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劣勢

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水の巫女アリア・マーテルは
水の精霊教会で、聖女とされている
最初の水の巫女、アイリスの再来と言われている。

ミストラルの援軍が、遅くなれば
アリア・マーテルが持つ、奇跡の癒の力に、賭けたいという
最後に残されている僅かに残されている、希望さえ、かなわない。

「じ~~~~~~~~~~~~~~~~~~」

ラスマールは、辺りを見回して
渓谷に流れる大河ヴィーズを真下にして、上から見下ろせる
崖の上に、何者かがいるような気配がして
魔法の片めがね(モノクル)で、さっきから
じっと見てみるが、誰もいないようだ。

「ううむ……」

力を使い果たして、意識を失ってしまい
ラッセルに、支えられた後
魔道師達から、少しばかりの癒しの魔法を
受けただけなので、妙な気配を感じるのは
体が疲れきっているせいかと思うが、やはりおかしい。

「誰も、いないのはたしかだが……」

「最長老も、やはり気付かれてましたか」

ソフィアの様子を見守っていたが
ラスマールだけでなく、魔道師達も気付いているようだ。

「ふむ、やはりそうか」

「口に出してはなりませんな」
「ここは、感謝だけしかできません」
「ありがたい」
「後に礼は、しっかりとさせてもらうさ」
「だな」

それは自分達の癒しが、明らかに
力強さを増していることだ。

「最長老のモノクルでも、見破れない相手とは?」
「強力な、結界で姿を隠しているのか?」
「ああ、恐るべき、魔力の持ち主だな」
「だが、手助けをするからには、敵ではないのだろう」
「雪を降らせた何かと、関係はありそうだな」
「まあ、今は、我らの巫女に集中しよう」
「そうだな、全ては終わってからだ」
「ああ、最後まで、あきらめるなよ」

多数の魔道師達の魔力を
一斉に強くしてしまえるような
強力な援護の魔法を使えるのは
地の巫女しか考えられないが
中立のトーラル軍が、ステリオ渓谷いるわけもないし
ラーラントと、シーザリアのどちらにも
味方するわけも無い。

どこに隠れているのかは、わからないが
もし、そうなら、あえて
どちらにも、つかない立場を無視して
手を貸してくれている相手のためにも
黙っているのが、感謝として、最低限できる事だ。

しかし、ラスマールの片眼鏡(モノクル)で
見破れない程の強力な魔力で
身を隠しているとなると、人とも思えない。

トーラルの地の巫女なら
そこまでの人を超越した、魔力はないはずだ。

ともかく、掴みどころがなく、不思議だと言う他は無かった。

「…………………………………………」

「じっ~~~~~~~~~~~~~~」
「じっ~~~~~~~~~~~~~~」

渓谷を挟んでいる、片方の岩壁から
突き出している、崖の上で
立っている一人の魔道師と
その後ろで、馬に乗っている二人が
ステリオ渓谷を、上から見下ろしていた。

「…………………………………………」

「あれ、ラスマールさんね、まあ、外からは見つからないわ」
「レイラも、あいつ見えなかった」

強力な、結界で、崖の上にいる者達は
外からは、全く、見えなくなってしまっている。

「ニマアー ブスウー ベロベロバ~ア★」

「レイラ、貴方、何してるのよ?」
「変な顔しても、本当に気がつかないネ★」

崖の上からは、戦場の全体が見通せて
とても、見晴らしのいい場所だ。

崖から見下した、真下には、
他より窪んでいる場所をさらに
深く削っていくように
大河ヴィーズが流れている。

透き通るように、透明な川の流れは、真上にある
太陽を映しているのか、キラキラと光っていた。

「ディーナ、ヴィーズ、キラキラしてきれい★」
「水浴びとかしたい、気持ちはわかるけど、後でね……」

二人から離れて、崖の先端で立っている
少年は白い銀髪に、透き通った青い瞳をして
銀で装飾された白いマントを着ている。

「フン……」

後ろで、馬に乗るうちの一人は、緑のマントを着て
頭から深く、被ったフードで、顔はよくわからないが女性だ。

もう一人は緑の瞳と同じ色の髪に
褐色よりも、さらに濃い黒い肌で
尖った耳をしている女性で
人ではなく、エルフのようだ。

腰に、まるで、宝物のような見事な
剣を刺している。

「ディーナは、やさしいネ★」
「知らない仲じゃないし、しょうがないのよ」

「人間は、だからスキ★」
「一人で、全部背負って、格好ばかりつけてるからよ」

「ディーナもネ★」
「そうかな、あいつと、似てる?」

「人間は、ミンナいい人★」
「そういうことね、あはは……」

トーラルと、ラーラントは隣り合う国で
交流もあり、ディーナはソフィアだけでなく
ラーラントの同盟国という関係で
ミストラルのアリアとも巫女として
何度も会って、互いに理解を深めるために
いろいろな事について、話したりはしている。

