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1章 メリュジーナ侯爵家編
13メリュジーナ侯爵家
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翌朝イオが目覚めると、ベッドにはヴェルジークの姿はなかった。机の上に何か文字が書かれた紙が置かれていたが、読めない。この世界の言葉は理解できても、文字は読めなかった。
魔剣のケンさんに聞こうと、包んでいた布を取る。
「おはよう、ケンさん」
『おぉ、我が主よ。朝から主の顔を拝めてラッキーとか今日は我を磨いてくれるのだろうかとか、邪な事は微塵も思っておらぬからな!』
「思ってたんだね。それよりこのメモ、なんて書いてあるか読める?」
『・・・愛する人イオ』
「えっ・・・」
『愛する人、イオ。よく眠れただろうか、君を一人残してベッドを離れた事許して欲しい。騎士としての勤めを果たしてくる。朝食はフリエスと食べなさい。君の愛らしい口が他の者の目に止まると思うと気が気でない。また後ほど迎えに行く。ヴェルジーク=メリュジーナ』
「・・・」
『ハッ!歯に浮くセリフばかり並べおって、三流の詩人かこやつ』
「見た目に反してポジティブだな、ヴェルジーク」
どこからかどう見ても恋文にしか見えないメモの内容である。イオはこの話は置いておいて、朝食を食べる為にこれまたヴェルジークが用意して置いた服に着替えてケンさんを手に持ち廊下に出る。
なんとなく覚えていた食堂の方へ向かうと、前から騎士が歩いて来た。食堂や神殿でイオを罵倒して来たあの嫌味な騎士だ。
「あ」
「・・・お前には手を出すなと団長から言われている。だが俺は認めないからな。お前はやはり危険な魔剣の所有者だ。魔族ではないという確証がない限り、どこに居てもそういう存在だと扱われるのは覚悟しておけ」
「・・・はい、ありがとうございます」
「ぅッ・・・ふんっ」
イオの紫の瞳に見据えられて、嫌味な騎士は一瞬たじろぐがそそくさとその場を立ち去る。ヴェルジークやアーシア陛下のように気を良くしてくる者も居るが、フリエスや先程の騎士のように疑う者もいるのだ。騎士達にも刃を向けられた事もある。
この世界にとって異端な自分がどこまでやれるのかと、立ち止まりそうになった。
『我が主、お前には我が居る』
「ありがとう、ケンさん」
「おーい、イオ~」
後ろから声がして振り返るとフリエスが爽やかに手を振って走って来た。
「朝食行こうぜ、ヴェルに頼まれた」
「うん」
「どうした?」
「なんでもない。お腹空いたな」
「そうか」
フリエスと合流し食堂へ向かうと、魔剣まで持って来たイオに明らかに騎士達は警戒した。あまり気にしないようにして席に付くと、フリエスがそっと耳打ちしてくる。
「あのさ、どこまでヴェルといった?」
「え?なにが?」
「めちゃくちゃキスマーク見えるんだけど、その首元開いた服だと」
「えっ!?」
バッと胸元を見ると確かに見える範囲からキスマークが覗いていた。イオは昨夜何かあった事をフリエスに勘づかれ赤面する。
「こ、コレは虫だよ、虫!ダニかな!」
「ふーん、でっかい虫だな」
「後でファブリーズ撒かないとね!」
「ふぁ・・りーず?」
「うん、なんでもない!あのさ、ヴェルジークってモテる?」
「モテるに決まってんだろ。でも長続きはしないな」
「え、なんで?」
「俺もよく知らないけど、ヴェルが恋人に構いすぎるって話はよく聞く」
「へぇ・・・」
確かに昨夜の様子から見ると、ヴェルジークは恋人になった相手に対して甲斐甲斐しく独占欲も強そうだ。だが愛が重いという理由だけで真面目で男前な将来有望そうなヴェルジークを手放した者達は、どこまで内面を見て別離にまで至ったのだろうかと思った。
