n.(R18・完結)

ちゃあき

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「トールは……あるとしたら奇才だろうな」
「ふぅん?」
「あいつは劇作家より友達作りの方が才能あると思う。あのイドラ嬢を連れて帰れるのはあいつくらいだよ」

 ノアさんと暇をみて電話をするようになった。
 トールさんの原稿を読んでいるというと、ノアさんは上のように語った。

「そろそろ時間だ……また連絡する。マーヤにとりついでもらうからね」
「うん」

 私はマーヤをこの関係に巻き込んでしまった。
 うちには使用人が多くない。電話はマーヤが受けるか、べつの者が出ればマーヤへの電話だと偽ることに決めた。

 優しい彼女はお嬢さまが望むならと協力してくれた。すこし良心が痛む。

「じゃあおやすみ、愛してる」

 ノアさんはいつもそう言う。私はどこかでカーリンの夫とこの人は別人なのではないかと思いはじめていた。



 受話器を置いてランプを持ち上げ部屋へ向かう。

 ところが玄関に人影がある。ちょうど帰宅した兄のエミルと鉢合わせてしまった。

「起きてたのか?」
「はい、ちょっと……本を読んでて」
「本って何の本だ?」
「……ええと、本というか友人の知り合いのかたが書かれた脚本なんです」
「脚本? お前そんな知り合いがいるのか」

 今日に限ってやたらと食い下がる。私はボロが出ないか不安になってきた。

「わ、私の知り合いではなく友人の……」
「ふぅん、まぁ芸術に興味があるのも悪くない」

 おや? と思った。兄は機嫌が悪くなさそうだ。
 表情もどこか穏やかにみえる。表情が穏やかだと顔立ちの優しさや、明るい金髪とすきとおる薄い碧眼の美しさがきわだつ。

「お兄さま、今日はどちらへ行かれていたんですか?」
「付き合いさ……この間も言っていたな。気になるか?」

 言われてハッとした。兄は何日も前、朝食の時した話を覚えていたのだ。私の言うことなんか聞いていないと思っていたからおどろいた。

「お前も来るか?」
「えっ!?」
「そろそろ人生経験があってもいいだろう。そうだな……」

 兄はしばらく考えて準備をしておけと言った。
 なんの準備なのかまだわからない。兄の話はとにかくわかりにくい。

 どこに行くのか二度も聞いて答えてもくれない。その上、連れて行くから準備をしろとはさすがに横暴だ。

 私は一体どこへ行くのだ!
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