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第2章勇者と聖剣編

42 歩み寄り

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 150年前の話を終えたユーライアは、語るのをやめ静かに呼吸する。魂は神族だが、身体は生身の人間なのでやはり体力にも限界はあるようだった。

「君はこの身体の持ち主の大事な弟、やっと見つけたのだ。彼との約束を果たさないといけないのに・・・」
「俺の本当の名前、シャーナって言うのか・・・いや、でも聖剣には今更ちょっとなれないかな」
「では人の国の終わりを見守りながら生きるといい」
「ええっ!そうなの!?なぁ、アディって人間の国滅ぼすのか?」
「俺は別に人間とも神族ともいざこざを起こす気はないが、勝手にお前達が毛嫌いしているだけだろう」
「・・・だってさ?」
「・・・」

 発端は今ではもうわからないが、この世界の種族は過去よりも未来を見据えていくべきだろう。ユーライアのように、神族だが人の力となろうとする者もいるならば。
 セナは沈黙を貫こうとするユーライアの手をそっと握ってやる。

「なぁ、あんたの身体が俺の兄貴だとしても心はあんたのままだろ?一度会っただけの子供のためにここまでできるあんたなら、聖剣なんてなくてもいいんじゃないか」
「それでは人の国は納得しないだろうね」
「えーと、あれは?不可侵条約とか」
「隠れていては歩み寄りようもないな」
「じゃあ、外交で!魔族と人間の代表同士でお互いの国について話し合うとか」
「・・・なるほど」
「話し合いか・・・我が国には話の通じぬ魔族もいるがそこは捩じ伏せるしかあるまい。俺のできる限りの力で、セナの意思を尊重しよう」

 簡単なことではないが、まずは話し合いからの精神で始めるのが今の状況であった。幸いにも、ここには魔族と人間の国のトップに相応しい人物が揃っている。
 アディはセナの提案に一つ返事はしないものの、否定もしないので了承したようだ。

「大丈夫だよ、あんたの聖剣はそこに居るだろ?本物とか偽物とか意味ないよ」
「・・・・」

 セナはユーライアに寄り添う、天使エレスタエルを見つめる。エレスタエルは優しい笑みで、セナに応えた。

「セナ君、いつかクラリシス王国へ赴いてくれるだろうか?君の生まれた国に」
「あ~、そうか。俺の本当の?故郷になるんだよな。うん、行くよ!絶対に行くから」
「よかった」
「良くはない」
「アディ?」
「俺は、貴様がセナに触れた事だけは許す気はないぞ」
「そういえば、船で変態行為を受けたな。しかも兄貴の身体で俺もそれは許さないに、一票」
「単純に私としての好みだからね」
「変態は一人で十分だよ」

 セナは複雑な心境だが、ユーライアを心底嫌いにはなれないので穏便に事を納めることにした。

 

 その後、ユーライア達はクラリシス王国へと戻りまずは外交という方法から始めていくようだ。
 一方セナ達も、リドレイとロビと合流し魔王城へと戻る。門の前には日傘を挿しながら青い顔したジゼが待っていた。吸血鬼なので日差しに弱いというのに。

「ジゼ!あんたずっとそこで待ってたのかよ」
「・・・ぅッ・・・セナ、よく・・戻りました・・・ッ」
「無理するなよ、日光に弱いんだから」
「大事な生徒と魔王陛下の為ならば、日光など平気です」
「うむ、留守中ジゼもよく耐えた」
「有り難きお言葉」


「とりあえず、みんな・・・ただいま」


 セナは家も同然の魔王城を見上げた。

「ピヨ~!」
「お帰りなさいませ、セナ」
「セナさまぁ~、お帰りなさ~い」
「おう、お帰りセナ」
「よく戻った、セナ」

 アディはそんなセナの手をそっと握ってやる。珍しく微笑んで、セナを見つめるのだった。セナも照れくさそうに、アディに笑って応えてあげる。
 そのまま魔王城へと手を繋ぎながら進んでいくと、周りがギュウギュウとセナを囲む。

「ピヨ~!ピヨ~!」
「おい、テメェら!勝手にいい雰囲気になるな、俺様を無視すんな!」
「セナさまぁ~、僕も手を繋ぎます~♡」
「・・・ぅっ、セナ!貧血です、先生を介抱して下さい!」
「黙れ、お前達。セナと手を繋ぎたければ、まずは魔王になってからにしろ」
「あ、そうだった。俺も早く魔王倒す訓練しないと!えーと、ジゼ~。まずは魔法の基礎から教えてくれよ」

 この日、魔王城はいつもより賑やかに主とその仲間達を迎えるのであった。
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