fの幻話

22.楽園は地下に

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　小枝を踏む音が聞こえた。足元はやわらかい腐葉土の斜面だ。

　ペルルという少女に手をひかれているとヒンスは気がついた。


「おい待て、どこへむかってる……？」

「金鉱を見にいくといっただろ」


　声の主はシノムだ。
　彼は手をひかれるヒンスとならんで歩いていた。

　そうか、さきほど墓所でペルルに出会いそんな話をしたのだ。

　金鉱は墓所から外れた森のむこうにあるらしい。

　森は真夜中で背の高い木々のあいだは霧雨にけぶっている。

　まつ毛に付着した水の玉がまばたきにはじけしたたった。

　ふふとペルルが笑う声がする。中尉は忘れっぽいんですねと。

　いつのまにか自分の身分まで明かしてしまった。


「ペルルの名は……ペルル・シューベルグ？」

「いいえ、わたしはまた別の名前」

「じゃあきみの名前は？」


　ペルルは笑って聞きとりづらい、聞いたことのない名をつげた。それはおそらくTからはじまる三つの音でできていた。

　シノムももとの名はそれなのかたずねると、おそらくはとこたえる。

　それは東の国の名前なのか……？

　なぜペルルだけいまだその名を名乗るのか……そう考えているうち、眼前には真っ暗な口をあけた巨大な洞窟が姿をあらわした。

　これが金鉱の入り口かと聞くとシノムは黙ってうなずく。

　それはまるでさきほどの墓所の入り口にも似ていた。



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