚。 第二の人生も波瀾万丈に包まれていた。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

どうぞお好きに

音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。 王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。

【完結済み】だって私は妻ではなく、母親なのだから

鈴蘭
恋愛
結婚式の翌日、愛する夫からナターシャに告げられたのは、愛人がいて彼女は既に懐妊していると言う事実だった。 子はナターシャが産んだ事にする為、夫の許可が下りるまで、離れから出るなと言われ閉じ込められてしまう。 その離れに、夫は見向きもしないが、愛人は毎日嫌味を言いに来た。 幸せな結婚生活を夢見て嫁いで来た新妻には、あまりにも酷い仕打ちだった。 完結しました。

この野菜は悪役令嬢がつくりました!

真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。 花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。 だけどレティシアの力には秘密があって……? せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……! レティシアの力を巡って動き出す陰謀……? 色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい! 毎日2〜3回更新予定 だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!

処理中です...