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ラスマール
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ベルナルドとソフィアの前で警戒して剣を構えている
元隊長のラッセルは、やむなく降格された事情を
王に言われずとも、全て納得して承知していただけに
その代わりになるだけの大きな機会を与えられたような
窮地に陥っている側の兵士とは思えない
粘り強く最後まで、戦い抜く覚悟を見せる表情をしている。
「将来の王妃様の窮地を救ったとあれば
貴族どころか、大臣も夢じゃありませんぜ」
隻眼の義賊ラッセルは元々は盗賊団の首謀者(かしら)だった犯罪人だが
信じた仲間の裏切りで捕まり、見せしめのために処刑が決まっていたのを
父である王が、その心意気を気に入り、親衛隊の兵士に取り立て
最終的に親衛隊長に抜擢されたような、異例の出世をした経緯もあってか
こう言う時こそ頼りになる存在だ。
王のために死す事も厭わない、決死隊でもある親衛隊にはラッセルのように
犯罪者で、王に命を救われ忠誠を誓うような過去を持っているものも少なくない。
この状況ですら前向きで、さすがに修羅場を経験して
しぶとく鍛え抜かれているラッセルに関心しながらも
追い込まれている事もあって、いつもはそういう事を自分からは決して口にしない
ベルナルドも思わず、勇気付けられたのか、気持ちでは負けていないと応じ
大乱戦と化した戦場での死を覚悟しつつも、腰から剣を抜き構える。
「王妃か、それだけは否定はしたくないな、ラッセル」
王子は親衛隊の兵士に既に指示を出し
ソフィアと魔道師達を馬に乗せるための用意をさせ
戦場からうまく逃がそうとしていた。
芝居がかった台詞を強気にラッセルに向かって言い放ったが
戦況は劣勢である事は間違いなく、冷静さまでは失ってはいない。
互いに負ける事はできない魔道師隊を投入する決戦において
国を最後に守護する必要不可欠な人材を
ここで一人たりとも無駄に失なうわけにはいかない。
「まあ、お互い、ここを切り抜ければの話ですがね」
迫り来る大勢の敵を目にし、ラッセルでさえも、さすがに苦笑する。
親衛隊の兵士達はベルナルドの号令に前に出て
逃げる準備をする味方の為に少しでも、犠牲を覚悟で
時間稼ぎをしようとするが、敵は数と勢いに任せ、親衛隊をねじ伏せ倒していく。
「王子、そろそろ、ころあいですぜ」
副隊長ラッセルがそう言うと新たな号令が発せられる。
「ようし親衛隊、後退だ」
次々と仲間の兵士が犠牲になり、敵を押しとどめられず
敵に抜かれ、囲まれてしまい、背中からも襲われるのを
恐れ始めた親衛隊の兵士達は待ちわびたように号令による合図を耳にすると
敵との戦いを止め、周囲の敵をわざと挑発するように威嚇した後
振り返り敵に背中を向け一斉に、走って逃げるような後退を始めていく。
「ふむ……」
多勢に無勢と見た、一人の魔道師が他の魔道師達に指示を出し
既に魔法による攻撃はなされておらず、前に出ていた親衛隊員が
命がけで盾となり作り出した、わずかばかりの時間に精神を集中していた
魔道師達が呪文を詠唱し始める。
詠唱が終わり、魔法の執行が宣言されると
魔道師達と親衛隊の周囲を取り囲む城壁のような炎の壁が出現する。
挑発に乗り、手柄を立てようと焦って、目の前から背中をむけ逃げ出した
親衛隊を追ってきた敵は炎の壁の中に閉じ込められ
目の前を邪魔な炎の壁に遮(さえぎ)られた
多数の敵の兵士達は壁の向こうに側に置き去りにされてしまう。
壁の内側で相手が少数になったところで
ベルナルドから再攻撃の号令による合図が下されると
親衛隊の鍛え抜かれた兵士達は逃げていた背中をくるりと返し
一斉に振り向いて、また正面から見事に罠に嵌った敵と戦い始める。
「ふむ、これで少しは時間稼ぎにはなりますでしょうな、王子」
エリサニア4賢者の一人、ラーラント魔道師隊、最長老のラスマールが
魔法でつくりだしたレンズだけの片眼鏡(モノクル)で炎の壁をじっと
見ながら、してやったりと満足そうな表情をベルナルドに向けている。
「ラスマール、この間に巫女と魔道師達は馬にお乗り下さい
ここは我ら親衛隊が引き受けます。ソフィア様をお連れして、早く」
元隊長のラッセルは、やむなく降格された事情を
王に言われずとも、全て納得して承知していただけに
その代わりになるだけの大きな機会を与えられたような
窮地に陥っている側の兵士とは思えない
粘り強く最後まで、戦い抜く覚悟を見せる表情をしている。
「将来の王妃様の窮地を救ったとあれば
貴族どころか、大臣も夢じゃありませんぜ」
隻眼の義賊ラッセルは元々は盗賊団の首謀者(かしら)だった犯罪人だが
信じた仲間の裏切りで捕まり、見せしめのために処刑が決まっていたのを
父である王が、その心意気を気に入り、親衛隊の兵士に取り立て
最終的に親衛隊長に抜擢されたような、異例の出世をした経緯もあってか
こう言う時こそ頼りになる存在だ。
王のために死す事も厭わない、決死隊でもある親衛隊にはラッセルのように
犯罪者で、王に命を救われ忠誠を誓うような過去を持っているものも少なくない。
この状況ですら前向きで、さすがに修羅場を経験して
しぶとく鍛え抜かれているラッセルに関心しながらも
追い込まれている事もあって、いつもはそういう事を自分からは決して口にしない
ベルナルドも思わず、勇気付けられたのか、気持ちでは負けていないと応じ
大乱戦と化した戦場での死を覚悟しつつも、腰から剣を抜き構える。
「王妃か、それだけは否定はしたくないな、ラッセル」
王子は親衛隊の兵士に既に指示を出し
ソフィアと魔道師達を馬に乗せるための用意をさせ
戦場からうまく逃がそうとしていた。
芝居がかった台詞を強気にラッセルに向かって言い放ったが
戦況は劣勢である事は間違いなく、冷静さまでは失ってはいない。
互いに負ける事はできない魔道師隊を投入する決戦において
国を最後に守護する必要不可欠な人材を
ここで一人たりとも無駄に失なうわけにはいかない。
「まあ、お互い、ここを切り抜ければの話ですがね」
迫り来る大勢の敵を目にし、ラッセルでさえも、さすがに苦笑する。
親衛隊の兵士達はベルナルドの号令に前に出て
逃げる準備をする味方の為に少しでも、犠牲を覚悟で
時間稼ぎをしようとするが、敵は数と勢いに任せ、親衛隊をねじ伏せ倒していく。
「王子、そろそろ、ころあいですぜ」
副隊長ラッセルがそう言うと新たな号令が発せられる。
「ようし親衛隊、後退だ」
次々と仲間の兵士が犠牲になり、敵を押しとどめられず
敵に抜かれ、囲まれてしまい、背中からも襲われるのを
恐れ始めた親衛隊の兵士達は待ちわびたように号令による合図を耳にすると
敵との戦いを止め、周囲の敵をわざと挑発するように威嚇した後
振り返り敵に背中を向け一斉に、走って逃げるような後退を始めていく。
「ふむ……」
多勢に無勢と見た、一人の魔道師が他の魔道師達に指示を出し
既に魔法による攻撃はなされておらず、前に出ていた親衛隊員が
命がけで盾となり作り出した、わずかばかりの時間に精神を集中していた
魔道師達が呪文を詠唱し始める。
詠唱が終わり、魔法の執行が宣言されると
魔道師達と親衛隊の周囲を取り囲む城壁のような炎の壁が出現する。
挑発に乗り、手柄を立てようと焦って、目の前から背中をむけ逃げ出した
親衛隊を追ってきた敵は炎の壁の中に閉じ込められ
目の前を邪魔な炎の壁に遮(さえぎ)られた
多数の敵の兵士達は壁の向こうに側に置き去りにされてしまう。
壁の内側で相手が少数になったところで
ベルナルドから再攻撃の号令による合図が下されると
親衛隊の鍛え抜かれた兵士達は逃げていた背中をくるりと返し
一斉に振り向いて、また正面から見事に罠に嵌った敵と戦い始める。
「ふむ、これで少しは時間稼ぎにはなりますでしょうな、王子」
エリサニア4賢者の一人、ラーラント魔道師隊、最長老のラスマールが
魔法でつくりだしたレンズだけの片眼鏡(モノクル)で炎の壁をじっと
見ながら、してやったりと満足そうな表情をベルナルドに向けている。
「ラスマール、この間に巫女と魔道師達は馬にお乗り下さい
ここは我ら親衛隊が引き受けます。ソフィア様をお連れして、早く」
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