fの幻話

ちゃあき

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9. 伯爵に出会った老夫

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□□


「シューベルグ伯爵は男じゃないぞ」

「……どういう事ですか? 貴方は伯爵の知り合い?」


 やめろよと隣の中年の男が白髭の老人を制した。


「すみませんね。あんたたちずいぶん身なりがいいから、この辺りの人じゃないんでしょ? このじいさん酔っ払うと、ある事ない事風聴しちまうのさ。ここらじゃ皆知ってる。昔からそうだ」


 確かに赤ら顔だが嘘じゃないと老人は頑としてゆずらない。ヒンスが何とも言いかねていると、好奇心の強いザラがたずねた。


「どう言う事を言うんです? おじいさん。いつも」

「……え? まぁ、くだらない事だよ。この人はシューベルグ伯爵に会った事があって、伯爵は女だったと言うんだ」


 老人はうんうんと頷く。相方の中年男は呆れ顔だ。


「あり得ないだろう。今の世の中ならまだしも七十年も前に女伯なんて」

「そんなに昔?」

「それだけじゃない。儂は2度、女伯に会った。1度目は七十年前、物売りの親父の配達にしたがって城へ行った時。二度目は四十年前、儂は昔は郵便配達をしていたからな。まだあの城へ直接手紙を届けていた頃だ」

「2度とも女?」

「ああ、しかも姿形が全く同じ」

「……三十年経ってるだろう?」

「そうだ! だから伯爵は悪魔なんだよ!」


 金山を掘ったからあの世から悪魔が出てきたんだと老人は言った。

 伯爵は千年生きていて女で悪魔だ。そんな噂が確かにあった。

 ヒンスは不気味でしょうがなくなってきた。


「どう言う事なんだ。俺は男に会った。……おじいさん、せめて伯爵は緑の眼に黒い髪だったか?」

「いいや違う」

「じゃああれは誰だったんだ? おじいさんが会ったのは……?」


 ヒンスは額に手を当てる。ザラも両掌を上に向けて肩をすくめるしかなかった。


「じゃあおじいさん。伯爵はどんな女の人だったの?」

「黒髪じゃなかったよ。金髪さ」


 『あんたみたいに金髪で青い瞳の女だったよ』と老人はヒンスを指して言った。
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