転生したら溺愛騎士の魔剣

れく高速横歩き犬

文字の大きさ
上 下
24 / 41
2章 名前のない魔王編

23美幼女の危険なお散歩

しおりを挟む
 ハルバースタム団長の愛娘ユーリエ・チェインの散歩の護衛という簡単な任務とはいえ、大貴族の大事な令嬢にもしもの事があったらただではすまない。ましてや目に入れても痛くないほど娘を溺愛していると評判のハルバースタム団長の子供だ。
 イオはあまり乗り気ではないが、王都に行けば仕事姿のヴェルジークに会えるかもと少しだけワクワクした。そして無理を言ってエオルにも着いて来てもらった。

「ゴメンな、エオル。子供の相手とか、なんか心細いから」
「ぁ、ううん・・・平気。弟達の面倒とか昔は見てたし」
「そうなんだ?エオルはお兄ちゃんなんだな」
「・・・・うん」
「?」
「お、着いたぞ。チェイン侯爵家」
「いよいよ・・・あのハルバースタムさんの子供とか、どんな子だろ。やっぱり声は大きのかな」

 ハルバースタム団長と言えば、あの大きな声が特徴なのでその遺伝子が娘に伝承されていたらどうしようとイオは構えた。チェイン侯爵家の執事に客室へ案内されると、アンティークな質の良いソファーに女の子が品良く座っていた。
 ユーリエ・チェインは、緩く巻いた焦げ茶色の髪をツインテールにしていて瞳はエメラルドのような緑色をした5歳にしては貴族としての品格を漂わせていた。あと数年もすれば絶世の美少女になるに違いない。

「よかった、普通に可愛い子だ」
「聖騎士団、フリエス・ゾラ。ユーリエ・チェイン嬢の護衛としてお迎えに馳せ参じました」
「ジー・・・・」
「?」

 美幼女ユーリエが、フリエスとイオとエオルをジッと見回している。そしてその可憐な唇をついに開いた。

「フリエスは中の上。黒髪の人は目は綺麗だけど平凡。白髪の人はもやしね」

 開口一番に何を言うかと思えば、ユーリエは3人を値踏みしていた。

「!!!」
「さすがユーリエ嬢、見所がおありですね」
「も、もやし・・・」
「当然よ!わたしほど賢くて天使のように可憐な存在と同行しようというのよ?目に叶う人でなければならないのよ」
「私どもはお目に叶いましたか?」
「そうね、まぁまぁかしら。本当はヴェルジーク様がよかったのにお忙しいと断られてしまったの・・・未来の妻に対して罪なお方よね」
「それはいけませんね」
「そうでしょう。フリエスはなかなか見所あるわね」
「至極光栄でございます」

 天使のようなユーリエの上から目線な高飛車さと失礼極まりない発言に絶句しながら、あのチャラいフリエスがまともに敬語使ってるとか誰だこのイケメンはとイオは心底驚きだった。
 でも貴族だろうと、言っていい事と悪い事の分別はわからせないといけない。

「君は確かに貴族で偉い立場かもしれないけど、人を傷付ける人は上には立つ資格はないんだよ」
「なんの事かしら?」
「エオルを、もやしって言った。エオルは君達帝国貴族の大事な民だ。そして何より友達を傷付けるのは許せない」
「なんなの、貴方。わたしは本当の事を言ったのよ。庶民に指図される覚えはないわ。貴方は要らないから帰ってちょうだい」
「あのね、君!」

『・・・・こやつ我が魔王に対して何たる侮辱!叩き斬ってもよいか!?』

(ダメだよ、ケンさん)

 ケンさんは敬愛する主である魔王とイオを侮辱され、怒り心頭のようだ。イオは小声でケンさんをなだめようとする。
 するとユーリエが、突然立ち上がりキョロキョロと辺りを見回した。

「今の声、なんですの?」
「・・・まさかケンさんの声が聞こえるのか」

 魔剣の声は、魔族と魔力が高い者にしか聞こえないようなのでユーリエは人間なので魔力が高い者と言う事になる。それに気付いたケンさんも、黙り込み迂闊に喋る事ができなかった。

