52 / 73
23.昇り損ねた天国
2
しおりを挟む
□□□
「言っただろう中尉、気を付けろと」
ヒンスはハッと気がついた。
すると雨と朝露に濡れた芝生のうえへ体をよこたえていた。
墓所のまえの広場だった。目のまえにすでに施錠され、柵の閉じたシューベルグ家の墓がある。
となりにシノムが座っていて、ヒンスが目をさましたのに気付き大丈夫かと声をかけた。
「悪かった。扉を閉めて火を焚いてしまったでしょう? 僕たちは酸欠だったみたいだ」
気絶したヒンスをシノムがここまで引きずってくれたらしい。
動物に襲われるとあぶないから、目覚めるまで待っていたと語る彼に礼をいった。
芝生のまんなかで冷たい小雨が降る天を見上げながら、はたしてすべては窒息がみせた夢だったのかとヒンスはしばし思案した。
シノムに似た……しかし、悪魔というより天使に似た少女のような魔物と出会った。
「……ペルルは……」
「真珠? 覚えていますか?」
その言葉におどろいてシノムを見あげた。
先ほどの少女とどこか似ているまなざしがヒンスを見下ろす。
それから"聖像をおぼえているのか? "とシノムはいいなおした。
何でも墓所内の祭壇にマレーで獲れたという巨大な真珠で作られた、20tumほどの女体の聖像があるらしい。
まさか酸欠で真珠を女とみまちがえたのか……。
「そういえば伯爵の祖父母の棺は?」
「ああ、祖父の棺にはたしかに祖父が。ヘルミとかかれた棺には白髪の遺体がありました。
さいごの棺は……金髪の女性の亡骸でした」
「ミイラか?」
「そうです。長い年月をへてひからびた……しかし、あれはたしかに父の兄姉じゃなかった」
美貌の亡骸もおそらくは夢だったようだ。
戦利品はそれからこれだけとシノムは茶色いノートをみせてくれた。祖父シノムの日記帳だ。
「帰りましょう中尉。夜があけてしまった」
シノムにうながされヒンスは立ちあがる。
ふと靴底に朽ちかけたやわらかな枯葉がつまっていると気がついた。
墓所までの道は整備され踏みかためられていたが……。
城へむかうときすでにこうなったのかもしれない。
もはや真偽はわからないが、天国へはいきそびれたのだとヒンスは理解した。
□□□
「言っただろう中尉、気を付けろと」
ヒンスはハッと気がついた。
すると雨と朝露に濡れた芝生のうえへ体をよこたえていた。
墓所のまえの広場だった。目のまえにすでに施錠され、柵の閉じたシューベルグ家の墓がある。
となりにシノムが座っていて、ヒンスが目をさましたのに気付き大丈夫かと声をかけた。
「悪かった。扉を閉めて火を焚いてしまったでしょう? 僕たちは酸欠だったみたいだ」
気絶したヒンスをシノムがここまで引きずってくれたらしい。
動物に襲われるとあぶないから、目覚めるまで待っていたと語る彼に礼をいった。
芝生のまんなかで冷たい小雨が降る天を見上げながら、はたしてすべては窒息がみせた夢だったのかとヒンスはしばし思案した。
シノムに似た……しかし、悪魔というより天使に似た少女のような魔物と出会った。
「……ペルルは……」
「真珠? 覚えていますか?」
その言葉におどろいてシノムを見あげた。
先ほどの少女とどこか似ているまなざしがヒンスを見下ろす。
それから"聖像をおぼえているのか? "とシノムはいいなおした。
何でも墓所内の祭壇にマレーで獲れたという巨大な真珠で作られた、20tumほどの女体の聖像があるらしい。
まさか酸欠で真珠を女とみまちがえたのか……。
「そういえば伯爵の祖父母の棺は?」
「ああ、祖父の棺にはたしかに祖父が。ヘルミとかかれた棺には白髪の遺体がありました。
さいごの棺は……金髪の女性の亡骸でした」
「ミイラか?」
「そうです。長い年月をへてひからびた……しかし、あれはたしかに父の兄姉じゃなかった」
美貌の亡骸もおそらくは夢だったようだ。
戦利品はそれからこれだけとシノムは茶色いノートをみせてくれた。祖父シノムの日記帳だ。
「帰りましょう中尉。夜があけてしまった」
シノムにうながされヒンスは立ちあがる。
ふと靴底に朽ちかけたやわらかな枯葉がつまっていると気がついた。
墓所までの道は整備され踏みかためられていたが……。
城へむかうときすでにこうなったのかもしれない。
もはや真偽はわからないが、天国へはいきそびれたのだとヒンスは理解した。
□□□
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
「聖女に丸投げ、いい加減やめません?」というと、それが発動条件でした。※シファルルート
ハル*
ファンタジー
コミュ障気味で、中学校では友達なんか出来なくて。
胸が苦しくなるようなこともあったけれど、今度こそ友達を作りたい! って思ってた。
いよいよ明日は高校の入学式だ! と校則がゆるめの高校ということで、思いきって金髪にカラコンデビューを果たしたばかりだったのに。
――――気づけば異世界?
