上 下
10 / 51

ラスマール

しおりを挟む
ベルナルドとソフィアの前で警戒して剣を構えている
元隊長のラッセルは、やむなく降格された事情を
王に言われずとも、全て納得して承知していただけに
その代わりになるだけの大きな機会を与えられたような
窮地に陥っている側の兵士とは思えない
粘り強く最後まで、戦い抜く覚悟を見せる表情をしている。

「将来の王妃様の窮地を救ったとあれば
貴族どころか、大臣も夢じゃありませんぜ」

隻眼の義賊ラッセルは元々は盗賊団の首謀者(かしら)だった犯罪人だが
信じた仲間の裏切りで捕まり、見せしめのために処刑が決まっていたのを
父である王が、その心意気を気に入り、親衛隊の兵士に取り立て
最終的に親衛隊長に抜擢されたような、異例の出世をした経緯もあってか
こう言う時こそ頼りになる存在だ。

王のために死す事も厭わない、決死隊でもある親衛隊にはラッセルのように
犯罪者で、王に命を救われ忠誠を誓うような過去を持っているものも少なくない。

この状況ですら前向きで、さすがに修羅場を経験して
しぶとく鍛え抜かれているラッセルに関心しながらも
追い込まれている事もあって、いつもはそういう事を自分からは決して口にしない
ベルナルドも思わず、勇気付けられたのか、気持ちでは負けていないと応じ
大乱戦と化した戦場での死を覚悟しつつも、腰から剣を抜き構える。

「王妃か、それだけは否定はしたくないな、ラッセル」

王子は親衛隊の兵士に既に指示を出し
ソフィアと魔道師達を馬に乗せるための用意をさせ
戦場からうまく逃がそうとしていた。

芝居がかった台詞を強気にラッセルに向かって言い放ったが
戦況は劣勢である事は間違いなく、冷静さまでは失ってはいない。
互いに負ける事はできない魔道師隊を投入する決戦において
国を最後に守護する必要不可欠な人材を
ここで一人たりとも無駄に失なうわけにはいかない。

「まあ、お互い、ここを切り抜ければの話ですがね」

迫り来る大勢の敵を目にし、ラッセルでさえも、さすがに苦笑する。
親衛隊の兵士達はベルナルドの号令に前に出て
逃げる準備をする味方の為に少しでも、犠牲を覚悟で
時間稼ぎをしようとするが、敵は数と勢いに任せ、親衛隊をねじ伏せ倒していく。

「王子、そろそろ、ころあいですぜ」

副隊長ラッセルがそう言うと新たな号令が発せられる。

「ようし親衛隊、後退だ」

次々と仲間の兵士が犠牲になり、敵を押しとどめられず
敵に抜かれ、囲まれてしまい、背中からも襲われるのを
恐れ始めた親衛隊の兵士達は待ちわびたように号令による合図を耳にすると
敵との戦いを止め、周囲の敵をわざと挑発するように威嚇した後
振り返り敵に背中を向け一斉に、走って逃げるような後退を始めていく。

「ふむ……」

多勢に無勢と見た、一人の魔道師が他の魔道師達に指示を出し
既に魔法による攻撃はなされておらず、前に出ていた親衛隊員が
命がけで盾となり作り出した、わずかばかりの時間に精神を集中していた
魔道師達が呪文を詠唱し始める。

詠唱が終わり、魔法の執行が宣言されると
魔道師達と親衛隊の周囲を取り囲む城壁のような炎の壁が出現する。
挑発に乗り、手柄を立てようと焦って、目の前から背中をむけ逃げ出した
親衛隊を追ってきた敵は炎の壁の中に閉じ込められ
目の前を邪魔な炎の壁に遮(さえぎ)られた
多数の敵の兵士達は壁の向こうに側に置き去りにされてしまう。

壁の内側で相手が少数になったところで
ベルナルドから再攻撃の号令による合図が下されると
親衛隊の鍛え抜かれた兵士達は逃げていた背中をくるりと返し
一斉に振り向いて、また正面から見事に罠に嵌った敵と戦い始める。

「ふむ、これで少しは時間稼ぎにはなりますでしょうな、王子」

エリサニア4賢者の一人、ラーラント魔道師隊、最長老のラスマールが
魔法でつくりだしたレンズだけの片眼鏡(モノクル)で炎の壁をじっと
見ながら、してやったりと満足そうな表情をベルナルドに向けている。

「ラスマール、この間に巫女と魔道師達は馬にお乗り下さい
ここは我ら親衛隊が引き受けます。ソフィア様をお連れして、早く」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お馬鹿な聖女に「だから?」と言ってみた

リオール
恋愛
だから? それは最強の言葉 ~~~~~~~~~ ※全6話。短いです ※ダークです!ダークな終わりしてます! 筆者がたまに書きたくなるダークなお話なんです。 スカッと爽快ハッピーエンドをお求めの方はごめんなさい。 ※勢いで書いたので支離滅裂です。生ぬるい目でスルーして下さい(^-^;

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

悪役令嬢の私は死にました

つくも茄子
ファンタジー
公爵家の娘である私は死にました。 何故か休学中で婚約者が浮気をし、「真実の愛」と宣い、浮気相手の男爵令嬢を私が虐めたと馬鹿げた事の言い放ち、学園祭の真っ最中に婚約破棄を発表したそうです。残念ながら私はその時、ちょうど息を引き取ったのですけれど……。その後の展開?さぁ、亡くなった私は知りません。 世間では悲劇の令嬢として死んだ公爵令嬢は「大聖女フラン」として数百年を生きる。 長生きの先輩、ゴールド枢機卿との出会い。 公爵令嬢だった頃の友人との再会。 いつの間にか家族は国を立ち上げ、公爵一家から国王一家へ。 可愛い姪っ子が私の二の舞になった挙句に同じように聖女の道を歩み始めるし、姪っ子は王女なのに聖女でいいの?と思っていたら次々と厄介事が……。 海千山千の枢機卿団に勇者召喚。 第二の人生も波瀾万丈に包まれていた。

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結済み】だって私は妻ではなく、母親なのだから

鈴蘭
恋愛
結婚式の翌日、愛する夫からナターシャに告げられたのは、愛人がいて彼女は既に懐妊していると言う事実だった。 子はナターシャが産んだ事にする為、夫の許可が下りるまで、離れから出るなと言われ閉じ込められてしまう。 その離れに、夫は見向きもしないが、愛人は毎日嫌味を言いに来た。 幸せな結婚生活を夢見て嫁いで来た新妻には、あまりにも酷い仕打ちだった。 完結しました。

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

処理中です...