「まぁ、俺ならヴェルが変態だろうと廃人だろうと捨てないけどな」
「え」
「朝食食べたら荷造りしろよ。明日出発だからな」
「う、うん」
フリエスはもしかしてヴェルジークの事が好きなのだろうかと、イオは思った。
その後勤めとやらを終えたヴェルジークがイオを迎えに来て、明日の荷造りを一緒に始めるのだった。恋人の話題に関してはめちゃくちゃ避けた。
さらに翌日、荷造りを終えたイオはいよいよヴェルジークの屋敷であるメリュジーナ侯爵家へ出発する事になる。護衛には数名の騎士が付けられた。
馬車で揺られること数時間で、屋敷へと到着する。侯爵家はヨーロッパの貴族のような立派な屋敷だった。庭付きである。馬車を降りると屋敷の扉が待っていた使用人達によって開けられ、イオは腰に手を回されてヴェルジークに促される。
「お帰りなさいませ、旦那様」
「あぁ、帰ったぞ。ティオドール」
(執事かな?セバスチャンじゃないんだ)
執事の登場にイオは心の中で、執事の名前はセバスチャンという法則は破られたようだ。
ティオドールという執事は、灰色の髪を後ろに背中の真ん中まで三つ編みし翡翠の瞳が鋭利な刃物のように時折鈍く光っていた。初老であるが只者ではなさそうだと、平凡なイオにも伝わる。
「旦那様、こちらが書状で伺っていた新しい使用人でしょうか」
「そうだ、彼はイオ。色々と指南してやってくれ。イオ、彼はティオドールという。分からない事は聞きなさい」
「・・・よろしくお願いします」
「ふむ。イオさんですか」
一瞬睨まれた気もするが、お世話になる相手への礼儀はしっかりしないといけない。イオは深々とお辞儀した。
「腰の角度が甘いです」
「えっ」
「ティオドール、来たばかりで厳しくするのは」
「旦那様、このティオドールがこの青年を立派な使用人に躾けてみせます」
イオは、執事ティオドールに前途多難な使用人生活の未来が見えた。
魔剣のケンさんに聞こうと、包んでいた布を取る。
「おはよう、ケンさん」
『おぉ、我が主よ。朝から主の顔を拝めてラッキーとか今日は我を磨いてくれるのだろうかとか、邪な事は微塵も思っておらぬからな!』
「思ってたんだね。それよりこのメモ、なんて書いてあるか読める?」
『・・・愛する人イオ』
「えっ・・・」
『愛する人、イオ。よく眠れただろうか、君を一人残してベッドを離れた事許して欲しい。騎士としての勤めを果たしてくる。朝食はフリエスと食べなさい。君の愛らしい口が他の者の目に止まると思うと気が気でない。また後ほど迎えに行く。ヴェルジーク=メリュジーナ』
「・・・」
『ハッ!歯に浮くセリフばかり並べおって、三流の詩人かこやつ』
「見た目に反してポジティブだな、ヴェルジーク」
どこからかどう見ても恋文にしか見えないメモの内容である。イオはこの話は置いておいて、朝食を食べる為にこれまたヴェルジークが用意して置いた服に着替えてケンさんを手に持ち廊下に出る。
なんとなく覚えていた食堂の方へ向かうと、前から騎士が歩いて来た。食堂や神殿でイオを罵倒して来たあの嫌味な騎士だ。
「あ」
「・・・お前には手を出すなと団長から言われている。だが俺は認めないからな。お前はやはり危険な魔剣の所有者だ。魔族ではないという確証がない限り、どこに居てもそういう存在だと扱われるのは覚悟しておけ」
「・・・はい、ありがとうございます」
「ぅッ・・・ふんっ」
イオの紫の瞳に見据えられて、嫌味な騎士は一瞬たじろぐがそそくさとその場を立ち去る。ヴェルジークやアーシア陛下のように気を良くしてくる者も居るが、フリエスや先程の騎士のように疑う者もいるのだ。騎士達にも刃を向けられた事もある。