金髪&淡いピンクの瞳が、聖女の色だなんて知らないよ……。
自前じゃない髪の色に、カラコンゆえの瞳の色。
本当は聖女の色じゃないってバレたら、どうなるの?
勝手に聖女だからって持ち上げておいて、聖女のあたしを護ってくれる誰かはいないの?
どこにも誰にも甘えられない環境で、くじけてしまいそうだよ。
まだ、たった15才なんだから。
ここに来てから支えてくれようとしているのか、困らせようとしているのかわかりにくい男の子もいるけれど、ひとまず聖女としてやれることやりつつ、髪色とカラコンについては後で……(ごにょごにょ)。
――なんて思っていたら、頭頂部の髪が黒くなってきたのは、脱色後の髪が伸びたから…が理由じゃなくて、問題は別にあったなんて。
浄化の瞬間は、そう遠くはない。その時あたしは、どんな表情でどんな気持ちで浄化が出来るだろう。
召喚から浄化までの約3か月のこと。
見た目はニセモノな聖女と5人の(彼女に王子だと伝えられない)王子や王子じゃない彼らのお話です。
※残酷と思われるシーンには、タイトルに※をつけてあります。
29話以降が、シファルルートの分岐になります。
29話までは、本編・ジークムントと同じ内容になりますことをご了承ください。
本編・ジークムントルートも連載中です。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
私ではありませんから
三木谷夜宵
ファンタジー
とある王立学園の卒業パーティーで、カスティージョ公爵令嬢が第一王子から婚約破棄を言い渡される。理由は、王子が懇意にしている男爵令嬢への嫌がらせだった。カスティージョ公爵令嬢は冷静な態度で言った。「お話は判りました。婚約破棄の件、父と妹に報告させていただきます」「待て。父親は判るが、なぜ妹にも報告する必要があるのだ?」「だって、陛下の婚約者は私ではありませんから」
はじめて書いた婚約破棄もの。
カクヨムでも公開しています。
プロミネンス~~獣人だらけの世界にいるけどやっぱり炎が最強です~~
笹原うずら
ファンタジー
獣人ばかりの世界の主人公は、炎を使う人間の姿をした少年だった。
鳥人族の国、スカイルの孤児の施設で育てられた主人公、サン。彼は陽天流という剣術の師範であるハヤブサの獣人ファルに預けられ、剣術の修行に明け暮れていた。しかしある日、ライバルであるツバメの獣人スアロと手合わせをした際、獣の力を持たないサンは、敗北してしまう。
自信の才能のなさに落ち込みながらも、様々な人の励ましを経て、立ち直るサン。しかしそんなサンが施設に戻ったとき、獣人の獣の部位を売買するパーツ商人に、サンは施設の仲間を奪われてしまう。さらに、サンの事を待ち構えていたパーツ商人の一人、ハイエナのイエナに死にかけの重傷を負わされる。
傷だらけの身体を抱えながらも、みんなを守るために立ち上がり、母の形見のペンダントを握り締めるサン。するとその時、死んだはずの母がサンの前に現れ、彼の炎の力を呼び覚ますのだった。
炎の力で獣人だらけの世界を切り開く、痛快大長編異世界ファンタジーが、今ここに開幕する!!!
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
世界樹とハネモノ少女 第一部
流川おるたな
ファンタジー
舞台は銀河系の星の一つである「アリヒュール」。
途方もなく大昔の話しだが、アリヒュールの世界は一本の大樹、つまり「世界樹」によって成り立っていた。
この世界樹にはいつからか意思が芽生え、世界がある程度成長して安定期を迎えると、自ら地上を離れ天空から世界を見守る守護者となる。
もちろん安定期とはいえ、この世界に存在する生命体の紛争は数えきれないほど起こった。
その安定期が5000年ほど経過した頃、世界樹は突如として、世界を崩壊させる者が現れる予兆を感じ取る。
世界を守るため、世界樹は7つの実を宿し世界各地に落としていった。
やがて落とされた実から人の姿をした赤子が生まれ成長していく。
世界樹の子供達の中には、他の6人と比べて明らかにハネモノ(規格外)の子供がいたのである。
これは世界樹の特別な子であるハネモノ少女の成長と冒険を描いた壮大な物語。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる