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火の巫女

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シーザリア最高位の魔道師、風の巫女から
敵であるラーラントの魔道師、火の巫女よりも速く放たれた
冷徹で残忍な魔法による風の刃が、敵陣で、力なく消え去るのを目にした
ヴェサリウス王は、魔法による先制攻撃で
ラーラントの魔道師隊に目に見えるような、被害を出せなかった事で
姫であるラーシャの身を案ずるように、その場で叫ばずにはいられない。

「精霊の子孫の血を引く、我が姫の強力な魔力をああまで見事に退けるとは
ええい、それにしても、まだラーラント軍の中央を破れんのか!」

渓谷の狭間で狭き隘路に邪魔をされ
敵を凌ぐ戦力を有効に生かせないまま
騎乗で、自軍が劣勢になって、押し込まれている場所を
手当てするかのように、戦場を縦横無尽に駆け抜け続ける
シーザリア王の苛立ちを、あざ笑うかのように
後方で戦場を支配し、戦いの生命線となる、
シーザリアの魔道師隊に向かい
灼熱の巨大な炎の流星が向かっていく。

「ソフィア・フローレンス、いいや、火の巫女よ
またしても、我らが理想の前に立ちはだかるか! しかしっ!」

自らの魔法が、敵に見事に退けられたのを、まるで気にかける様子もなく
父である王の想いに答えるかのように、火の巫女の放った、巨大な炎の流星が迫りくる
一刻を争う状況下で、風の巫女、ラーシャは配下の魔道師達に
王の娘である姫として、毅然としたまま威厳を全く失わずに
少女とは思えないような冷静沈着さで、的確に支持を下す。

「呪文詠唱までの時は遅くとも、火の巫女の魔力は強大です
 ここは私と供に力を合わせてください」

「はっ 姫様」
「わかっております、姫様」

風の巫女と配下の同じく、黒きフード付マントを纏った
魔道師達は、わずかばかりの時間の集中を終えた後
迫り来る脅威を眼前にして、怯える表情一つ見せない
ラーシャと供に一つとなり、より強く祈るような呪文の詠唱を始める。

「伝えられしは大いなる祈り
掲げしは精霊メルキスの盾
全てを守護せん、風の摂理に従い
我らを護りたまえ」

シーザリアの親衛隊が風の精霊メルキルの祝福を得た
漆黒の大盾を掲げると同時に、ラーシャと漆黒の魔道師達が呪文を終える。

「ローエンドディストレイト」

精霊に祝福された漆黒の魔法の大盾を持ってしても
防御不可能なのは明らかな、全てを焼き尽くそうとする
灼熱の温度を持つ、巨大な炎の流星が迫り来た瞬間
盾を掲げるシーザリア親衛隊の前で、徐々に風が舞い立ち始めると
やがて、その気流は上空に立ち上っていく、巨大な大気の壁となる。

「魔道師、親衛隊供に、力をあわせ、ここを乗り切りましょう
私は最後の呪文詠唱のため精霊への祈りに集中します、皆を信じています」

ラーシャを中心に、魔道師隊の力を合わせた
魔法の執行が宣言されたのを見届けた
風の巫女ラーシャは、火の巫女ソフィアとの全てをかけた決戦を決意する。

火の巫女が放った魔法からの防御を親衛隊と魔道師隊に任せ
さらなる攻撃に移るため、最後の呪文詠唱の祈りへと入ると
怒り狂うように真っ赤に燃え盛る炎の流星は
ラーシャ達を獲物として、ついに捕らえる。

「熱い、身体が焼けるようだ、駄目だ、うわああああっ!」
「ぎゃあああああああああ」
「熱い~~~」
「ひいあああああああああああ」

シーザリアの魔道師達が放った、魔法の風に守護された親衛隊は
ラーラントの親衛隊と、同じように耐え抜こうするが
ソフィアの絶大な魔力を封じるために
掲げる者の命を吸い、力を発揮する魔法の盾に、全てを奪われてしまい
身体を守護している、魔法の盾を掲げ続けられず
放たれた灼熱の炎に、多くの者が、全身を焦がされて、次々と絶命していく。

「諦めるな、まだ我らには風の巫女が、姫様がいる!」

「そうだ、姫様!」
「姫様!」
「ラーシャ様!」
「シーザリア万歳!」

親衛隊長が、兵士達を必死に鼓舞する中、魔道師隊による
魔法の援護も加わり、復讐がための反撃の矢として放たれた
炎の流星を押しとどめるため、その全てを出し切り、退ける事に成功するが
灼熱の炎で、焼かれた犠牲者の数は親衛隊の多数だけでなく
魔法の燃え盛る炎は最後に爆散して周囲に飛び散り
防御のための結界で、自らを護っていたはずの
魔道師達にまで、犠牲が及び、火の巫女の魔力の強大さの前に
一転して、次はない絶望的で、不利な状況に、一気に追い込まれてしまう。

「結界が…… 凄まじいな…… 人とは思えん…………」

生き残った魔道師達が急いで施した、癒しの魔法も虚しく
力尽き果て、死の眠りに落ちようとする
親衛隊の兵士が最後に見たのは
皆を信じて、決戦の魔法を放つために全身全霊を捧げて
祈りを精霊に捧げている、自らが守り抜いた王国の姫である、ラーシャの姿だった。

「ラーシャ様…… あとは頼みます…………」

戦場となっている、ステリオ渓谷を流れる大河ヴィーズは
川幅が狭くなっているためか、その勢いを増している。

「うおおおおおおおおおおおおおおっ」

前線の兵士達の雄たけびが渓谷の両側に高く聳え立つ岩壁に鳴り響き
ラーランド、シーザリアの両軍が前線でぶつかり合う中、戦力で上回る
シーザリア軍はラーランド中央をついに侵食していき、破り始める。

「破れた敵中央をめがけ騎兵による
突進をかける、配置につけえええっ!」

シーザリアの総攻撃準備を告げる、ラッパが鳴り響くと
散開し、各自の判断で
最前線で戦う兵士の後方から支援に回っていた
騎兵達は同じような黒き鎧を纏ったヴェサリウス王を中心にして
ラーラント軍の中央、正面に終結すると
王を中心にし、包み込むように守護する隊列を形成していく。

「我が主(あるじ)、アウグスト王よ
 敵は我が軍の中央を破り、そこに騎兵による突撃により
一気に戦いの決着をつけようと集結しております!」

後方から前線を冷静に見守るラーラント王は
緊急事態を告げるために戦場を馬で駆け抜けてきた
騎兵の報告により、決断のための最終確認をした後
黄金の鎧から、兜(アーメット)を脱ぎさった。

「報告、苦労であった」
「はっ」

「では、私は先に」
「うむ」

現れたするどい眼光と、顎鬚を蓄えた精悍な王の決意に
伝令の慌てるような、上ずりを隠せない動揺が感じ取れる
声から自軍の形勢不利を悟り、浮き足立ちそうになっていた
王の周辺は落ち着きを取り戻す。

「我が軍も散開している、騎兵を全て中央に集結させよ」
「はっ」

「ここはベルナルドに全て任せ、私が先頭に立つ、我が馬を引けえっ」

「はっ! 王が、先頭に立たれるぞ、ここに、馬を持て~~~~~」
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