この世界にとって異端な自分がどこまでやれるのかと、立ち止まりそうになった。
『我が主、お前には我が居る』
「ありがとう、ケンさん」
「おーい、イオ~」
後ろから声がして振り返るとフリエスが爽やかに手を振って走って来た。
「朝食行こうぜ、ヴェルに頼まれた」
「うん」
「どうした?」
「なんでもない。お腹空いたな」
「そうか」
フリエスと合流し食堂へ向かうと、魔剣まで持って来たイオに明らかに騎士達は警戒した。あまり気にしないようにして席に付くと、フリエスがそっと耳打ちしてくる。
「あのさ、どこまでヴェルといった?」
「え?なにが?」
「めちゃくちゃキスマーク見えるんだけど、その首元開いた服だと」
「えっ!?」
バッと胸元を見ると確かに見える範囲からキスマークが覗いていた。イオは昨夜何かあった事をフリエスに勘づかれ赤面する。
「こ、コレは虫だよ、虫!ダニかな!」
「ふーん、でっかい虫だな」
「後でファブリーズ撒かないとね!」
「ふぁ・・りーず?」
「うん、なんでもない!あのさ、ヴェルジークってモテる?」
「モテるに決まってんだろ。でも長続きはしないな」
「え、なんで?」
「俺もよく知らないけど、ヴェルが恋人に構いすぎるって話はよく聞く」
「へぇ・・・」
確かに昨夜の様子から見ると、ヴェルジークは恋人になった相手に対して甲斐甲斐しく独占欲も強そうだ。だが愛が重いという理由だけで真面目で男前な将来有望そうなヴェルジークを手放した者達は、どこまで内面を見て別離にまで至ったのだろうかと思った。
「まぁ、俺ならヴェルが変態だろうと廃人だろうと捨てないけどな」
「え」
「朝食食べたら荷造りしろよ。明日出発だからな」
「う、うん」
フリエスはもしかしてヴェルジークの事が好きなのだろうかと、イオは思った。
その後勤めとやらを終えたヴェルジークがイオを迎えに来て、明日の荷造りを一緒に始めるのだった。恋人の話題に関してはめちゃくちゃ避けた。
さらに翌日、荷造りを終えたイオはいよいよヴェルジークの屋敷であるメリュジーナ侯爵家へ出発する事になる。護衛には数名の騎士が付けられた。
馬車で揺られること数時間で、屋敷へと到着する。侯爵家はヨーロッパの貴族のような立派な屋敷だった。庭付きである。馬車を降りると屋敷の扉が待っていた使用人達によって開けられ、イオは腰に手を回されてヴェルジークに促される。
「お帰りなさいませ、旦那様」
「あぁ、帰ったぞ。ティオドール」
(執事かな?セバスチャンじゃないんだ)
執事の登場にイオは心の中で、執事の名前はセバスチャンという法則は破られたようだ。
ティオドールという執事は、灰色の髪を後ろに背中の真ん中まで三つ編みし翡翠の瞳が鋭利な刃物のように時折鈍く光っていた。初老であるが只者ではなさそうだと、平凡なイオにも伝わる。
「旦那様、こちらが書状で伺っていた新しい使用人でしょうか」
「そうだ、彼はイオ。色々と指南してやってくれ。イオ、彼はティオドールという。分からない事は聞きなさい」
「・・・よろしくお願いします」
「ふむ。イオさんですか」
一瞬睨まれた気もするが、お世話になる相手への礼儀はしっかりしないといけない。イオは深々とお辞儀した。
「腰の角度が甘いです」
「えっ」
「ティオドール、来たばかりで厳しくするのは」
「旦那様、このティオドールがこの青年を立派な使用人に躾けてみせます」
イオは、執事ティオドールに前途多難な使用人生活の未来が見えた。
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