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しおりを挟む「トールは……あるとしたら奇才だろうな」
「ふぅん?」
「あいつは劇作家より友達作りの方が才能あると思う。あのイドラ嬢を連れて帰れるのはあいつくらいだよ」
ノアさんと暇をみて電話をするようになった。
トールさんの原稿を読んでいるというと、ノアさんは上のように語った。
「そろそろ時間だ……また連絡する。マーヤにとりついでもらうからね」
「うん」
私はマーヤをこの関係に巻き込んでしまった。
うちには使用人が多くない。電話はマーヤが受けるか、べつの者が出ればマーヤへの電話だと偽ることに決めた。
優しい彼女はお嬢さまが望むならと協力してくれた。すこし良心が痛む。
「じゃあおやすみ、愛してる」
ノアさんはいつもそう言う。私はどこかでカーリンの夫とこの人は別人なのではないかと思いはじめていた。
受話器を置いてランプを持ち上げ部屋へ向かう。
ところが玄関に人影がある。ちょうど帰宅した兄のエミルと鉢合わせてしまった。
「起きてたのか?」
「はい、ちょっと……本を読んでて」
「本って何の本だ?」
「……ええと、本というか友人の知り合いのかたが書かれた脚本なんです」
「脚本? お前そんな知り合いがいるのか」
今日に限ってやたらと食い下がる。私はボロが出ないか不安になってきた。
「わ、私の知り合いではなく友人の……」
「ふぅん、まぁ芸術に興味があるのも悪くない」
おや? と思った。兄は機嫌が悪くなさそうだ。
表情もどこか穏やかにみえる。表情が穏やかだと顔立ちの優しさや、明るい金髪とすきとおる薄い碧眼の美しさがきわだつ。
「お兄さま、今日はどちらへ行かれていたんですか?」
「付き合いさ……この間も言っていたな。気になるか?」
言われてハッとした。兄は何日も前、朝食の時した話を覚えていたのだ。私の言うことなんか聞いていないと思っていたからおどろいた。
「お前も来るか?」
「えっ!?」
「そろそろ人生経験があってもいいだろう。そうだな……」
兄はしばらく考えて準備をしておけと言った。
なんの準備なのかまだわからない。兄の話はとにかくわかりにくい。
どこに行くのか二度も聞いて答えてもくれない。その上、連れて行くから準備をしろとはさすがに横暴だ。
私は一体どこへ行くのだ!
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