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反撃の呪文

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親衛隊長ベルナルドが眼前に迫っている、風による絶望的な脅威の前で
親衛隊の兵士達を鼓舞する中、親衛隊の後方にいて
一目で特別な人物であることがわかる、黄金の鎧に全身を包んで
立ち上がり戦場を見渡していた、父であるアウグスト王は
迫り来る死の風に向かって、腰から抜いた、剣の鋭い尖端をつきたてる。

「我が火の魔道師達よ、迫り来る風の脅威を、なぎ払え!」

王の後方には、この事態をあらかじめ予期していたかのごとく
フード付の紫のマントを着た無数の魔道師達が、集中の祈りを終え
一糸乱れぬ見事な呼吸で、一斉に同じ呪文の詠唱を始める。

「立ちのぼるのは灼熱の炎
怒れしは火の精霊ヴァルカ
古き人との盟約のもと
わが炎の鎧となりて、我らを守護せん!」

親衛隊に、押しとどめられながらも
回転する風の周囲の大気が、熱を帯び始めていき
最後に精霊との間に交わされた、盟約の執行を告げる
呪文を一斉に魔道師達が叫ぶ。

「エンドレストプロメクション!」

黄金の鎧を纏った王の後方にいる魔道師達が、魔法の力を解き放ち
多数の炎の柱が、旋風(つむじかぜ)の四方に、立ち上り始めた。

炎の柱は隙間なく、結合していき、巨大な灼熱の炎の壁となり
親衛隊の魔法の大盾に、押しとどめられている空気の渦を
四方から封じ込めるように突き進んでいく。

体力の限界が近くなり、力尽き果てようとしていた
親衛隊員の兵士達は、親衛隊長ベルナルドの鼓舞と
魔法による援護に、最後の気力を振り絞り
自らの命を吸う魔法の盾を掲げ続けている。

「援護の魔法が、来たぞ!」
「早くしてくれ~」
「もう駄目だあ、持たん」
「はあはあ」

王は直属の配下である、決死の姿を見せる親衛隊に
自ら最後の奮闘を促す。

「あと、しばらく、しばらくだ。ここを耐え抜くのだ、親衛隊」

魔法で放たれた炎の壁は、親衛隊の兵士達の前で
押しとどめられている風の刃に激突すると
灼熱の炎の力により、風は徐々に勢いを失っていき
封印され消え去ったが、眼前から死の風が消え去ると
限界を超え、精神力だけで持ちこたえていた
親衛隊の兵士達の多くは、その場に力尽き倒れていく。

「へっ、ざまあみやがれ……」
「持ちこたえたぜ……」
「親衛隊万歳……」

「おい、しっかりしろ、おい!」

その瞬間を待っていたかのように、呪文の詠唱のために王の背後で
全ての気配を消しさり、存在すらしないように感じさせるほどの集中をしていた
魔道師達の頂点に立つ、火の巫女ソフィアが反撃の呪文の詠唱を始める。

「火の精霊ヴァルカ」

集中力を増して、魔力を高めてくれる
紫の魔法のリボンで、白い銀髪は飾られている。

「純潔を捧げる巫女の祈りに答え」

紫のマントと同じ色のリボンは
魔法を使うときだけじゃなく、重要なときには
いつも、しっかりと髪につけている。

「全てを焼き尽くす」

ソフィアが魔道師達の先頭に位置しているのは
配下の魔道師達への信頼もあるが
彼女が火の精霊の眷属である事からも
内に秘められた情熱を、誰も言葉に出し、制止することはできない。

「灼熱の赤き炎の剣を授けん」

火の巫女が、白い銀髪に、透き通る青い目で
アウグスト王に向かい、許可を得るように視線を送ると
王が静かにうなづき、掲げていた剣を、鞘に収めた。

「フレイラルアブソーバー」

精霊と盟約でもある、呪文詠唱を全て終え、執行を宣言すると
両軍の上空で生じた燃え盛る炎は、巨大な灼熱の火の玉と化し
空を飛ぶ復讐の流星のごとく、矢が的に躊躇無く突き進むように
先ほどの死の風を放った、シーザリア軍の後方に向かっていく。

「この、反撃となる魔法で、時間は稼げるとは思います」

シーザリアの姫でもある
風の巫女はエルフの血を引いていて
人でしかない、普通の巫女とは違う。

「風の巫女の魔力は、侮る事は、決して出来ません」

人を超えた力を持つ、風の巫女が秘めている
魔力の強さを考えると、油断はできない。

「魔道師達よ、急いで、親衛隊に癒しの魔法を」

「ふむ、それがいいでしょうな」

「親衛隊は、皆さんにお頼みします!」

本来の魔道師達の主は火の巫女、ソフィアだ。

「私の全てを賭けても、風の巫女を、必ず、しとめてみせます!」

ソフィアが、呪文の詠唱をするために、王の指示に従っていた
魔道師達は待っていたかのように、回復のための魔法を
急いでかけるために、親衛隊の下へ向かっていく。

前方で、魔法の大盾に命を吸われてしまい
力尽き果ててしまっている
多数の親衛隊員の兵士達を癒さねばならない。
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