「気のせいかしら?まぁいいわ、さっそく出かけるわよ」
「ユーリエ嬢、本日はどちらへ?」
「もちろんヴェルジーク様の所よ!」
「え、ヴェルジークのとこに・・・」
「ほら、未来の妻としては夫の仕事を理解して支えて差し上げるのが良妻賢母ってものじゃない?それに最近はなかなかこちらに顔を見せてくださらないし」
「・・・団長が睨みきかせてますからね」
「え、そうなんだ」
「将来有望な美少女になりそうなのに、あの性格残念だ」

 フリエスがボソボソとその理由を言うに、どうやらハルバースタムが愛娘に悪い虫が付かないか見張っているようだ。そして箱入り娘として育てられたユーリエが、ワガママ高飛車令嬢へと進化したわけである。

「なにぼさっとしているの?早く護衛しなさいよ」
「かしこまりました」
「フリエス・・・」
「これも処世術だよ、イオ」

 騎士も大変だなとイオは思いながらも、ヴェルジークに会ったらどうしようと困惑もしていた。ユーリエは未来の妻と言っていた。貴族ならお互い同意がなくても、親同士の意向でお見合いとかでも結婚か決まってしまうからだ。しかも相手はちゃんと女性だ。男のイオでは、届かない壁があった。
 重い足を引きずるように、イオはエオルとユーリエの後ろを歩く。前はフリエスが先導していた。


 まず向かったのは、キーダの仕立て屋の店だった。キーダ・コレッタは王都でもトップの実力を持つ優秀な人気服職人である。フリエスはうやうやしく店の扉を開けると、キーダがくねくねと歩いて来た。

「いらっしゃいませ~ん!まぁまぁ、これはこれはユーリエ様。ようこそお越しくださいました」

 キーダの独特な女性のような口調と、派手なピンクの七三分けヘアーに妖精のような綺麗な水色の瞳は相変わらずだった。

「キーダ、わたしに似合う服を見立ててちょうだい!これからヴェルジーク様の所に行くのよ。あの方は派手なものは好まないから、気品溢れてかつ優雅なものを頼むわ」
「かしこまりましたぁん。お茶を用意しますわぁ。あら?イオちゃんじゃないの~♡」
「お久しぶりです、キーダさん。相変わらず綺麗な水色の瞳ですね」
「きゃ~♡もうイオちゃんったら、食べちゃうわよ!」
「いや、それは遠慮します」
「キーダと知り合いなの?」
「前にヴェルジーク様がお連れになって、服を見立てて差し上げたのよぉ」
「あの時の服は大事に取っといてあります」
「嬉しいわぁ。今は何してるのぉ?」
「はい、ヴェルジークさんの屋敷で使用人をしています」
「まぁ!それはいいわねぇ♡あ、そうだわ、後で服を届けるから是非着てちょうだい」
「いいんですか?」
「就職祝いよ♡」

 キーダは綺麗にウィンクしてみせた。

「ヴェルジーク様が、この平凡に服を・・・」

 何やらギリギリと恐ろしい歯ぎしりの音が聞こえるが、イオは目を逸らした。直視したら面倒くさい事になる予感しかなかったからだ。
 その後キーダが仕立てた服を、ユーリエは気に入ったようで満足しながら店を出た。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

【完結】魔王様、溺愛しすぎです!

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
「パパと結婚する!」  8万年近い長きにわたり、最強の名を冠する魔王。勇者を退け続ける彼の居城である『魔王城』の城門に、人族と思われる赤子が捨てられた。その子を拾った魔王は自ら育てると言い出し!? しかも溺愛しすぎて、周囲が大混乱!  拾われた子は幼女となり、やがて育て親を喜ばせる最強の一言を放った。魔王は素直にその言葉を受け止め、嫁にすると宣言する。  シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264) 挿絵★あり 【完結】2021/12/02 ※2022/08/16 第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過 ※2021/12/16 第1回 一二三書房WEB小説大賞、一次審査通過 ※2021/12/03 「小説家になろう」ハイファンタジー日間94位 ※2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過作品 ※2020年8月「エブリスタ」ファンタジーカテゴリー1位(8/20〜24) ※2019年11月「ツギクル」第4回ツギクル大賞、最終選考作品 ※2019年10月「ノベルアップ+」第1回小説大賞、一次選考通過作品 ※2019年9月「マグネット」ヤンデレ特集掲載作品

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

処理中です...