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後編
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しおりを挟む哀しい想い出が語られたせいかいつか小雨が降りはじめた。
僕と石動氏は下駄屋のご主人を見送ってから橋にのぼり、やるせない思いで小川をみつめた。
「石動くん話をきくのが上手じゃないか」
「そうか?しかしあんまり好きじゃない」
どちらかといえば彼は無口だ。
言葉より心のほうが達者な人のようだった。
芙美さんは親のいいなりになった男を恨んで自殺した。
それから40年間この橋に魄をのこして嘆き続けている。
それ以上なにがあるというのだろう。
石動氏は納得いかないようで雨だれに撃たれる水面を黙ってみつめていた。
「倉科。お前なら女にふられたはらいせに死んだとして、40年も同じ場所でメソメソできるか?」
「想像もつかないなあ。僕はよくふられるけどあんまりメソメソはしない。でも女の人って恨みが深いっていうじゃない?」
パブのサヨちゃんだって何度もデートにさそうけどいまだそでにされるばかりだ。それを気にしたことはない。
そういうと、石動氏はお前はそうだろうなと皮肉に眉をあげた。
「僕は変わってるかな?」
「変わってる。すごく変わってる」
石動氏は食い気味にそういった。
そしていう、おかしいお前がそうだと判断することはやはり間違いだ。まともな芙美さんにはなにか違う事情があるはずだと。
無礼な理屈だ。
「石動先生は考えすぎじゃないの………あ、うわっ!」
「おい気をつけろ」
僕は雨でぬれた橋げたに足を滑らせしりもちをついてしまった。
石動氏があきれ顔で立たせてくれた。着物が濡れて気持ち悪い。
「間抜けめ」
「すべる橋げたが悪い」
「責任転嫁にもほどが…………」
石動大全はふと黙った。
黙った時間がこれまでになく長かった。
おかしいと感じ何度か話しかけたが反応がない。
しばらくして僕もこれは特別なことが起きていると悟った。
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