「じっーーーーーーーーーー」
「な、なんでしょうか?」

「貴方は、不自然なぐらい、すごーく、巫女らしすぎね、ソフィア・フローレンス」
「ディ、ディーナさんが、そう思うわれるだけです……わ」

「ソフィアでいいわね、同じ、巫女同士なんだし」
「それは、別に問題はありませんけど」

「立ち振る舞いまで、まるで、全て、絵に描いた作りもののよう」
「そうでしょうか、気のせいです」

「あと、わざと壁を作る、さんづけはやめてね、巫女同士なんだし」
「ええと、ディーナが、そう思われるだけです」

「敬語も止めて 付き合いが、さらに面倒になるだけよ」
「ディーナが、そう思うだけよ☆」

「ふーん、ちょっと、素が見えてきたかしら」
「あれっ? おかしいな、コホン、ディーナが、そう思うだけよ」

「そうかしら、昔はそういう人ではなかったんじゃない」
「おほん、私は昔から、絶対こうなんです」

「絶対、素を隠しているわ、前の巫女を凄く、意識してない」
「ぎくっ☆、それは……その……あの……あれ……」

「アリア・マーテルは知ってるの? あ、アリアでいいわね」
「うん、良く知ってるよ、それはもう街中で……」
「駄目、アリアやめて、もう、私は、皆の巫女なの」

「ふーん、ラヒニの破壊神ソフィアとか、ちょっとした伝説みたいね」
「きゃあ・あ・あ、ソ、ソフィア、もうばれてるよ」
「なんで、そんな昔の話、知ってるのお~~~~☆」

「ソフィア、あなたの事は、公式記録(レポート)として、纏(まと)められているわ」
「き、記録……」
「わーい、もう、この人の前で、ラーマーヤさんの真似は無理だよ~、ソフィア~」

「壊したのは建て物だけじゃないわね、貴族を無視して、王様へ直訴」
「ち、違うの、あ、あれはつい」

「つい?嘘ね、今や、恒例の行事と化しているでしょ」
「嘘じゃないの、いつもだけど、いつもじゃないの、しょ、しょうがないの」

「全部、調査済みってわけ」
「ほうら、ソフィア、もう、あきらめようよ~」
「アリア、貴方もよ」
「えっ!?私までっ、なんでなの」
「貴方は、そのままみたいだけど、素性が、ちょっと変ってるわね」
「何が変ってるの?」
「あら、本人は知らないみたいね、なら黙っておくべきね」
「うーん、気になるう~」
「トーラル王国が集めている、情報は無料(タダ)ではないの」
「そこをなんとか、お願いっ!」
「知らない方が、いいこともあるわ」
「そんなことない、知りたい!」
「だめよ、水の巫女アリア」
「ぶう~~~ ぶう~~~」

「ソフィアは無理して背伸びしすぎてると、今にツケが来るわよ」
「気をつけるわ」

「だからね、もう、ばれてるの、貴方については、全部調査済み」
「ソフィア、ばればれだよ~、もう、あきらめようよ~」
「……」

「なかなか、強情ね、なら、あの事を皆に、ばらすわよ」
「えっ!? がくがくぶるぶる」
「なに、知りたい~」

この世界では、がくがくぶるぶる、とは最高の恐怖を示している。

「貴方が好きな食べ物は、紫火苺のショートケーキ」
「ああ~、ソフィア、ばれちゃってるよ~」
「ひっ、皆に示しがつきませんから、その事だけは黙ってて」

「クリームは、いつもたっぷりで
飲み物はラヒニティーの砂糖無しで、ミルク多めね」
「そ、そ、そんなことまで ソフィア~ どうするの~」
「ひいいん☆」

「素直にならないと、皆にばらしちゃうからね」
「わーい、脅しだあ、ソフィア~」
「はい☆」

「ふーん、ソフィアも、素直な返事できるじゃない」
「はい☆」

「立場があるからね、そういうのはわかるわ、同じ巫女なんだし」
「はい☆」

「でもね、何かと、背負っちゃってるんでしょうけど、
私の前では素直になることね」
「はい☆」

「どうせばれてるんだし、トーラルを甘くみないで」
「ひいいいん☆」

「じゃあ、今後ともよろしくね、火巫女と、水の巫女さん」
「はい☆」
「ふあーい」

トーラルは、シーザリアとも
敵対関係ではないので、それなりの交流もある。

互いの国の精霊教会同士の関係性はあっても
王族と民衆を繋いでいる
大切な姫なので、万が一の事を考えているのか
中立のトーラルの巫女であるディーナも
風の巫女のラーシャとは一度も、会うことは許されていない。

「ディーナは風の巫女に、あった事はあるの?」
「やっぱり、ソフィアは、そこは気になるわよね」

「だって、戦うかもしれない相手よ……」
「一度もないわ、純粋培養のお姫さまで、人ではないのは知ってるでしょ」

「ハーフエルフらしいとは聞いてはいるけど」
「トーラルとしては、会わせてもらえるよう努力は、続けているけどね」

「もっと、ラーシャ姫について、教えてもらえないの?」
「王族だけど、巫女で、皆の人気者よ」

「それも知ってる、もうないの?」
「トーラル王国の立場は中立、これ以上は無理なの」

「風の巫女に、会いたいのは、詳しく調べるためなの?」
「そうよ、答えるまでもないぐらいの常識ね」

「私とか、アリアとかも、全部、調べているのは、何でなの?」
「王国として、記録(レポート)に全部纏めたいから」

「敵になるかもしれないからじゃないの?」
「それは、貴方の王国での価値観だわ」

「価値観が、どう違うの?」
「私達トーラルは、全部暴いて、研究記録として、残しておくの」

「もしかして、趣味みたいなの?」
「まあ、そんなとこね、とにかく知りたいの、全てをね」

「ひいいいん☆」
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