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しおりを挟む「ナナ、ノアから伝言だ。今日はラーエルクヴィト家に呼ばれて帰りが遅くなると」
「そうですか……」
「それから僕からも話があるよ」
トールさんの部屋へまねかれ、またソファへかけた。
トールさんは買い出しの袋をキッチンへ置いてせわしなく私のとなりへ座った。
「外国へ行ってるイドラから手紙が来たよ。ナナはエミル・ハレノ伯爵の妹なのか?」
「……そうです」
「本当なのか!? なぜ黙ってたの? なぜこんな所に来るようになった……こういう風にいつも外で男と遊んでるのか?」
「ち、ちがいますっ……!」
膝の上でぎゅっと拳をにぎった。
恥ずかしさと自分のおろかさに消えてしまいたかった。
最初にノアに簡単にすべてを捧げてしまったのは、自分のあやまちだ。
男の人なら誰でもよかったわけじゃない。でもそんな言い訳が通らないことも今となってはわかる。
この目の前のトールさんとも弾みで深い仲になった今では……。
「ノアがはじめてだったの?」
「そうです」
「ラーエルクヴィトのお嬢さまとも友達なんだろ?」
「そうです、だからカーリンにノアさんを紹介されて……」
トールさんはため息をついた。
「ノアってやること胸糞悪いときあるよな」
「えっ?」
「奥さんの友達だと知ってて手を出したんだろ? ……いや、僕もぜんぜん他人のことは言えないけど、全く立場が違うだろ」
「……あの……」
「チョロいガキだって分かってて、わざわざ取り返しがつかないナナを狙ったんだろ? あいつは」
確かにすべてその通りでかえす言葉もない。
なぜ分かっていていまだに言うことを聞くのかと聞かれた。だから兄やカーリンにすべてを話すと言われたことを伝えたらトールさんは渋い顔になった。
「もうノアとは友達やめる」
「え……?」
「だって脅迫じゃない? あいつは地獄に落ちる。最低のゴミだよ。しねばいいのに。あんなのと友達だと思われたくない」
「あ、あはは……!」
トールさんは私より怒っていて、なんだかおかしくて笑ってしまった。
久しぶりに笑った。トールさんも笑って髪をなでてくれた。
「いっそナナが暴露してみたら?」
私も一度思ったことだ。
だから兄が私を探して引き取ってくれたこと、カーリンが助けてくれたことを話した。彼らに迷惑はかけられないと。
トールさんはなるほどと唸った。ナナはよく頑張ってると思うと言ってくれた。
「でもノアはなぜナナに執着するんだろ」
「さぁ……」
「いつもはもっと楽しそうなことしかしてないよ。めんどくさくなったら投げ出すタイプだもん」
最低ですねと言うと。トールさんもその通りだとうなずいた。
「でも……それでもナナはノアのことが好き?」
「それは……」
ノアさんに恋したのは本当だ。
そのことを今は後悔している。でもあの青い目で笑いかけてもらうと、今でも胸が苦しいときがある。
「好きなんだね。だから僕とああなっても、こっちへ逃げてこなかったんだろ」
言葉につまる。トールさんはべつに怒ってないからねと苦笑いした。
「ナナの中で僕は影が薄いだろうけど、でも僕だってきみに恋してるんだよ」
「なんで?」
「くだらないお喋りに付き合ってくれるからだよ」
彼は友達作りが得意な人だとノアさんが言っていた。お喋りの相手ならたくさんいるはずだ。あのイドラ嬢だってそうなのだから。
この人は荒唐無稽で摩訶不思議だけど、居心地のいい人だ。
もしはじめに出会ったのがトールさんのほうだったら……。
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